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医療部発

コラム

フランス終末期医療(2)患者本人はどう考えるか

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 客観的なデータがないので説得力が今ひとつですが、フランスの胃ろうは確かに日本よりも実施頻度は少ないようです。とはいえ、食べられなくなった高齢者に対する選択肢として、最初から完全に除外されている訳でもないようでした。

アニー・ミルタさん

 母親と叔母がアルツハイマー型認知症になり、胃ろうの選択を迫られた経験があるアニー・ミルタさん(59)に話を聞きました。アニーさんはパリ在住で、以前は看護師として働いていたので、医療全般に関する知識も豊富です。

 母親の場合、認知症で食事への興味を失いました。一人暮らしでは栄養失調になるので、食事介助を受けるため、老人ホームに移しましたが、そこでも食事を拒絶します。1か月で10キロもやせたため、入院して鼻から胃に管を入れて栄養をとることになったのですが、それもいやがるので外しました。胃腸自体には何の問題もなかったそうです。

 退院時に医師から「胃ろうにするか、何もしないか」という選択肢を示されました。日本ではこんな時、「何もしなければ餓死する」と半ば強制的に胃ろうにされたという話をよく耳にしますが、アニーさんによると、フランスでは医師の押しつけは全くないそうです。

 家族や親戚で話し合った結果、結論は全員が胃ろうに反対。家族でできるだけ食事の介助をしながら、自然な最期を迎えさせることになりました。理由は単純で、本人に意識があれば、胃ろうで少しばかり長生きするようなことは望まないはずだから。そして母親は胃ろうはせずに亡くなりましたが、アニーさんは「少し早く亡くなったとしても、彼女の人生をまっとうさせることの方が大事です」と強調していました。

 叔母も認知症が進み、食べ方も忘れてしまいました。ただし、母親と違ったのは非常に活動的で一時もじっとしていないことでした。でも食べません。叔母の夫から、胃ろうの相談をされたアニーさんは、今度は胃ろうを勧めました。母親のケースと矛盾するようですが、「叔母は動きたいのだから、胃ろうで栄養をとるのもいいと思った。体はその人のものだから、その人の条件による」と胃ろうを勧めた理由を説明しました。

 アニーさんの話が、フランス全体にどこまで一般化できるか分かりませんが、終末期医療の選択に際して「本人にとってどうか」を家族がとても大切にしていることが伺えるエピソードだと思いました。

藤田勝(ふじた・まさる)
 2008年から医療部。終末期医療、大腸がん、皮膚疾患、耳・鼻の病気などを取材。アホウドリとアムールトラ好き。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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胃瘻の選択

ptnstakesato7879

理学療法士で、維持期病院で勤務しています。フランスのターミナルケアは、理想的な判断であり、患者本人や家族にとっても、よきQOLを図ってると羨望の...

理学療法士で、維持期病院で勤務しています。
フランスのターミナルケアは、理想的な判断であり、患者本人や家族にとっても、よきQOLを図ってると羨望の思いです。ならなぜ日本では、そのようなQOLを受容できないか。地方では、本人と家族の意向に従ったターミナルケアをしている箇所はありますが、私の知っているターミナルは、いかに長く生き伸ばせるか?その一言に尽きます。ほんとうに生きていて欲しいと言う家族の思いよりも、患者の持つ経済に頼っているからこそ、簡単に死なせる訳にはいかない。だから認知症や意識不明になったら家裁に申し立て、後見制度を利用する・・・第三者から見ていて、とても理不尽も感じます。患者自身はどう希望されているのだろうと。こんな理不尽を何とかより良いQOLを受容してもらいたく、今年社会福祉士を取得しました。今後このようなケースが、また受け持つようであれば、以前とは違った傾聴やアドバイスができるのではと。

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