認知症 明日へ
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[続・本人の思い]住み慣れた地で愛犬と
独居支えるチーム
認知症で、一人暮らしを続ける滋賀県東近江市のタエさん(78)(仮名)は、住み慣れた自宅で近所の友人とおしゃべりを楽しみ、愛犬テツと散歩に出かける。
そんな日々をできるだけ続けたいと願う彼女と、生活を支える医療福祉チームを1年ぶりに再訪した。
豊かな自然に囲まれた東近江市永源寺地域。先月末、タエさんの介護保険の要介護度(要介護2)が更新されたのを機に、永源寺診療所に医療・介護サービスの担当チームが集まり、経過報告とともにケアの方針を話し合った。
「食生活もヘルパーさんのお陰でだいぶ改善され、大きな問題もなく落ち着いていると思います。ただ、火の始末ですが……」
ケアマネジャーの佐藤陽一さんが、冬場にタエさんがハロゲンランプ暖房器の上に洗濯物を直接置いて乾かしていたので、火事の危険から電気温風器に変えたと報告した。ヘルパーの森二三子さんは「訪問時にガスコンロの火が付けっ放しのことがあった」と指摘。これまでも、火を使う調理はヘルパーが全て行い、お湯は毎朝、電気ポットに入れることにしていた。だが、タエさんはそれを忘れ、好物のカップ麺のお湯を沸かしていたと言うので、「毎朝、ポットに入れていることを説明し、ガスの元栓を閉めることにしました」と付け加えた。
約20年前に夫を亡くし、子供のないタエさんは、長年1人で暮らしてきた。4年前、持病の診察を忘れることが続き、かかりつけの花戸貴司医師がアルツハイマー型認知症と診断した。
当時、自宅はカップ麺の食べかすや汚れた衣類が散乱した状態だった。だが、「生まれ育ったこの地域で暮らしたい」というタエさんの希望を受け、関係者が連携して生活環境を整備。現在、毎日朝夕の訪問介護と週1回のデイサービス、月1回の訪問診療と薬剤師訪問のほか、金銭管理は社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を利用している。
地域の視線も温かい。物忘れが進むタエさんは、愛犬テツと何度も出かけることがある。都会では
この冬はタエさん宅が友人のたまり場となり、「一人暮らしといっても多くの人に支えられ、おばさんも気持ちよく生活できているのでありがたい」と、近所に住む
ただ、タエさんを支えるチームには心配な点もある。一つは認知症の進行だ。
最近、特定のヘルパーに「皿を持って帰った。訴える」と激しく攻撃することが何度かあった。花戸医師は「物
もう一つは、愛犬テツの健康問題だ。タエさんは「子犬の時からずっと一緒や。おらんとさみしいわ」と目を細め、散歩とテツの体拭きを欠かさない。そんな様子に、看護師の横田富美子さんは「テツは見た目は犬だけど、タエさんの家族であり、彼女を支えるキーパーソン」と強調する。それだけに、2月にテツが尻尾をひかれる交通事故に遭った際、「テツが死んだらタエさんの生活はどうなる」とチーム全員が心配した。
この日の会議でも、狂犬病の予防接種を最近受けていないことに気付いた佐藤さんが、往診してくれる獣医師を探し、注射の予約をしたと報告。笑顔を浮かべて、「年齢も13歳と、人間でいえば70~80歳の高齢なので、調子が悪いなど何かあったら報告して下さい」と話し、真剣な議論が続いた。
「病気だけを診るのではなく、その人の生活を支えるとは、こういうことでしょう」と花戸医師は言う。超高齢社会を迎え、タエさんのような独居の認知症高齢者も増えるなか、こんな地域が増えると安心だ。(本田麻由美、写真も)
※タエさんを取材した昨年の記事はこちらから。
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