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「生きたい」直前まで努力…自殺実態白書

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7割が専門機関に相談

自死遺族の支援に当たる南部さん

 自殺対策に取り組むNPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」(清水康之代表)が「自殺実態白書」をまとめた。523人の遺族への聞き取りからは、職業や立場によって、自殺に追い込まれる過程やその期間に違いがあることがわかった。

 調査は2007年から5年間、「ライフリンク」や全国の自死遺族支援団体のスタッフが、平均3時間、時には8時間かけて、遺族に直接、話を聞いた。

 浮かび上がったのは、自殺で亡くなった人の多くが、直前まで生きようと努力した姿だ。亡くなる前に、70%が行政や医療などの専門機関に相談しており、5%は自殺の当日にも相談していた。

 一人ひとりの置かれた状況は違うものの、職業や立場ごとに抱えがちな問題の組み合わせがあることもわかった。

 自営業者や起業をした人(55人)は、経営難など最初の悩みを抱えてから、半数の人が亡くなるまでの期間が2年と、主婦の8・3年、会社員の4年などに比べて短かった。保証人問題に悩まされながら、多重債務を抱えて急速に追い込まれる人が多かった。

 会社員や公務員などの正規雇用者(162人)は、職場の配置転換や人間関係などが契機となることが多かった。喜ばしいはずの「昇進」も危険因子の一つで、昇進をきっかけに過労を招くなどして自殺で亡くなった人が17人もいた。

 自殺で亡くなった人の3分の1に未遂歴があったが、特に10~20歳代の女性に限ると67%にも上った。

「ライフリンク」代表の清水さん

 清水さんは「死にたいと思い詰めている人の多くは、実は生きたいとも思っている。生きるための支援があれば、自殺は減らせる」と話す。

 具体的な支援策は、自治体などが地域ごとに自殺者の特性を調べ、失業者が多ければ弁護士や保健師、ハローワーク、福祉事務所が連携して総合相談会を開く。主婦が多ければ、保健所や精神科医が連携して育児や介護に関わる相談を行う。自殺未遂で救急病院に運ばれた人は、入院中から精神科医や保健師が関わり、問題が解決する方向で調整する。会社は職場環境が変わった人の過労やうつの早期発見を行う――などだ。

 調査に参加した茨城県の南部節子さん(68)は、2004年、夫の攻一さん(当時58歳)を亡くした。まじめで几帳面(きちょうめん)な技術者だった。単身赴任で、亡くなる1年前から土日に帰宅できないほど忙しくなったが、家族には平静を装っていた。定年まで2年、攻一さんは夫婦の旅行を楽しみにしていた。

 自殺の後、親戚に「仕事がつらくていやだ。死にたい」と漏らしていたことを知った。その10年前にも過労でノイローゼ気味になり、2人で心療内科を受診したが、妻に病名は知らされなかった。振り返れば、夫はずっとうつ病だったのではないか、と節子さんは思う。

 今回の調査でも、遺族の58%が「生前に何らかの自殺のサインがあったと思う」と答えたが、その時点で危険を察知できた人は10%しかいなかった。「家族は無力ではないが、家族だけでは止めるのは難しい。だからこそ社会的な対策が不可欠だ」と清水さんは訴える。

 夫の死後、自責の念に苦しんだ南部さんは、今、「全国自死遺族総合支援センター グリーフサポートリンク」の事務局長として、自死遺族の支援にあたる。「同じような思いをする人を一人でも減らしたい」と話す。(館林牧子)

自殺予防、自死遺族支援の相談窓口
 「ライフリンク」が運営する「いのちと暮らしの相談ナビ」(http://lifelink-db.org/)で全国の相談窓口が検索できる。社会的包摂サポートセンターの「よりそいホットライン」(0120・279・338)は24時間相談を受け付けている。
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