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カルテの余白に

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藤井正彦 神戸低侵襲がん医療センター院長(中)放射線医学発展の恵み

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 4月に開院する神戸低侵襲がん医療センターの院長、藤井正彦さん(55)は、放射線診断の専門医だ。「レベルの高いがん治療は、すぐれた画像診断があって初めて可能になる」と話す。

4月の開院へ向け、搬入された画像診断装置の機能をスタッフと確認する藤井さん(左端)(神戸市中央区の神戸低侵襲がん医療センターで)=枡田直也撮影

 

早期発見可能に

 <早期発見で、治療に成功した例があった>

 コンピューター断層撮影(CT)の検査は、20年ほど前に大きく進化しました。その頃、40代の女性で、胸部レントゲン写真で淡い影が見つかりました。念のためにCT検査をしたところ、レントゲン写真より、はっきりとした影が見られ、肺腺がんが疑われました。

 確かめるには、手術で組織を取るしかないほど、小さいものでした。がんなら、放っておくと大きくなり、転移する可能性もあります。女性に事実を説明したところ、手術を受けることに同意され、結果はCTでの診断通り、肺腺がんでした。

 がんがごく小さかったため、切り取っても肺への影響は少なかったですし、女性は何より、無症状で治療を終えられたことを喜んでいました。それ以前のCTは、小さいがんの影は不鮮明でした。

 今では立体画像が見られ、さらに、肺や心臓が動いている4次元の画像もできるようになっています。

外科手術に匹敵

 <医師になって間もないころは、がん治療の壮絶さも実感した>

 30代後半の女性でした。頬骨下あたりの上あごに、がんが見つかり、外科手術を行うことになりました。上あごは目を支えているところで、手術は、顔半分を切り取るような内容でした。

 生きるか死ぬかという中で、小さな子どもがいた女性は、どんなことがあっても生きて子どもを育てたいと決意していました。

 術後に再発して、放射線治療を行い、毎日診察しましたが、どんな思いで治療に臨んでいるかが想像できただけに、女性になんと言葉をかけていいか分かりませんでした。

 現在は、こうした外科手術に匹敵する放射線治療も普及しています。骨や血管の間に複雑に広がっている腫瘍の形を画像診断技術で正確にとらえて照射したり、患者の呼吸に合わせて照射部が動くのを予測して、確実に放射線を当てたりできる、高度な医療機器が出てきています。

低線量のCTも

 <技術の進歩で被曝(ひばく)量も低減されてきた>

 日本のCT普及率は、世界一ですが、がんを見つけるために何でもCT検査をすれば良いかというと、そうではありません。レントゲンに比べ、CT検査での被曝量は100倍以上もあるからです。

 今、注目されているのは、低線量のCT検査です。通常の10分の1程度の放射線量で、通常CTと同じレベルの画像を構築することが可能になりつつあります。

 こうした機器が普及すれば、喫煙者や、家族にがんの既往歴がある人などに、定期的なCT検査を行うことも一般的になるかもしれません。

 がんの告知が死亡宣告のようにとらえられた時代から、がんが小さいうちに発見し、切らずに治すことができる時代になってきたのは、放射線医学の発展が大きいと思っています。(聞き手 新井清美)

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