いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ
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髪の悩みにあの手この手
5月も半ばを過ぎ、もうすぐ6月。一年の半分が過ぎようとしています。月日が過ぎるのは、本当に早いですね。
私が慶應義塾大学医学部外科学教室で指導を受けた東京医科歯科大学市川病院・安藤暢敏院長の退官記念パーティーが来週、開かれます。約20年前、安藤先生から科学的な視点から病気を考えていくことを学びました。そのとき「まず、始めること。始めたらやめないこと」という言葉をいただきました。これまでコツコツと外科と漢方の両方をやってこられたのも「継続は力なり」という、この言葉のお陰です。
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「髪の悩み、男と女で処方違う」でお話しましたように、髪の悩みを解決するために漢方医学を活用することができます。具体的な話をさせていただこうと思います。
がん化学療法に伴う脱毛は一時的なもので、治療が終わると数週間で元に戻ってきます。
しかし、脱毛には遺伝的要素が大きく影響することが最近の研究で明らかになっています。自分は家系的に避けられないんだ、とあきらめるのではなく、少しでも予防のヒントが見つかればと思います。
以前、頭皮をトントンと叩く道具が流行ったことがありましたが、「頭にはいくつものツボがあるから、これを刺激することで髪が生えてくるんだよ」と、石野尚吾先生(元日本東洋医学会会長)に聞いたことがあります。実際に叩いてみると、気持ちよく感じる部分がありますから、効果は期待できそうですね。
民間療法として伝わっているのは、水蛭(すいてつ:ヒル)を脱毛部分につけて血を吸わせる方法や、薄くなっている部分にお灸をしたり、糠(ぬか)の油を塗ったりするのだそうです。わたし自身は、どれも実際にやった経験がありませんので、残念ながら事の真偽はわかりません。
漢方薬で解決したケース
今から十数年前、当時はまだ外科専門だった私の外来に、胃潰瘍の治療にお見えになった中年のサラリーマンの方がいました。脱毛についてもかなり悩んでいらっしゃいました。仕事が忙しく、夜も寝る時間がなかなかとることができないと、疲れた表情でお話になったことを記憶しています。
彼のお腹を診察すると肋骨の下を押すと抵抗を感じる「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」という漢方医学では典型的なサイン(所見)があったため、迷わず「大柴胡湯(だいさいことう)」を処方しました。漢方医学では、脱毛に柴胡(さいこ)剤を用いる事が多くあります。
その後、数か月が経ち、徐々に髪が生えそろってきました。忙しいなか根気よく通院されたご本人だけではなく、奥様にも大変感謝されたことを覚えています。これがきっかけで、「外科医が脱毛を治す」ようになったわけです。
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