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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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依存症は他人事?~フライト、ジャーニー

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 今回は、久しぶりに2本まとめて紹介します。

©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 まずは、名優デンゼル・ワシントン主演の「フライト」(2012年/米国、全国公開中)から。

 フロリダ州オーランド発、アトランタ行きの旅客機が原因不明の急降下に陥った。ウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)は墜落寸前の機体を回転させ、背面飛行(機体のおなかが上を向いた状態)で飛行を安定させて緊急着陸を成功させた。乗員・乗客102人のうち、96人が生還。ウィトカーは「奇跡のパイロット」として、一躍、時の人となる。ところが、事故調査委員会の調査で、彼の血中からアルコールが検出された――。

 以下、多少ネタバレもあるので、予備知識なしのまっさらな状態でこの映画を観たい方は、この先を読まないでくださいね。

 ウィトカーは、アルコール依存症。コカインも常習しています。たばこも常に吸っているから、ニコチン依存症も間違いないでしょう。映画では、後半になって「実は彼は依存症で…」という展開ではなく、最初から「ああ、この主人公はそういう人なんだな」と分かるように描かれています。

 毎日酒を飲み、機中でもウオツカをジュースに混ぜて飲む。100人以上の命を預かるパイロットとしては言語道断。とんでもない男です。こうした行動は、犯罪以外の何物でもありません。ロバート・ゼメキス監督も、この男の「行動」自体に共感してもらおうとは考えていないでしょう。

 厚労省のホームページによると、アルコール依存症はひとことで言うと、「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」。具体的には、飲酒のコントロールができない、離脱症状がみられる、健康問題等の原因が飲酒と分かっていながら断酒ができない、などの症状があります。

 肝臓など体も壊しますが、心の病気に分類されます。体の病気と大きく違うのは、患者自らの行為(飲酒)自体が病気の症状だという点です。ということは、飲酒をやめることができればこの病気は治ります。だから、家族や友人らはお酒をやめるよう求めます。

 でも、なかなか飲酒をやめられない。やめると決意して自宅の酒をすべて捨てても、ちょっとしたきっかけで再び酒を口にしてしまいます。「自分はダメな人間だ」。それは百も承知だけど、家族や友人に責められたくはない。がっかりさせたくもない。だから、「酒はもうやめた。いまは一滴も飲んでいない」とうそをつく。そして飲み続け、うそにうそを重ねていきます。

 映画でも、依存症になった人間の弱さや、結果的にうそで塗り固めるしかない生き方を描くことで、アルコール依存症という病気の怖さがリアルに伝わってきます。とはいえ、「な~んだ、依存症なんてまったく他人事だから、俺には関係ないよ」と言う人がいるかもしれません。

 しかし、果たしてそうでしょうか。2003年に実施された国内調査によると、アルコール依存症の疑いのある人は全国に440万人、治療の必要な患者は80万人いると推計されています。

 依存症はアルコールだけではありません。喫煙者はニコチン依存症の人が少なくないでしょう。買い物依存、ギャンブル依存、セックス依存もあります。軽い気持ちから脱法ハーブに依存してしまう若者も増えています。特定の2人が過剰に依存し合い、抜け出せなくなる「共依存」もある。病気とは言えなくても、もしかしたら人は多かれ少なかれ、何かに依存せざるをえないのかもしれません。

 この映画は、依存症という枠をとっぱらって観たとしても、人間の持つ弱さや小ずるさをえぐり出しています。そして最後の最後。主人公の取った行動とは……。

 後味は、けっして悪くありません。目の前に二つの選択肢があり、決断を迫られた時、自分はどちらを選ぶのか――という場面に、私はアル・パチーノ主演の「ジャスティス」(1979年/米国)のクライマックスを思い出しました。

©2012 Everyman’s Journey, LLC.

 もう1本は、今年結成40年を迎えたアメリカのロックバンド、ジャーニーのドキュメンタリー映画「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」(2012年/米国、東京、大阪、京都で公開中。全国順次ロードショー)。

 ジャーニーは1973年に結成され、80年代に大ヒットを連発しました。日本でも人気は高く、私はアルバムこそ買いませんでしたが、ヒット曲はFMで何度も聴きました。ジャーニーを知らない今の若い方でも、当時のヒット曲には耳なじみがあるはずです。

 なぜなら、「Any Way You Want It」(邦題:お気に召すまま)は朝の日テレワイドショー「スッキリ!!」のオープニングテーマ曲だし、「Separate Ways」はつい先日終わったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のTBS放送テーマソング。「Open Arms」は、2004年にヒットした日本映画「海猿」(第1作)の主題歌でした。映画のタイトルにもなった「Don’t Stop Believin’」は、米国の人気ドラマシリーズ「glee/グリー」でカバーされ、2011年に世界で最も多くダウンロードされた曲だそうです。

 耳に心地いいメロディーライン、サビのコーラス、そして何より、リードボーカルのスティーブ・ペリーのハイ・トーンでちょいハスキーな声が印象的なバンドでした。映画は、このバンドのここ数年の「今」を描いたドキュメンタリー作品です。

 スティーブ・ペリーは98年にバンドを脱退した。ジャーニーはその後、新たに2人のボーカリストを新メンバーに迎えたが、相次いで脱退。それ以降はボーカル不在で活動は停滞していた。2007年12月、ギタリストのニール・ショーンは、YouTubeでジャーニーの曲を歌う無名のフィリピン人シンガー、アーネル・ピネダの映像を偶然見つける。スティーブ・ペリーを彷彿とさせる声質、驚くべき歌唱力に衝撃を受け、すぐさまニールはアーネルに連絡を取る。アーネルはオーディションを受け、正式にジャーニーの新ボーカリストとして迎えられた――。

 気持ちのいい映画です。何と言っても、アーネル・ピネダがいい。

 歌はほんとにうまい。スティーブ・ペリーほどの「色気」はないけれど、声質はかなり似ています。そして、私たちと同じアジア人。他のメンバーと一緒に立つと、背が低くて目立ちます(笑)。陽気だけど、「今でも自分があのジャーニーと一緒にツアーに行くなんて、とても信じられない」「自分は背も低いし、顔も良くない」などと語り、アジア人らしい謙虚さにあふれています

 顔は40歳過ぎとは思えないほど童顔で優しい感じですが、実はかなり苦労人です。

 幼いころから歌の素晴らしさを教えてくれた母親は、アーネルが12歳の時にリウマチ性心疾患になり死去。フィリピンには日本のような医療保険制度がなかったため、一家は多額の借金を抱え、やがて離散。約2年もの間、路上生活を送ったそうです。やがてバンドを結成し、様々なライブ活動で収入を得るようになりましたが、20代後半で、麻薬への依存症から声が出なくなったこともあったとか…(今回紹介する2本の映画は「依存症つながり」だったのです)。

 そんな数々の苦労を経てつかみ取った、世界的ロックバンドのリードボーカルの座。まさにサクセスストーリーです。

 歌がうまく、性格のいいアーネルを、周りのメンバーたちは温かく受け入れ、尊敬し合う。「リードボーカルはアメリカ人が良かった」というファンの声も出てきますが、民族を超えたアーネルの実力をアメリカのファンもいつしか評価し、世界各地で開くコンサート会場には長蛇の列ができます。メンバーの一人は「アメリカのバンドから、グローバルなバンドになった」と喜びます。

 映画ではアーネルが歌うジャーニーのヒット曲が随所に登場し、いやがうえにも気分は高揚します。観終わって試写会場を出た私は、駅まで歩きながら「今年はジャーニーをカラオケで歌うぞ!」と決意したのでした(その後ベストアルバムを購入、通勤電車で聴いています)。

 
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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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5件 のコメント

血液・体液の余力と不均衡

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

飛行機繋がりで、学会兼旅行の帰りに、機内の近所の女性が気分不良と頻脈を訴えられまして、流れの中で相談に乗りました。(アナウンスだったら、他の人が...

飛行機繋がりで、学会兼旅行の帰りに、機内の近所の女性が気分不良と頻脈を訴えられまして、流れの中で相談に乗りました。
(アナウンスだったら、他の人がいなければ行くタイプです。)

30-40代に見えるやせ形の女性で、甲状腺機能疾患の既往があって、渡航時にも同様の症状があり、現地の病院でも検査の異常は見つかりませんでしたが、念のために帰る機内だったそうです。

まあ、見た目にそこそこ元気だったので、おそらく、長時間の座位で血液が下半身に落ちたのかと考えました。
立ち仕事で足がむくむのと同じ原理です。
上半身の血流が落ちれば頻脈は誘発されうりますから。
そして、前回症状の心理的な作用などから、連鎖反応を起こしていたのかな・・・と。

まあ、水分を入れて、下半身を主に動かすのが良いと思ったのですが、休みたそうなので、横になってもらうことにしました。
そして、「しんどくなってきたら、循環器内科のお医者さんをコールしてくださいね」・・・とお願いしました。
CAさんから、リラックスハーブを薦められましたが、内服薬との兼ね合いなどわからなかったので、見送りました。
幸いほどなくして回復されました。
実際にはCAさんの対応の方がメインだったと思います。

結局、僕としても原因は分からなかったのですが、長時間の姿勢やいつもと違う環境に対して、心身のストレスがかかるので、普段からのトレーニングや予防的な対応が大事なのではないかと思いました。
頭で思っている以上にストレスを感じている場合もありますから。

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炎症があると弱気になる

生まれた時は本能で生きていきますよ。家族意識が芽生えて育っていきます。就労の義務の上で職業につきます。そして納税。今の80歳以上の方は特に戦争体...

生まれた時は本能で生きていきますよ。
家族意識が芽生えて育っていきます。
就労の義務の上で職業につきます。
そして納税。
今の80歳以上の方は特に戦争体験を語り継ぐ大切な存在です。

薬物依存とは別に考えたほうがいいでしょう。
乳房に吸い付くのは依存ではないですよ。

医師がしっかりしないと、明日の日本はないでしょう。
健康診断でもうけて自分を見直してください。

医師はけっこう薬物依存で犠牲になりますから。
薬の効能を知っているが為に油断します。
「いのち、生ききる」「命の入り口、心の出口」
「はなちゃんの味噌汁」
なんて読むといいですよ。

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依存症は、普通の証拠

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

僕自身弱い存在で・・・誰が依存症患者を笑えましょう?大なり小なり、人間は何かに依存せずに生きられません。生まれた時は母親に依存し、成長段階では家...

僕自身弱い存在で・・・

誰が依存症患者を笑えましょう?
大なり小なり、人間は何かに依存せずに生きられません。

生まれた時は母親に依存し、成長段階では家族と学校に依存し、その後は多くの人間が会社に依存し、老後はまた家族や過去の栄光や記憶に依存します。

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