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医療部発

コラム

マインドフルネス・ワークショップ体験記(5)

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~退屈さの克服。その先に…

部屋の畳ベッドの上で静坐瞑想する私。この足の組み方(結跏趺坐)だと足がしびれるので、組まないことが多いです(顔がおじいさんみたいだったのでモザイクかけました)。

 なぜ、瞑想を行うのでしょうか。一体、どんな効能やメリットがあるのでしょうか。

 私が現時点で理解していることを書きたいと思います(ただし、私が瞑想を実践して身をもって理解したこともあれば、複数の本を読んで「頭で」理解した部分もあります。私の主観も入っているので、この理解が絶対的に正しい、と言うつもりはありません)。

 マインドフルネスの瞑想は、リラックスが目的ではありません。「今ここ」に集中し、観察し、気づく瞑想です。

 過去の失敗や後悔、悲しみにとらわれ、将来への不安や恐怖に押しつぶされそうになる人生は、けっして幸せとは言えません。「今ここ」を充実させてこそ、人生は豊かになります。「今ここ」こそがやがて「過去」になり、「今ここ」の積み重ねが「将来」を作り上げるのですから。

 ところが私たちは、「今ここ」にしっかりと向き合うことが苦手です。

 自宅から最寄りの駅まで歩いている時、考え事ばかりをして、道端のきれいな花の存在に気がつかない。

 仕事をしていても、(たとえばお客さんに喜んでもらうといった)本来の目的よりも、それによって得られる社内の評価ばかりを考えたり、つい夜のお酒や週末の旅行のことを考えたりしてしまう

 友人とおしゃべりをしている時、相手が話をしているのに真剣に耳を傾けず、実は自分が次に話したいことを考えている

 夏休みの最終日、「明日からまた仕事か~」と考えると、せっかくの休日が今ひとつ楽しめなくなる。

 道を歩いていて、知り合いが自分にあいさつせずに素通りすると、「私のことを嫌っているのだろうか」と考え、不安になって落ち込んでしまう。

 そう、「考え」こそが、「今ここ」に向き合うことを妨げるのです。もちろん、人間にとって考えることは大事で、考えることで文明は発展してきました。考えないと、仕事も家事も勉強もできません。このブログの1回目で書いたように、マインドフルネスにおいても、心や思いを洞察する場合は、徹底的に考えることはあります。

 マインドフルネスで問題にしている「考え」とは、自らの意思で考えることではなく、脳が勝手にパッ、パッと次から次に浮かび上がらせる、そんな考えのことです。「雑念や妄想」と言った方がいいかもしれません。それらに感情や行動が支配されてしまう「自動操縦状態」こそが問題なのです。

 こうした考え・雑念・妄想がネガティブな色合いを帯びていると、様々な問題が生じてきます。何らかの刺激に対して、確かな根拠もないのにネガティブな受け止め方をしてしまい、ストレスをためこむ。過剰なストレスは体の痛みや高血圧といった体の不調につながる。あまりひどくなると、うつ状態に陥ってしまいます。

(うつとマインドフルネスについては、2012年8月のブログ「うつ病予防にマインドフルネスが効くわけ」をご覧下さい)

 だからこそ、「今ここ」の現実を、先入観や思い込みなしに、ありのままに見つめることが必要になってくるのです。それができれば、生き生きとした毎日を送ることができ、物事を曇りのない目で観ることができるはずです。

 瞑想は、こうした態度や習慣を身に着けるための最良のトレーニングだと思います。なぜなら、ものすごく退屈だから!(笑)

 人によっては、最初から退屈じゃない人もいるかもしれません。でも、そういう人は少数派ではないでしょうか。たとえばおもしろい映画なら、雑念など湧くこともなく、2時間集中してその世界に浸れます。それに比べると、じっと動かずに黙ってひたすら呼吸を観察するなんて、退屈に感じるのが普通でしょう。退屈だからこそ、すぐに雑念が浮かんでくるのです。

 その退屈さをぐっとこらえて、座る。歩く。横たわる。呼吸や足の動き、体のパーツに意識を集中させる。「今ここ」の「ありのまま」を観察し続ける。雑念が浮かんだら、気づき、手放し、観察に戻る。これを繰り返す。痛みが生じても、ただ見つめる。嫌な感情が湧いてきても、ただ気づく。これを繰り返す。「考えるな、感じるんだ!」。そう、かのブルース・リー大先生の言葉通りです。

 この退屈なトレーニングを繰り返し、「気づき」の時間や対象が少しずつ増え、瞑想がいつの間にか充実したひとときと感じられるようになった時、おそらく実生活の中でも変化が現れてくるのでしょう。

 だって、実生活で経験する様々な事象は、瞑想に比べるとはるかに刺激的です。瞑想で呼吸の変化に集中して気づきを得られるのなら、実生活の出来事に対してはもっと簡単に気づきを得られると思いませんか?

(私に起きた変化に大したものはありませんが、2012年8月のブログ「マインドフルネスで『暑さ』に強くなった」をご覧下さい)

 去年の記事でも書きましたが、ジョン・カバットジン博士が1970年代からマサチューセッツ大学医療センターで始めたストレス低減クリニック(現・マインドフルネスセンター)には、痛みや高血圧、睡眠障害、不安など、心身の不調に苦しむ人たちが多く訪れます。

 そこで行われるマインドフルネス・ストレス低減法は、これらの症状の軽減に効果を上げてきました。その核とも言えるのが、これまで紹介してきた様々な瞑想法です。さらに、認知行動療法にマインドフルネスを取り入れた「マインドフルネス認知行動療法」が、うつ病の再発予防に効果があることが研究で証明されています。

 私がだらだら書くまでもなく、瞑想は心身の不調に苦しむ人の多くに何らかの効能がある、と言っていいでしょう。そして、もともと仏教の瞑想は、すべての人が幸せになるためにお釈迦様が創りあげたメソッド。どんな人でも、人生をより生き生きと過ごすために役に立つはずです。

つづく

山口博弥(やまぐち・ひろや)
1997年から医療情報部。胃がん、小児医療制度、高齢者の健康、心のケアなどを取材してきた。自称・武道家。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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順を得ながら到達するのでしょうか

悟りの階段

リラックスの先にある、空という観念までの道のりなんでしょうね。考え事を楽しみながら歩いているとき、ふっと気がついたら、ここはどこだなんて。いつで...

リラックスの先にある、空という観念までの道のりなんでしょうね。
考え事を楽しみながら歩いているとき、ふっと気がついたら、ここはどこだなんて。
いつでもどこでも今でも昔でも未来でも起こりえる事ですよね。
気がつくまで、瞑想状態で歩いていたという感覚です。

あらたまってする瞑想ではなく、普段気軽にすっとやる瞑想で思いついた。
すべては空であるという文章は有名です。
此岸から彼岸へはどういくのかではなく、ここが此岸であり彼岸でもあると言った内容に感じます。
熟達した禅僧の脳波を研究するとまるで寝ている時の脳波がでていると、何かで読んだことがあります。

発言小町では、やらかした失敗を暴露しあうトピックスがありました。
皆、気持は彼岸へ出張という感じで読んでいました。
「ああ~やってしまった~ 駄」というトピです。
無意識下から現実に戻ったときの描写が皆さんいいですね。

パウロ コエーリョ著のアルケミストや第五の山などを読むと、その光景に自分が入っていくような感じがします。
著者が実際に歩いてモスリムの世界を描写した本だとは思います。
主人公が山の上で風に同化していく描写もなかなかです。
段階を踏みながら到達する感じです。
いきなり禅を組むぞって感じではないです。
禅僧も前準備として正しい生活から入っていくのと同じでしょう。

体の中の時差があるとなかなか到達できない境地だと思います。
よく悟りの階段って表現される位ですから、普段の生活からの見直しが出発。
朝は何時に起きて、何時には寝る。その為にはどうするという事だと考えています。
鬱の再発防止には、基礎的生活の上にマインドフルネスでしょう。
生活時間が乱れたり飲酒で寝たりでマインドフルネスをしても防止には遠いとは思います。

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