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[宗次徳二さん]私設ホールで音楽家支援

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「このホールから世界に羽ばたく演奏家が生まれてほしい」と宗次さん(左)。出演したピアニストと(名古屋市の宗次ホールで)=杉本昌大撮影

 名古屋市中心部にあるクラシック音楽専用の「宗次(むねつぐ)ホール」。

 天井が高く、豊かな音響は客にも演奏家にも評判だ。座席数310席とコンパクトなだけに、演奏者との距離が近く、臨場感たっぷりだ。

 一人でも多くの人にクラシック音楽に親しんでもらおうと、2007年、私財を投じてホールを建設した。演奏会の時はなるべく会場を訪れ、玄関で来場者を出迎え、見送る。「クラシックは人を優しく、穏やかにしてくれる。訪れる人の笑顔を見るのが何よりの楽しみです」

 日本最大のカレー店チェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」を1978年に創業、経営に没頭した。「音楽を聴くゆとりは一切なし。社員や世の中への責任を果たすうえで当然のことと考えていました」と振り返る。

 店舗数が1000の大台に達するメドが立った2002年、53歳の若さで会長職を退任。「創業経営者として、やることはやった。信頼できる後継者に委ねよう」と、経営から一切、身を引いた。

 ただ、隠居生活を送るつもりはなかった。「多くの人々の支えで会社を成長させることができた。これからは社会に恩返しをしたい」と、NPO法人「イエロー・エンジェル」を設立。文化や福祉など様々な分野で夢を追求する人を支援する活動を始めた。経営者時代のまとまった蓄えがあり、講演会などの収入も活動資金に充てている。

 中でも、クラシック音楽家支援は大きな柱だ。ホールで演奏する機会を提供するとともに、ストラディバリウスなどバイオリンの名器を、有望な演奏家に無償貸与している。宮本笑里さんら著名なバイオリニストに加え、25歳以下の若手を対象に2年に1度開く「宗次エンジェルヴァイオリンコンクール」の上位入賞者にも、2年間の期限付きで名器が貸与される。

 青春時代、クラシック音楽に元気をもらった記憶が、活動を後押ししている。

 孤児として児童養護施設で育ち、3歳で兵庫県内の養父母のもとに。しかし養父が競輪にのめり込み、貧困のどん底に転落した。高校進学後は友人宅の豆腐店で働き、学費や生活費をまかなった。

 高校2年の時、同級生から中古のテープレコーダーを譲り受けた。たまたま放送されていたテレビの音楽番組を録音した。曲目はメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲。「美しい旋律に、たちまち心が揺り動かされた」。毎朝、この曲を聴いてから登校するようになり、苦しい生活の何よりの励みとなった。

 ホールの標語は「くらしの中にクラシック」。年間200回ほど開くランチタイムコンサートは、昼食前のひととき、1000円という格安の料金で生演奏に触れてもらおうと始めた。「誰もが知るような名曲も、生の音に触れると印象が変わる。堅苦しく考えず、気軽に演奏会に足を運んでください。人生が豊かになります」と呼びかける。

 年500回の演奏会を開くことを、当初から目標としている。今年は開設以来、初めて400回を上回る見通し。「近い将来、目標を達成できる手ごたえを感じています」(田中左千夫)

 むねつぐ・とくじ カレーハウスCoCo壱番屋創業者。1948年、石川県生まれ。喫茶店経営などを経て、78年に「カレーハウスCoCo壱番屋」を愛知県で創業。82年に法人化し、社長に。2002年に経営を退く。03年NPO法人「イエロー・エンジェル」設立、理事長就任。

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