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75歳が芥川賞受賞…シニア層 文学界に活気

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 第148回芥川賞受賞作は、同賞史上最高齢75歳、黒田夏子氏の「abさんご」。高齢化社会を象徴するような受賞を機に、シニア世代の創作意欲に改めて目を向けたい。

 1935年に制定された芥川賞は、純文学の「主に無名もしくは新進作家」を対象と定める。第147回から過去5年の受賞者の平均年齢は36・6歳で、黒田さんは極めて異例の存在だ。

 20歳代が2人いた今回の候補者5人の中でも、飛び抜けて年齢は高い。だが、選考会では年齢に関する議論はなく、作品のみに焦点が絞られて過半数の評価を得たという。選考委員の高樹のぶ子氏は「良い文章とは正確で読みやすい文章だが、その常識への革命を黒田さんはやった」と語る。一方、同委員の村上龍氏は「これほど高度に洗練された作品が、はたして新人文学賞にふさわしいのだろうか」と違和感を選評に記した。

 黒田氏は、ノーベル賞作家・大江健三郎氏の2歳年下だ。幼少期に戦後の混乱を経験。早熟な文学少女だったが、長年デビューがかなわない孤独を味わい、自分の文学を追究した。本作は56歳のとき完成させたものを、昨年の早稲田文学新人賞に応募するため削ったものだった。

 横書きの平仮名を多用した文体で一人の子供の半生を描く受賞作は、単なる前衛文学ではない。革命的とも言える自由な小説の言葉で人生の本質をつかもうとした作家の75年の年輪が刻まれている。

 シニア世代は、文学への関心が高い。「abさんご」は、現在14万部を刊行している。紀伊国屋書店の全国64店舗のデータでは、発売4週間の購入者は、50歳代以上が41%を占めた。

 文学界では昨年以降、高齢の新人の話題が続く。純文学の名門、群像新人文学賞の優秀作を「グッバイ、こおろぎ君。」で74歳の藤崎和男氏が受賞。退職後、カルチャーセンターで小説修業をした多紀ヒカルさんは、73歳で初の小説「神様のラーメン」を出版した。

 講談社は対象を60歳以上に絞った「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」を始めた。217の応募から賞を射止めた61歳の加藤眞男氏は昨年、初の著書「ショートスカート・ガール」を出版した。

 加藤氏はレコード会社勤務を経て、和装品店を経営しつつ執筆を続ける。「若い世代と比べ、発想力に欠けるかもしれないが、我々は年齢を重ね、人の心の痛みが分かる。高度経済成長からバブル崩壊、現在に至るまでの時代をリアルに描ける強みがある」と話す。

 インターネットより活字に親しみ、社会の第一線から退き時間に余裕がある60歳代以上を狙い、同社は今年、第2回の募集を始める。

 高齢の書き手が多い同人誌の批評を文芸誌「三田文学」で担当する明治大の伊藤氏貴准教授は、「今の商業出版は、介護や病気など高齢者の日常をつづる作品に光が当たらない。還暦過ぎた人々を描く『G((じい))文学』と呼ぶべきものに目を向けてほしい」と強く語る。

 芥川賞の選考記者会見で堀江敏幸選考委員は、「野球は、20歳と75歳の選手が同じ場に立つのは難しい。だが、(文学では)年齢を度外視して論じ、感じられる」と述べた。多様な書き手の存在は、文学の世界を活気づけるはずだ。(文化部 待田晋哉)

これまでの芥川賞年長受賞記録
(1)森敦 61歳11か月(1973年下半期)
(2)三浦清宏 57歳4か月(1987年下半期)
(3)米谷ふみ子 55歳2か月(1985年下半期)
 (年齢は選考会当日)
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