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がん患者や家族らと、その相談を受ける「ミーネット」のメンバーら。必要に応じて病院医師が参加することもある(愛知県の刈谷豊田総合病院で)

 がんを経験した人や家族が、現在闘病中のがん患者の悩みを聞いたり、体験を話し合ったりする「ピアサポート」(仲間による支援)活動が広がっている。患者の不安や孤独感が和らぐ効果がある一方、個人情報保護への意識をどう高めるかなど、課題も多い。

個人情報保護で課題も

 「がん治療経験者による院内相談会を開催します」

 愛知県刈谷市にある刈谷豊田総合病院。午前10時、アナウンスが響くと、がん患者・家族らで作るNPO法人「ミーネット」のメンバー5人が、相談スペースの席に着いた。その一人、林ますみさん(59)は、9年前に手術を受けた卵巣がん経験者だ。

 「あの、ちょっといい?」。そう言って近づいた男性(67)は「肺がんの抗がん剤治療中で、副作用のため何を食べてもうまくないし、便秘もひどい。精神的にどうにかなりそうで……」と語り始めた。

 林さんも抗がん剤治療の経験がある。「私もそうでした。本当につらいんですよね」とうなずき、話の合間に「先生にも伝えてみましたか?」などと尋ねる。1時間ほどして、男性は「家族にも言えないモヤモヤした気持ちをゆっくり聞いてもらえ、少し楽になった」と笑顔を見せた。

 林さんも「私も誰かの役に立てたと感じられ、力をもらっています」と話す。

 ピアサポートの意義について、ミーネットの花井美紀理事長は「経験者にしか分からない不安を受け止め、共感し、認め合うことで、患者は孤独から解放される。医師への質問の仕方や副作用の対処法などの知恵も助言できる」と強調する。

 ミーネットでは、専門医らの講習を受けた約60人が、県内12か所の病院で相談支援を実施。刈谷豊田総合病院では、約2年前から月2回、1階ロビーで相談を行っている。病院の相談室に足を運ぶ勇気が出ない患者も、気軽に立ち寄ってもらえると考えたからだ。

 病院側には当初、患者団体の院内活動に不安もあった。だが、麻酔科緩和チームの梶野友世医師は「体験者にだからこそ話せることもある。思いを吐き出すと気持ちも整理される」とその役割を重視する。医師や看護師も参加したり、困った時にすぐ連携できる体制を築いたりしたことで、「今では、治療を怖がる患者に医師が利用を提案することもある」という。

 こうした活動は、全国で広がっている。背景には、2012年度から始まった国の第2次がん対策推進基本計画に「国や都道府県は、ピアサポートの充実に努める」と明記されたことがある。厚生労働省によると、昨年度は30近い都道県が予算を計上し、人材育成や相談活動の支援事業に取り組んでいる。活動の形態も、患者や家族が自由に集まって体験を話し合う「がんサロン」など多彩だ。

 ただし、課題もある。

 相談で聞いた個人情報を漏らさないのは最低限のルールだ。しかし、NPO法人や自治体に寄せられた相談や苦情では、個人情報がインターネットの個人ブログに書き込まれたケースが見つかった。「治療法が尽きた」という患者の嘆きを聞き、確立されていない治療法や特定の病院を紹介して家族とトラブルになった例も報告されている。

 そのため厚労省は、質担保のための研修プログラム作りを進めている。まず、ピアサポートの目的や内容、守るべき事柄、基本的な医療知識に関するテキストと、模擬相談を収録したDVDを作り、ホームページで公開した。今年度は、がんサロンで進行役を務める際の注意点なども盛り込んだテキストも作る予定だ。

 研修プログラム策定事業運営委員会委員長で、悪性リンパ腫の患者団体理事長の天野慎介さんは「深刻な相談を抱えて悩み、傷つくピアサポーターもいる。活動の良さを生かすためにも、全国のがん診療連携拠点病院にある相談支援センターが一緒になって、患者を支える体制を地域ごとに作ることも重要だ」と話している。(本田麻由美、写真も)

ピアサポートの心得
〈1〉相談者の気持ちに寄り添う
〈2〉必要に応じて医療の専門家につなぐ(一人で抱え込まない)
〈3〉相談で聞いた情報を他人に漏らさない
〈4〉医療相談はしない
〈5〉自分の考えや体験を押しつけない
(厚労省の研修プログラム策定事業運営委員会の天野慎介委員長による)
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