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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

すべての妊娠は親のエゴである

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SLに乗る前にパチリ

 ゴールデンウィーク後半は、下の妹が7歳と4歳の息子を連れて遊びに来たので、東京ドームやスカイツリーに連れて行ったり、新幹線に乗って福島に行き、会津若松から喜多方までSLばんえつ物語号に乗ったりするなど、盛りだくさんな休日となりました。やんちゃ盛りのお兄ちゃんたち二人と遊んでもらって娘は大いに刺激を受け、話す言葉も増えたようですが、甥っ子たちがパワフルすぎて、私はすっかり二人目を産み育てる自信も希望も無くしたのでした。

 先日、自民党政務会長の野田聖子さんと2歳の長男とのドキュメンタリーが放映されたようで、ツイッターや身近な人たちの感想がいろいろと入ってきました。トラブルが重なって私自身はその番組をまだ見ることができていないのですが、感想を聞いているともやもやとした気持ちになります。野田聖子さんは自身の生殖可能年齢を超えてから第三者の卵子提供を受けて妊娠し、一昨年男児を出産されましたが、子どもには先天性の病気が複数あり、闘病する中でさらに合併症を発症するなど試練の多い人生の幕開けとなっているとのことです。今回のドキュメンタリーは退院を目指して頑張っている様子が放送されたそうですが、反応は賛否両論でした。

 肯定的な意見としては、「子どもの必死に生きる姿に感動した」「子どもが母親に向ける笑顔を見て、母親が大好きなんだと思った」というもの。批判的な意見としては、「国内で禁じられている卵子提供を国会議員が受けるのはおかしい」「子どものプライバシーを無視している」「障害があると分かっていて生むのは親のエゴだ」「親のエゴで生まれた子どもなのに高額な医療費を公費で賄うのはおかしい」「こんなことは一般人にはできないことだから何だか白けた目で見てしまう」などでした。

高齢妊娠が先天的疾患の理由なのか

 未だに誤解している人が多いようなのですが、野田さんの子どもに先天的な病気が複数あったのは、野田さんが50歳で妊娠したからではありません。超高齢妊娠ですが卵子は若いし、同じく生殖年齢を超えた卵子提供妊娠で先天性疾患が増えるというデータはありません。

 つまり、野田さんが障害児を妊娠したのは、他の障害児と同じで偶然です。日本の法律(母体保護法)では赤ちゃんの病気を理由にした中絶は認められていませんから、授かった子どもを障害の有る無しに関わらず産むことを「エゴ」と呼ぶのはおかしいですね。そもそも妊娠自体がエゴだという意見もありますが、自分の卵子での妊娠ができずに卵子提供を受けて妊娠したことは作為的で、医学の力を借りなければ産まれてくることはなかった子どもだというのは事実ですが、それをエゴと価値判断するのは慎重になるべきだと思います。

 それならば、顕微授精や体外受精など不妊治療による妊娠も、治療を行わなければ(おそらく)産まれてこなかったという点では野田さんの妊娠と共通するところがあります。そもそも、産まれたいと思って産まれてくる子どもはいないので、全ての妊娠は親のエゴだと言っていいと思うのです。

感情的批判で本質を見失わないように

 つまり、野田聖子さんの高度な不妊治療による妊娠、障害児を産むこと、子どもにかかる医療費の公費負担を批判することは、他の不妊治療を経て妊娠した母親や障害児を産んだ母親も一緒くたに批判してしまうことになるので、生理的な好悪から批判的なことを述べる場合は論理をよく見直した方がいいでしょう。「お金のある人にしかできないことだから」と批判する人の気持ちは個人的には分からなくもありませんが、野田さんは著書では確か500万円くらいで、そんなに非常識な金額ではないと書かれていました。自分の財力ではできないことを批判するというのは、突き詰めると妬みなのだと思います。

 個人的には、国会議員で有る無しにかかわらず、国内で認められていない卵子提供を受けて妊娠したことへは倫理的な疑問がありますし、子どもに無断で顔と名前と卵子提供によって産まれたというプライバシーのすべてが公開されてしまっているということは批判されるべきだと思っています。しかし、感情的生理的な批判が噴出すると、本質が見えなくなってしまうのではないかと危惧しています。

対談した時に

 先日、対談で野田聖子さんにお会いした時に、息子さんの写真を見せていただいたのですが、とても表情豊かで愛らしく、幸せに生きて欲しいと心から思いました。出生前診断の議論では命を選別することを批判し、野田聖子さんが障害児をそれと分かって産んだことを批判する。同じ人の意見ではないにしろ、そういった矛盾したそれぞれの意見に共感する人がそれなりにいるというのも命のことを表面でしか議論していない人が多いのだと感じさせられています。

 野田さんとの対談は現在発売中の婦人公論5月22日号に掲載されています。読み返してみても実のある対談になったと思うので、是非読んでみてください。感想もお寄せいただけると幸いです。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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9件 のコメント

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エゴの範囲。

masa

妊娠9か月目で染色体異常がわかった妊婦です。明日の命もわからない子供を授かった身としては、うわべだけの制度や議論は薄っぺらに感じます。どんな子で...

妊娠9か月目で染色体異常がわかった妊婦です。

明日の命もわからない子供を授かった身としては、うわべだけの制度や議論は薄っぺらに感じます。
どんな子でも一生懸命生きようとしているし、その親はすべてを受け止めて必死に育てようとしている。どこまで手を尽くすのかの線引きは当事者にしかできず、ましてや情報や知識のないままテレビやネットの情報で無責任に語る世間にエゴと言われる筋合いのものではないと思います。

現在、死産の可能性もあり生まれても短命だからということで、母体優先で自然分娩し、処置なしを進められていますが、帝王切開し、手術をして1年でも3年でも延命できる場合もあるとその後ネットからの情報で知りました。まだ決めきれていませんが、どんなに苦しんで結論を出したとしても、人から見れば私たち親のエゴと言われるのでしょう。早い段階で羊水検査しなかったことを、非難する人もいるでしょう。そんな子と分かって、出産するつもりなのかと。産む判断も、産まない判断も、小さな子にメスを入れるのか、自然の力に任せて処置しないのか、どの判断もすべてエゴなのでしょう。

ただ、当事者は必死に命に向き合っています。議論で何か結論がでるものではなく、心が救われもしません。

野田さんの状況をこのコラムで初めて正しく知りました。同じ高齢出産の自分ですら、人工的な妊娠をしたから異常があったのだろうと誤解していました。

一つの答えが見出しにくい問題だからこそ、偏見を取り払う、正しい情報が広く発信されるように望みます。

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尊厳生

サクラ

尊厳死という言葉があるように、生まれてくる命にも尊厳を持つべきだと思うようになりました。過度の医療を受けないと維持できない命というのは、果たして...

尊厳死という言葉があるように、生まれてくる命にも尊厳を持つべきだと思うようになりました。過度の医療を受けないと維持できない命というのは、果たしていかがなものでしょう。

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親のエゴ

京男

”すべての妊娠は親のエゴである。”・・・自分達のエゴのために、生まれてくる子供に借金を強要しているのと同じ事です。・・・なるほどと納得しそうにな...

”すべての妊娠は親のエゴである。”・・・自分達のエゴのために、生まれてくる子供に借金を強要しているのと同じ事です。・・・なるほどと納得しそうになりました。私は、子供を持つべき夫婦が子供を産まないことこそが親のエゴだと思います。昔を思えば、今よりずっと貧しい生活でも子供を産みました。今は、物質的に豊かな生活をしたいために子供を産まないようにしている夫婦が多いと思います。本来、子供を産んでその子らのために使うべきものを自分たちの楽しみのために使っている。これが親のエゴでなくてなんでしょう。”子どもを持ちたいという個人の希望がもうすこし実現しやすい世の中になってほしい”に至っては論外。あなたが生まれた時がどういう時代だったか、親がどう思ってあなたを産んだかを考えてほしい。

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