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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

自然の摂理って何だろう

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親友にもらった神戸が誇る子供服ファミリアのパジャマ。洗濯に強いのが魅力です

 娘は最近大人びて来て、大人だけで話が盛り上がって自分が注目されていないと、泣いてむくれるようになりました。慌ててみんなでちやほやしても、しばらくずっとにらみつづけます。下唇を突き出してむくれる姿はとってもかわいいのですが、赤ちゃんから子どもになってきてコミュニケーション方法も変えていかないといけないので、新たなスキルを身につけなくては、と思いました。

 前々回の「すべての妊娠は親のエゴである」へ、たくさんのコメントをいただきありがとうございました。やはり高度な不妊治療や重症障害児への治療に違和感を覚えている方もいらっしゃいますね。

 「進化論から考えるとこのまま不妊治療で育った生命が増えると、種として脆弱になりそうですね。そういうのは誰も考えないんでしょうか。あまりに不自然なことをしすぎると後で大きなしっぺ返しがきそうです」「不妊治療を幾度も繰り返すというのは、自然に育たない原因があるはず(中略)子供が欲しい気持ちや、社会のための出生など、理解は出来ますが、自然に育たないであったものを無理に生まれて、障害を負って可哀想と思いました(中略)自然は偉大で、上手く出来てるのに、逆らうことは、たぶん良くない」などのコメントです。

 種の保存を考えれば多様性は有利に働くので、「障害」や「自然」以外の生命を否定するのは逆ではないかと私は思います。現在では生まれてくる子どもの40人に1人は体外受精児ですが、体外受精が日本に始まった頃は「試験管ベビー」と言われ、世論の6割は「妊娠は授かり物だから」と反対していたそうです。おそらくいつの時代も「神の領域」への畏れは持ち続けられているのでしょう。

医療も「不自然」か

 しかし、「自然出産」についても同じことを思うのですが、「自然」という言葉を使うとき、それは往々にして自分自身に都合のいいように定義されてはいないでしょうか。厳格に人工的なものや医療を「不自然」とみなすならば、母親が自力で産めない赤ちゃんは生まれてこずに死んでしまうのが「自然」ですし、夫婦の営みだけで子どもが授からない人は子どもを諦めるのが「自然」、初期のがんであっても摘出せずに転移に任せるのが「自然」ということになります。

 しかし、おそらくなんとなく「自然の摂理に逆らうのはよくないんじゃないの?」という人も、自分が出産後に大出血をした場合、「子宮収縮剤は人工的な薬だから使わずに失血死します、それが自然だから」と言う人はいないと思います。

 できることなら誰だって健康で生きていきたい。欲しい時に自然に妊娠したいし、ぽろっと安産したい。でもそれが出来ない時に医療のサポートでけがを直したり、できものを取ったり、血をサラサラにしたり、いろいろなことをして健康で長生きする人が増えたわけです。不妊治療により赤ちゃんを抱くことが出来た人も大勢いるし、お産で命を失う母親や赤ちゃんは昔に比べてずいぶん減りました。これだけでも50年前に比べれば十二分に「不自然」なことです。

生理的な好悪でない議論を

 自分が健康に生まれ、健康な子どもを授かった人が高度な医療を批判するのは、安全域から石を投げているような傲慢さを感じてしまいます。自分が受けて来た医療は「自然」のうちで、他人が受けるのは「不自然」という線引きは都合が良すぎはしないでしょうか(こちらのブログには障害をお持ちの方や不妊治療をされている方などいろいろな方がコメントをくださるので多様な視点を参考にしています)。

 とはいえ、「神の領域」にどこまでも踏み込んでいくことには抵抗を感じて当然だと思います。その際は、もう少し長期的な視点を持って、産みたい親の気持ちだけでなく、生まれた子どもの声にも耳を傾け、「なんとなく不自然」というような非論理的な理由でなく、倫理面を具体的に議論していく必要があると思います。

 最近は出生前診断や卵子提供、重症障害児の治療など、生命倫理に関するトピックが注目されることが続いています。生理的な好悪でなく、自分がどう思うか、なぜそう思うか掘り下げて国民的議論に参加していただけると幸いです。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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18件 のコメント

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不妊治療

チー

私も不妊治療を経て第一子を授かりました。不妊治療は命を作り出すこと、それが自然に反している、妊娠は親のエゴとの意見を読み悲しい気持ちになりました...

私も不妊治療を経て第一子を授かりました。不妊治療は命を作り出すこと、それが自然に反している、妊娠は親のエゴとの意見を読み悲しい気持ちになりました。
28歳で結婚しすぐに、それこそ自然に妊娠するであろうと考えており不妊治療するなんて思ってもみませんでした。ですが結婚して4年たっても授からず結局不妊治療を経て34歳で出産しました。とってもかわいい我が子、不妊治療して良かったと思っています。もし自分自身が不妊治療で授かった子どもであったとしたら産んでくれてありがとうと言いたい。この世に産まれて本当に良かったと思います。これを親のエゴとは思えない。子どもが欲しいと望んでくれて産まれた私がいるのは親のおかげ。不妊治療が自然に反していると書いた方も妊娠は親のエゴと書いた筆者も不妊治療の辛さを理解していない方なんでしょうね。やはり実際経験しないと理解してもらえない。人の気持ちを踏みにじる発言しか出来ないんでしょう。
私は不妊治療で授かったことは子どもに言うつもりです。そうしてでもあなたを産みたかった、産んで素敵な人生を歩んで欲しかったと伝えるつもりです。どうかこの子が大きくなるころにはこの世がもっと優しい良い国になっていますように。








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自然の摂理に抗う人間

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

今、老年医学会で認知症にどうやって取り組むかのセッションをされています。冷静に考えて、人間は認知症に始まり、認知症に終わる存在ですから、認知症を...

今、老年医学会で認知症にどうやって取り組むかのセッションをされています。
冷静に考えて、人間は認知症に始まり、認知症に終わる存在ですから、認知症を治しに行くのはひどく不自然なものです。

だけれど、黙って淘汰されてしまうわけにもいかないですものねえ・・・・

受け容れるところと改善しに行くところと支えに行くところと・・・

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おじさんへ

ゆい

>現在の人類の命を維持・増やしていく有意義な営み,という観点では,区別する必要など全くないのではないでしょうか。ことさらに「同じレベルではない」...

>現在の人類の命を維持・増やしていく有意義な営み,という観点では,区別する必要など全くないのではないでしょうか。ことさらに「同じレベルではない」などとなぜ区別しなければいけないのですか?

宋先生の「医療は不自然か?」という論を受けての事です。
通常の医療行為と、生殖医療を同じ土台で論ずる事は、少々乱暴ではないか?と思ったからです。
医学の進歩と共に、かつては助からなかった命が助かるようになりました。それは素晴らしい事だと思います。与えられた命を精一杯生きるチャンスが増える事だと思います。

生殖医療も同時に進歩しましたが、新たに命を創り出す事に対して、何も怖れやためらいが無くなる事が無くなる事は、傲慢ではないか、と思いました。
ただ、合法である以上、一般の方で子どもが欲しくて悩んでいる方で、体外受精しか方法がない場合は、それを選択する事は仕方ないと思います。

個人的には、顕微受精、卵子提供、代理出産等は認めたくないです。凍結胚を子宮に戻したり、いらない胚を廃棄したりするのも嫌悪感があります。
生殖医療に関しては、ただ進歩すればいいとは思いません。どこかに線引きは必要だと思います。なんでもあり、にはしてほしくありません。やはり、生命の誕生は奇跡で神秘的であってほしい、と思ってしまうのです。

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