タレント 稲川淳二(いながわじゅんじ)さん 65
一病息災
[タレント 稲川淳二さん]いのちと向き合う(1)怪談の最中に過呼吸の発作
2011年10月1日、東京のメルパルクホール。毎年7月から始まる全国ツアー「怪談ナイト」は大盛況で終盤を迎えていた。
この日はビデオ収録もあり、新たな試みを行った。話と話の間に舞台の照明を消し、短時間の闇を作りながら休憩なしで怪談を続けたのだ。怖さの中にも人のぬくもりがある物語と軽妙な語り口。客席の反応もよく順調だった。ところが後半、呼吸が突然苦しくなり、心臓の鼓動が激しくなった。過呼吸の発作だった。
1980年代、数々の人気バラエティー番組で体を張ったリアクション芸を続けていた頃、極度の疲労と緊張で過呼吸が頻発したことがある。
だがテレビ出演を抑えて、怪談ツアーと本職だった工業デザインを仕事の中心に据えてから、発作はなくなっていた。
「息がハアハアして苦しくて。それでも次の怪談を始めようとしたんですね。ところが何度も話している怪談なのに思い出せない。おかしいなあ、おかしいなあ、何だろうこれはと。不安がこみ上げてきました」
その場は何とか乗り切ったが、翌日、友人の医学部教授に相談した。病院嫌いで人間ドックを受けたことがなかったこともあって、「きちんと検査を受けないとだめだ」と怒られ、渋々血液検査を受けた。結果はこう伝えられた。
「がんかもしれない」
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