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医療部発

コラム

マインドフルネス・ワークショップ体験記(6)

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瞑想でマトリックスの「ネオ」になれるか?

 私は瞑想に、別の「効能」も期待しています。このブログの1回目で、ワークショップに参加した目的の一つとして、こんなことも書きました。

 「マインドフルネスを、今やっている武道に生かしたい、という気持ちもある。観察力や洞察力を高めることで、相手がどのような攻撃を仕掛けてくるのかを瞬時に見抜けるようになれたらいい…」

 レーズンエクササイズでは、レーズン1粒にものすごく大量の情報があることに気づきました。2日目の静坐瞑想では、空気が鼻の穴を出入りする感覚が、1日目よりも繊細になりました。つまり、瞑想を続けることで、同じ時間で手に入る情報の量が増えるのではないか。別の言い方をすると、〈単位時間あたりの情報処理能力〉がアップするのではないか。パソコンのCPU(中央演算処理装置)のグレードがアップするみたいに。

 私の好きな武道で言えば、相手の肩や腰、足などの筋肉が動いた瞬間、次に来る攻撃はパンチかキックかタックルか、右手か左足か、ナイフを隠し持っているか、といった情報を瞬時に把握し、的確に捌(さば)けるようになるのではないか――。そんなことを期待しているのです。

 単位時間あたりの情報処理能力が上がれば、仕事にも生かせることは言うまでもありません。

 私が以前取材した心理療法の専門家は、マインドフルネスの訓練を受けた後、こんなことがあったそうです。

 ある学会で発表した時、複数の参加者からいろいろな質問を投げかけられました。質問されている間、まるで相手がスローモーションで話しているかのように内容を聞き取ることができ、自分はその間、猛スピードでどう答えればいいかを考え、的確な回答ができた、というのです。

 こんなことを書くと、まるで何か超能力者か、達人しか獲得できない力のように思われるかもしれません。映画「マトリックス」で、主人公のネオ(キアヌ・リーブス)が最後に覚醒し、飛んでくる弾丸がスローで見える。そんなイメージ……。でも、たぶん、そこまでの大げさなものではないと思います。

 日ごろから雑念・妄想を減らし、集中・観察する訓練を積むことで、脳がクリーンで生き生きとした状態を維持できる(パソコンでいうと、「ディスククリーンアップ」や「デフラグ」でしょうか)。だからこそ、高い集中力をもって質問に耳を傾け、内容をクリアに理解し、脳の中の引き出しから最適な答えを素早く引っ張り出すことができた――。そういうことではないでしょうか。

 誤解のないように断っておきますが、私にはまだそんな能力はありません。脳の中は常に雑念・妄想でいっぱいです。武道の稽古で、相手の攻撃が見えるようになった、ということも残念ながらありません。それでも、マインドフルネスを知ったおかげで、前よりは少し、「今ここ」に集中できるようになったかな、と思っています。あきらめずに、しばらく瞑想を続けるつもりです。

 しかし、「情報処理能力の向上」は、あくまで私の期待に過ぎず、科学的根拠があるわけではありません。やはりマインドフルネスの効能の中ではっきりしているのは、感情をコントロールする能力が高まることだと思います。「嫌」や「苦手」という感情が湧いたとき、すぐにそれを観察することで、その感情はそれ以上大きくはなりません。そしてしばらくすると、嫌・苦手といった感情は自然に小さくなっていきます。

 マイナスの感情を抑え込んだり見て見ぬふりをしたりするのでなく、無理やりポジティブ・シンキング(積極的な思考)を心がけるのでもない。ただ、ありのままを見つめ、観察することで、マイナス感情が消える。すると不思議なもので、自分に本来備わっている「生きる力」のようなものが、スーッと発動してくるのを感じます。ちょっと大げさかもしれませんが、私はそう感じるのです。

 この力は、日本の精神科医、森田正馬(まさたけ、しょうま)博士が1919年に創りあげた精神療法「森田療法」で言うところの、「生の欲望」に近いのかもしれません。

 不安神経症や恐怖症(現在で言うパニック障害や強迫性障害、社交不安障害などの不安障害や恐怖症)の治療法として開発された森田療法では、不安や恐怖を打ち消そうとせずに、それらを「あるがまま」に受け入れたうえで、目の前のやるべきことを実践していく精神療法です。

 森田療法では、不安神経症になる人は、「強くありたい」「健康でありたい」「人と良い関係を築きたい」という「生の欲望」が強いからこそ、それができない不安や恐怖に悩まされる、と考えます。逆に言えば、こうした不安や恐怖に悩まされなくなった時、本来持っていた「より良く生きたい」という力がのびのびと発動するわけです。こうした力は、不安神経症の人じゃなくても、本来、ヒトが生まれつき持っているものではないでしょうか。

 ちなみに、マインドフルネスと森田療法は、どちらも対象を「あるがまま」に受け入れる点では同じですが、私の理解では、マインドフルネスが対象を観察するのに対し、森田療法では観察せずに放っておく。不安や恐怖が自分と共に在ることを許すが、あえてしっかり見つめることはしない。そこが異なります。(以下、私見ですが)不安や恐怖の軽減にもマインドフルネスは使えますが、ケースによっては、不安や恐怖を観察しない方がいい場合もあるのではないか――と考えています。

 マインドフルネスの効能は、ほかにもあるのでしょうか。

 昨年の夕刊記事の中で少し触れましたが、インターネット検索サービス最大手の米グーグルは、2007年から社員の研修にマインドフルネスを導入し、集中力や創造性を高めているといいます。その研修プログラムを紹介した本「サーチ!」(宝島社)の中に、こういう趣旨のことが書いてありました。

 強い自己認識を持っている人は、共感能力も高い。この二つは、ともに「島(とう)」と呼ばれる脳の部位と大いに関係があるらしく、自己認識を育む練習が、共感能力も同時に伸ばすことが多い。たとえば、ボディースキャンなどを使ってマインドフルな注意を体に向ければ、島が強化され、それによって、自己認識と共感能力の両方を同時に改善できることが分かっている――。

 つまり、マインドフルネスの練習を積むことで、相手に共感する力や思いやる心も養える、というのです。素晴らしいではありませんか!

これがワークショップの修了証!

 以上、6回にわたって、マインドフルネス・ワークショップの体験と、マインドフルネスに対する私の理解や考え(妄想?)をだらだらと書いてきました。冗漫な文章にお付き合いくださった読者のみなさん、ありがとうございました。また、お世話になったマインドフルネス・フォーラムの実行委員の方々、ともにワークショップに参加した方々、そして、ジョン・カバットジン博士に感謝いたします。

 最後に、実行委員の方々が主催するマインドフルネスのイベント二つをご紹介します。ふるってご参加を!

Mindfulness&Yoga Workshop~マインドフルネスの活かし方~
日時:2013年3月30日(土)11:20~15:30
場所:大本山高尾山薬王院有喜寺(大本坊)

東京都八王子市高尾町2177

 「マインドフルネス認知療法」を監訳した早稲田大学文学学術院教授の越川房子さんの講義、マインドフルネス&ヨーガ講師/産業カウンセラーの山口伊久子さんの実践、精進料理での食べる瞑想などを、豊かな自然に恵まれる薬王院で行います。

参加費:9000円(28日までに申し込み・振り込みの方は8000円)

詳しくは、ホームページ(http://mindfulness-yoga.jp/)を。

第1回 マインドフルネスリトリート
日時:2013年4月7日(日)10:00~16:00
場所:鎌倉山クリニック安心堂

神奈川県鎌倉市鎌倉山2-17-25

 精神科医でNPO法人「不安・抑うつ臨床研究会」代表の貝谷久宣(ひさのぶ)さんが理事長を務める医療法人和楽会の主催。新緑と海の風を感じる鎌倉で、ヨーガや瞑想をはじめ、香道、食事、日本茶などを通してマインドフルネスを体験します。

参加費:1万5750円(昼食代・お茶代込み)

詳しくは、ホームページ(http://www.fuanclinic.com/news/43.php)を。

山口博弥(やまぐち・ひろや)
1997年から医療情報部。胃がん、小児医療制度、高齢者の健康、心のケアなどを取材してきた。自称・武道家。

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読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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何故動けるか、重心をかえるから

自由自在

男性の場合は無理かな。上処理の量を増やそうと思ってもそういう機能がないとは思います。右脳、左脳を結ぶ器質が細いと言われていますから。相手の動きに...

男性の場合は無理かな。
上処理の量を増やそうと思ってもそういう機能がないとは思います。
右脳、左脳を結ぶ器質が細いと言われていますから。

相手の動きに合わせるには、立ち姿で重心をそちらにすればいいだけで移動できるとあります。
体がゆるんでないと、とっさに重心をかけられない。

歩く速度も前傾姿勢の角度の調整で自然と制御できるみたいな事なんでしょうね。
今みているのは、光の速度で目に到達して脳へ伝えられているから、一瞬の過去だから、今を基準にしても思ったより対象物は手前に来ていると思います。

相手のスピードには限界があるから、それを会得すれば考え無しに動けると思います。
重量挙げなどは、落ちてくるものの下にいかに入って支えるかですから。バーベルの軌跡は都度違うけど、慣れると今の結果に頼らないで支えられます。

それには無心という、考える時間の省エネを作らないとバーベルって何も考えずに落ちてきますから。
相手が考えてないのですから、こっちもそれに倣うと言ったところなんでしょうね。
脳の指令では遅すぎるから違う反射を使うって事だと思います。

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