石井苗子の健康術
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時計を描いて、認知症の進行を知る
(最初はそれで何が分かるのかと、不思議だったのですが…)
「紙に円を描いて、そこに数字を並べて時計にしてから、10時10分と針をさしてください」。 |
これは、認知症の進み具合を見る、非常に簡単なテストです。
どこまで正確に描けるかで、側頭葉、前頭葉、頭頂葉の衰えを検査することができます。
1. |
側頭葉は、言語や意味の記憶をつかさどります。つまり話を理解して記憶する所です。「時計を描いてください」と言われて、意味を理解できているかどうか検査することができます。 |
また、物の概念や数字の知識といったものも理解するところなので、認知症が進むと時計の概念というものがハッキリしなくなる。円がいびつな楕円形になってしまったり、円の形がいつまでも終わらずに線を描いていたり、時計の数字が1~12であることが分からなくなったり、順番が分からなくなってしまうということが起こります。
2. |
前頭葉は実行機能をつかさどる所で注意力や計画性、統括力などを支配します。 |
10時10分の長針・短針をどう完成させるかの計画性を頭で組み立てる能力を調べることができます。長針と短針の針の長さの違いを描く注意力も調べることができます。
3. |
頭頂葉は、視空間認知と言って空間的な配置を頭の中で考えるところです。 |
時計の数字の12と描いてその下に6、右横に3、その対面に9と間隔を正確に置いて描いていくことができるかどうか。
また10時10分を正確に言えれば、長針は数字の2の位置ですが、短針は10と11時の間の6分の1のところを指していなければなりません。空間的な配置が視空間認知ですから、口で説明するのではなくて、絵の中に配置してどこまで描けるかということになります。
時計をひとつ描くことで、人間の頭脳の1.2.3.がチェックできるのです。
簡単そうに思えますが、私は自分ができるかどうか不安になりました。
最近はデジタル社会ですから、時計の概念や空間的配置が瞬時に分かるかといえば、どうでしょう。何時何分と言われて、いつまでも考えこんでいたり、何度も消しゴムで消して描き直しているようになっていないか不安になりました。
先日、80歳の女性が3人診療にいらっしゃいました。3人とも仲良しでいつも同じ日に時間を合わせて診察にいらっしゃいますが、中のおひとりに認知症の薬を服薬して頂くことになりました。その方を除いて、あとのおふたりは時計がサッサとお描きになれます。80歳ではありますが、昔の方はアナログ時計と密着した生活を送っていらしたのではないかと思いました。
今は、携帯電話でしか時間を見ない人もいます。腕時計をしていない人も増えました。私も急に怖くなってきて、しまっていた腕時計を修理して腕にはめる生活に戻してみようかと思ったぐらいです。
大切なことは、この80歳の3名が仲良しで、それぞれ活発なことです。時計を描くというテストは毎回やるのですが、認知症の薬を服薬しておられた方が、以前より上手に時計が描けていました。ご主人が付き添われていらっしゃるのですが、ご本人はニコニコしていて、同い年の友達2人が彼女を気遣って「今日時計が描けたそうで?」と言って喜んでいらっしゃる。
こういうのを、幸せな人間関係と言うのだなと、しみじみしてしまいました。私にはこんな友達がいるだろうかと不安にもさせられました。最近では、時々時計を描いてチェックしてみようかと思っています。
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