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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

中絶禁止で少子化解消? 野田聖子氏の発言をめぐって

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雛人形を眺める娘。ママは持ってなかったんだよ!

 3月に入りましたが、まだまだ寒い日が続きますね。娘は非常にアクティブなため、猫の額の我が家のリビングルームでは飽き足らず、近くの公園で歩き回って泥まみれになっています。日曜日のひな祭りは、昨年の初節句に間に合わなかった雛人形も届いて、華やかなお祝いとなりました。

 先日、自民党総務会長の野田聖子さんが、記者団に対し、「年間20万人が妊娠中絶しているとされるが、少子化対策をやるのであればそこからやっていかないと。参院選後に党内の人口減少社会対策特別委員会で検討してもらうつもりだ。堕胎を禁止するだけじゃなくて、禁止する代わりに例えば養子縁組(をあっせんするため)の法律をつくって、生まれた子供を社会で育てていける環境整備をしなきゃいけない」と語ったと報道され、大きな話題となりました。

 個人的にはまず堕胎(違法)と中絶(合法)の違いを分かっていないのは野田さんだったのか記者だったのかが気になるところでしたが、報道後、野田さんに追加取材した週刊誌の記者である知人によれば、「中絶事由の中で最も多い経済的事由の人が中絶しなくてもいいように経済援助を考えたい。そして望まない妊娠をした人が出産して養子縁組ができるようにしたい」というのが本意だったということです。経済援助も養子縁組も特別に目新しい事ではないと思いますが、母体保護法と少子化対策を結びつけることはあまりセンスのない考えだと私は思います。

中絶禁止より性教育の充実を

 日本には毎年100万人ちょっとの赤ちゃんが生まれてきますが、その陰で20万人以上の赤ちゃんが人工妊娠中絶されています。人工妊娠中絶を禁止して、生みの親が育てるか養子縁組をすれば、年間20万人子どもが増える、という発想は全くの数の論理です。

 私は今まで診療してきた中で、たくさんの人工妊娠中絶にも関わってきました。中絶する人たちには皆それぞれ事情と苦悩があります。多くの産婦人科医にとって中絶という職務は非常に辛く、「この人たちがちゃんと避妊してくれていたら」と何度思ったか分かりません。

 しかし、レイプなどでない限り、妊娠というのは大人の体を持つ男女2人の責任で起こりますが、産むにしろ中絶するにしろ、体の負担は女性だけが負います。だからこそ、望まぬ妊娠はしないで欲しい、女性にはピルなどを使って自主的なバースコントロールをして欲しい、と願っているのですが、低用量ピルがなかなか承認されなかったのも、性教育に非常に消極的、いやむしろ反対しているのも他ならぬ自民党です。性感染症の予防には効果がありますが避妊法としては不十分なコンドームが唯一の避妊法だと認識されていたり、避妊効果が非常に高く子宮体がんや卵巣がんを予防するなど副効用の多いピルが未だに偏見の目を持って見られているのも、政治家たちの影響は計り知れないでしょう。

 中絶を禁止して子どもの数を無理矢理に増やすより、まず性教育の充実とピル普及を図った方が国民生活ははるかに充実するのに、と思います。

妊娠出産のリスク 強要するのか

 望まぬ妊娠をしても産み、子どもを欲する人の養子にすれば良いという考えは、現在も中絶が間に合わなかった人などが行っている方法の一つではありますが、国家として強制するのは無理があると思います。妊娠出産自体が女性の体にとって大きな負担であり、死を含めたリスクが伴うからです。

 野田聖子さんは不妊治療を実らせて一昨年、出産されました。その際に出血が多く、子宮を摘出されたと聞いています。ご自身は熱望された妊娠だったからそのリスクを許容できたのでしょうが、身をもって妊娠出産の怖さを経験された方が、望まぬ妊娠をした他の女性にそれを強要するというのは解せません。

 悲しい人工妊娠中絶を減らす方法と少子化解消は分けて考えるべきものです。いろいろ書きましたが、発言の意図と報道のされ方が異なることも多いと思うので、野田さんの真意を伺ってみたいところです。

野田聖子さんの発言については、次の記事でも取り上げています。
Dr.北村の「性」の診察室ブログ 拝啓 野田聖子自民党総務会長殿

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、性科学者。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)について、詳しくはこちら

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17件 のコメント

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本当に知られていない

性教育は、避妊すればセックスしていい事を教えるものではなく、様々な危険を危険だと知ることやセックスする時の責任について知る事などだと思うのです。...

性教育は、避妊すればセックスしていい事を教えるものではなく、様々な危険を危険だと知ることやセックスする時の責任について知る事などだと思うのです。
セックスというものや、快楽についての情報だけを知ることは性教育とは言えないでしょう。
ピルについても、医師の診察が必要な事、飲めない人もいる事、薬局で誰にでも売ってもらえるものではない事、副作用や服用方法など、調べない人にはわからない事が多いのではないでしょうか。
知らないことがありすぎる事を知らない人が多いと感じます。
知らない事は危険です。誰かを傷つける事になるかもしれない。
と、いう事もふまえて先生の意見には賛成です。
成長する過程でいろいろな正しい情報を知る事ができるようになったのに中絶が減らない時は、禁止にするなどしなければならないのかもしれませんが。

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情報をオープンにする

ぴよ

コンドームは避妊具として失格でありピルを普及させるべきだというご意見は尤もであり賛同致しますただ、野田さんの母体保護法改正にも消極的ながら賛同し...

コンドームは避妊具として失格でありピルを普及させるべきだというご意見は尤もであり賛同致します

ただ、野田さんの母体保護法改正にも消極的ながら賛同します
何が消極的かと申しますと方法を変えればと思うのです

人工妊娠中絶する際は戸籍に父親の名前と事由を伴に書き残す措置にするだけで十分抑止力になると考えております
これは、中絶が不妊、習慣流産、鬱病の起因になる病歴と同様な意味を有していると思うからでもありますが父親の戸籍にも書き加える事で常に男性が加害者扱いされる原因である無責任な男性への抑止力にもなるからと考えているからです
又、DNA検査の信頼性が増し男性が逃げ切ることが困難になった現代だから可能になったことではあります

本来、避妊は男女両方の責任であり
倫理観が同じなら中絶による精神的ダメージも同等の筈ですが常に女性が被害者の立場を取ります
そこには女性の中絶の自由があるからだと思っています
意に沿わない男性との子を中絶する女性が男性の了解を得ずに中絶を行う場合や男性が知らされずに中絶を行う場合が完全に抜け落ちているから女性が常に被害者の立場でいられるのだと考えています

男女同権を謳い、無責任な男性に制裁するのなら無責任な女性にも同じように男性の同意を必要とする措置は最終的には日本全体でみて幸福度が増すと考えております
情報を隠せば隠すほど悪意に付け入る隙を与えることになる、情報をオープンにしてこそ悪意の隠れる場所を無くすのだと長い歴史で見ればあきらだと思っています

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養親当事者

なし

最近特別養子縁組で新生児の子どもを迎えた養親の当事者です。性教育、性教育と仰られる方が特に医者の方でいますが、私たちが迎えた子の実親は中学生です...

最近特別養子縁組で新生児の子どもを迎えた養親の当事者です。

性教育、性教育と仰られる方が特に医者の方でいますが、私たちが迎えた子の実親は中学生です。ピルもいいですが、幼いうちから性教育して、プロテクトすればセックスしてもよいと考えているのですか。ピルやコンドームを買うお金もない中学生が、「お母さん、お金ちょうだい」「何に使うの?」「彼とセックスするんでピルがほしい」と言って、はいそうですか、と娘にお金をやる親がいますかね。また、中学生がお金をもって薬局に行って、薬剤師に「ピル下さい」と言ったら薬剤師は、はいそうですか、と見るからに子どもの女子にピルを売るんですか。おつかいじゃないですが、親の為にピルを薬局に買いに行く中学生もいないでしょう。もしこれが、小学生の女子だったらどうですか。

この間、南山大学で講演をしていた女医さんが、「中絶が唯一の救いです」と声高に言っていましたが、中絶されるのが、もし自分だったら。マザーテレサが訪問したときの記念のパネルが南山大学に飾ってあったのが、大変むなしく思えました。
よくお考え下さい。

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