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[桂由美さん]海中はアイデアの宝庫

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「時間帯によって海の中の色もまったく違う。新鮮な驚きで、ますますはまっちゃいました」(東京都港区で)=前田尚紀撮影

 「このブルー。とってもきれい。今すぐ潜りに行きたくなっちゃう」。エメラルドグリーンの海を優雅に泳ぐ色とりどりの魚や、大きなサンゴ礁が撮影された写真集を見ながら目を輝かせる。実は泳ぎは苦手。それなのに、スキューバダイビングには「はまってしまった」と笑顔を見せる。

 転機は、2000年に仕事で訪れたフィリピン・セブ島でのこと。仕事が終わり、空いた時間に、同行した知人に説得され、恐る恐る潜ってみた。そこには「言葉では言い表せない色」の世界が広がっていた。太陽の光が差し込むと、海の色がサーッと変化する。青、緑、時にはオレンジ……。見たことのない色の魚を夢中で目で追った。

 「あのとき誘われて挑戦しなければ、私は一生海に潜ることはなかった。人生、どこにきっかけがあるか分からないから面白いわね」

 初めて海に潜ってから2年後、70代でライセンスを取得した。その後、沖縄の海にも3回潜った。「海の中で最期を迎えるのもいいわ」という言葉も飛び出すほど。面白いと思ったらとことん追求する姿勢は健在だ。

 仕事でも、興味を持ったことには次々挑戦してきた。

 和装での結婚式が当たり前だった時代、欧米風のドレスに憧れる女性のためにウエディングドレスを作り、「ブライダル」という言葉を日本に根付かせた。ブライダル専門の店のオープンやファッションショー、専門書の出版など、前例のないことを実現させた。

 今もパリやアジア各国、国内で年7、8回のショーを行い、年間で発表する新作は250着を超える。昨年から、郷土料理や名所など地域の特色を生かした結婚式「ふるさとウエディング」の普及にも取り組む。結婚式への夢や憧れを育むためのアイデアは尽きることがない。

 元々、季節の花をめでるなど美しいものを見ることがストレス解消法。色があふれる海の中は、リフレッシュできる大切な空間になった。ファクスや携帯電話の音が届かない海中は、「デザインのことだけを考えることができて幸せ」という。03年にパリで行ったショーでは、海をテーマにヒトデや貝、揺らめく海藻などをモチーフにしたドレスを披露した。

 ダイビングを楽しんだり、ハードな仕事をこなしたりするには健康が大切。会社まで毎日徒歩で通勤したり、時間を見つけてプールに通ったりと体調管理に気を使う。

 手帳には仕事の予定がびっしりと書き込まれ、次はいつダイビングに行けるかわからないが、行き先は「モルディブの海」と決めている。写真集で見たインド洋の海の色が、頭から離れないのだという。

 「わからない、知らないというのが嫌。新しいことを貪欲に吸収し続けたいの。そうすれば毎日生き生きと過ごせる」と言う。挑戦すれば世界はもっと広がることを、ダイビングが再認識させてくれた。(野倉早奈恵)

 かつら・ゆみ ブライダルファッションデザイナー。1930年、東京都生まれ。64年に日本初のブライダル専門店を東京・赤坂にオープン。著名人の婚礼衣装を数多く手がけるほか、世界20か国以上でショーを開催。全日本ブライダル協会会長を務める。近著に自叙伝「出会いとチャンスの軌跡」(カナリア書房)。

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