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認知症 明日へ

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[続・本人の思い]前向きに生きる姿を発信

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カメラを手にする中村さん。講演で訪れた先で撮影するのも楽しみの一つだ

 「認知症だからといって、何もできないわけじゃない」。神奈川県寒川町の中村成信(しげのぶ)さん(63)は、この1年、数々の講演で理解を求めてきた。地方公務員だった7年前、「前頭側頭型認知症」が原因で万引き事件を起こし、一度は失職した。その後、仲間に恵まれ、前向きな人生を取り戻している。

手記発表/勉強会を開始/講演活動

 東京都内で昨秋、46歳で認知症と診断され、実名で手記を出版した元オーストラリア政府高官、クリスティーン・ブライデンさん(64)の講演会が開かれた。国内の認知症当事者として招かれた中村さんは、会の後半で登壇。「できることはどんどんやる。好きなことを楽しめば病気は進まないと思う」と、700人の聴衆に語りかけた。写真撮影やインターネットの交流サイト「フェイスブック」を楽しんでいることなども語った。

 昨年から、医療、介護関係者らの招きを受け、月2、3回のペースで講演をしている。

 「認知症といっても人それぞれ」と話すように、中村さんが56歳で診断された前頭側頭型認知症は、物忘れなどが目立つアルツハイマー型とは症状が異なる。初期には記憶障害が見られないことが多い一方、怒りっぽくなったり、非常識と思われる振る舞いをしたりすることがあるのが特徴だ。

 神奈川県茅ヶ崎市の課長だった2006年、スーパーでチョコレートなどを万引きして逮捕された。金を払わず商品を持ち出した覚えはなかった。起訴は見送られたが、懲戒免職に。その後、認知症と診断された。

 「万引きは病気が原因」として処分の取り消しを求めた。09年に停職6か月に修正され、同年、退職した。

 家にこもり、家族のささいな言葉に感情を爆発させた。そんな日々をつづった手記を11年に出版した。その内容が評判になり、講演に招かれ、体験を話すように。世界が広がるにつれ、「感情を爆発させる機会が減った」と語る。

認知症への理解を求める講演を行う中村成信さん(中央)、佐藤雅彦さん(左)、佐野光孝さん(右)(昨年10月、東京都内で)

 講演の後などに、「本当に認知症なの?」と言われることが多い。話すのは得意だが、小説を読んだり長い文章を書いたりするのが苦手になった。しかし、そうした困難は見えにくい。

 テレビの取材では、物忘れなど「認知症らしい姿」ばかりをカメラが狙う様子が気になった。「認知症になると何もわからなくなるというイメージが固定されている」と感じるという。

 「社会の見方を変えていきたい」。そんな思いから、昨秋、当事者や医療・福祉・自治体関係者らと「認知症当事者研究」の勉強会を始めた。本人の視点から社会のあり方を考えるその勉強会で、「前向きに生きる姿を見てほしい」と訴えた。

 仲間もできた。中村さんと同様、50歳代で認知症と診断された佐藤雅彦さん(58)、佐野光孝さん(64)とは、講演や啓発活動で行動を共にしてきた。「当事者が自分の言葉で発言することが大事」。そう語る佐藤さんと、思いは同じだ。

 「激動の1年」と振り返る一方、家族には心配もある。妻(57)は、万引き事件の後、中村さんの写真や診断書を持って近所のスーパーを回り、理解を求めた。今は、頑張りすぎる夫の体調を気遣い、講演の回数を減らすよう夫に頼むこともある。前向きに活動する姿に、「事件を忘れることはできないが、多くの方の理解に支えられている」と感謝の気持ちを語る。

 講演のほか、週に2回デイサービスに通い、週末にはソフトボールを楽しむ。

 中村さんは言う。「事件後、家族も私も地獄の時代が続いた。それを考えると今は何をやっても楽しい。本当に素晴らしい人生になっている」(小山孝、写真も)

 ※中村成信さんを取材した昨年の記事はこちらから。

 [本人の思い]中村成信さん(上)「万引き」で病気に気づく

 [本人の思い]中村成信さん(下)戸惑い、つらさ…経験を伝える

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