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共通番号 生活者が主役…元三重県知事・北川正恭氏

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 政府は、国民一人ひとりに番号を割り振る共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)を今国会に提出した。実現の旗振り役として、有識者などで組織する推進協議会の代表を務める元三重県知事の北川正恭・早稲田大教授に、なぜ共通番号が必要なのかを聞いた。(聞き手 石崎浩)

ワンストップ

元三重県知事 北川正恭(きたがわ・まさやす)氏 早大卒。自民党などの衆院議員を経て1995年から三重県知事を2期。「改革派知事」と呼ばれ、2003年からマニフェストを掲げた選挙を提唱したことでも知られる。68歳。

 ――民間人の立場で、共通番号導入を推進する運動をしているのはなぜですか。

 「県知事だった当時、自治体の窓口業務に無駄が多いと痛感しました。住民が『それはこの課の担当ではない』と言われ、右往左往することもよくあります。様々な手続きが1か所で済むワンストップサービスにできたら、どんなに良いかと思いました」

 「そこで、大学教授などの有識者や企業経営者、労働組合や自治体、医療の関係者といった幅広い分野で活躍する人たちに呼びかけ、2010年12月に「わたしたち生活者のための『共通番号』推進協議会」を組織しました。発足時の第1回シンポジウムには、当時の菅首相や与野党の政調会長クラスも含め約500人が参加しました」

 ――共通番号を持つのは「個人の権利」と主張しています。どういう意味ですか。

 「共通番号は国家が国民を管理するためのものだ、という見方も一部にありますが、それは違うと思います。民主国家では、人は生まれた時に憲法で様々な権利を保障されます。その権利を守り、公平で便利な社会にすることに役立つのが番号制度です。だからこそ、国が税金を取るのに都合がいい、といった矮小(わいしょう)な内容にせず、生活者が主役となる役立つ番号にすべきです」

範囲は限定

 ――政府は共通番号の利点として、例えば医療、介護、保育などの社会保障制度にかかる自己負担の合計額に上限を設け、超過分は負担しなくて済む「総合合算制度」の導入が可能になることなどを挙げています(表参照)。

 「本来は様々なことができるようになるはずですが、法案では当面、利用範囲が主に社会保障と税の行政手続きに限られています」

 「例えば私が旅先で倒れ、話ができなくなった場合、共通番号を使って自分の既往症を確認できれば、薬を適切に処方してもらうことができます。転居の際に、行政だけでなく公共料金なども含めたいろいろな手続きがまとめて済めば非常に便利です」

 「ところが、この法案が成立しても、すぐそこまでできるようにはなりません。法施行後3年をめどに利用範囲が見直されるので、拡大を働きかけたいと思います」

積極行政が可能に

リスク上回る利点

 ――ただ、個人情報の保護が大きな課題です。政府は個人情報の扱いを監視する「特定個人情報保護委員会」を設けたり、情報漏えいに4年以下の懲役か200万円以下の罰金を科したりという対策を講じますが、十分でしょうか。

 「リスクは確かにあります。でも、IT(情報技術)の活用は後戻りできない流れです。リスクと利点を比べれば、共通番号は導入すべきです。法律で第三者機関や罰則などを設け、技術的にも十分な措置を講じることによって、リスクを最小化しなければなりません。この点を国会で徹底的に議論すべきです」

 ――高齢化で番号制度の必要性が一層強まっています。

 「社会保障の給付を減らしたり、税などの負担を増やしたりすることが、政治の役割になってきました。公平であることが大前提で、番号がその役に立ちます。低所得者対策も一律にお金をばらまくやり方でなく、本当に必要な人を的確に支援できます」

 ――役所の仕事ぶりは変わるでしょうか。

 「今の行政は本人からの申請がないと動かない申請主義なので、サービスを受けられることを知らないと損をします。番号制度で対象者に行政から通知をしやすくなり、受け身行政から積極行政への体質改善を可能にすると思います」

経済効果

 ――推進協議会は、共通番号による経済効果の試算を公表しています。

 「事務の効率化などによって、行政や医療機関、民間企業を合わせて年約1兆1500億円の経済効果が期待できます。この試算結果とは別に、民間で新たなビジネスや雇用が創出される効果も見込めます」

 ――一方、番号制度のコストについて、政府は初期費用だけで2000億~3000億円程度にのぼると見込んでいます。その後の運用コストなどは、はっきりしません。

 「費用に見合う効果は十分あるはずです。この点も国会でよく議論すべきです」

 ――共通番号の法案は昨年2月に当時の民主党政権が提出しましたが、11月の衆院解散で廃案になりました。自公連立の安倍政権が提出した今回の法案も、内容はあまり変わりませんが、制度の開始が1年遅い16年1月にずれ込む見通しです。

 「民主党政権の時から法案成立で民自公3党が合意していたのに、政局のあおりで成立していないのは残念です。今国会で、ぜひ成立させてほしいと願っています」

個人情報保護が必要

 北川氏が強調したのが「生活者のための番号に」という点。その背景には、行政情報を管理する現行の住民基本台帳ネットワークが、十分には活用されていない現実がある。二の舞いを避け、民間や医療分野でも幅広く利用できるようにすべきだという主張には、それなりの説得力がある。

 ただ、旧社会保険庁職員による年金記録の「のぞき見」は記憶に新しく、カードを不正に入手して本人になりすます犯罪の危険性も指摘されている。将来に禍根を残さないよう、個人情報保護策を徹底的に講じる必要がある。(石崎)

共通番号制度
 国や市町村などが管理する社会保障と所得の情報を、まとめて利用できるようにする番号制度。法案が成立すれば、国内居住者に12桁程度の個人番号が付けられ、2016年1月以降、IC(集積回路)チップの入った顔写真付きの個人番号カードが発行される。利用範囲は当面、主に社会保障と税の行政手続きに限られるが、法施行の3年後をめどに民間企業や医療分野などへの拡大が検討される。
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