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最新医療~夕刊からだ面より

医療・健康・介護のニュース・解説

胃がん後遺症…やせ予防 食生活工夫と運動

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 日本の胃がんの診療水準は高い。6割の患者は再発しないため、数あるがんの中では比較的「治るがん」と位置づけられつつある。一方で、胃を切除した人の多くは様々な後遺症を抱えており、その一つが極端な体重減少だ。どのような対策が可能なのだろうか。

 胃がんの治療は、ごく早期では口からカメラを入れてがんを切除する内視鏡治療が可能だが、標準的な治療法は胃の3分の2以上を切除する外科手術だ。

 胃を切除すると、めまいや動悸(どうき)といった「ダンピング症状」や、貧血などの後遺症が起こりやすい。体重減少も多く、胃を全摘した患者の9割以上が5年以上経ても手術前の体重に戻らない、との報告もある。

 胃がんなどで胃を切除した人たちで作る患者会「アルファ・クラブ」が2004年、手術後3年以内の患者約320人に行ったアンケート結果(複数回答)によると、主な後遺症としては「おなら」(55%)、「やせ」「疲れ」(ともに49%)、「ダンピング症状」(38%)などがあり、体重の減少に悩む人が半数を占める。

 横浜市の主婦A子さん(49)は、08年に胃がんの手術で胃を3分の2切除した。退院後は、指導された通り、好きな物を少しずつ食べたが、下痢や貧血がひどくなり、体重は1年で8キロ以上減った。下痢止めを使っても改善しなかった。

 東京慈恵医大客員教授の青木照明さんによると、胃を切除した後に体重が減るのは、単に胃が小さくなるからではない。大きな要因は、胃での分泌量が9割以上を占めるホルモン「グレリン」の欠乏だ。

 グレリンは、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌や、食欲増進、エネルギーの保存などを、脳を通して促す司令塔。最近の研究で、脳を経由せずに直接、臓器に作用する可能性があることも分かってきた。

 胃を切除すると、胃酸やペプシンなどの消化液も分泌されなくなり、ともに働く膵液(すいえき)や胆汁などの消化液の作用も急激に下がる。下痢が頻繁になり、小腸での栄養の吸収が妨げられる。このため、筋力や骨量の低下などにつながる「病的なやせ」に陥る恐れがある。

 予防には何が必要なのだろうか。

 青木さんはまず、唾液中の消化酵素を生かして小腸での吸収を助けるため、食べ物をよくかむことを勧める。その上で、胃が分泌していた消化液を補う消化酵素薬を医師に処方してもらい、食事と一緒に常に服用することが大切という。

 必要な栄養をバランス良く摂取できる流動食型の栄養補助食品も有効だ。薬局で手に入る市販品もあり、積極的に活用したい。

 また、術後の体力の低下を心配して筋肉を十分に使わなければ、筋力が落ちる。すると、骨の強さを維持するためにかかる負荷が減り、結果的に骨も弱ってしまう。このため、最低でも1日1回は、少し汗ばむ程度の運動を継続しよう。

 A子さんは10年春から、医師が処方する消化酵素薬を毎食後飲み、一日に5000歩以上歩くようになった。ストレッチや筋力トレーニングなども、無理をしない範囲で続けている。今ではほとんど下痢もせず、体重も3キロ増えた。

 青木さんは「胃を切ったから体重は増えない、と決してあきらめずに、食生活の工夫と運動を実践してほしい」と勧めている。(野村昌玄)

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