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[中高生の部・最優秀賞] 「奇跡」-僕を支えてくれた人達に感謝-

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佐藤 拓登(さとう たくと) 宮城・中学2年生

 「奇跡の人」「不思議の国のアリス」と言えば、伝記やおとぎ話のこと…と思うが、これは僕の主治医だったK先生が、診察の時に僕のことを例えて呼んでいた言葉なのだそうだ。先生の話では、僕の脳のMRIを撮った写真を見ると、今こうして自分の足で歩いたり、動いたりできることが「奇跡」であり、「不思議」なのだという。もちろん、僕には生まれたばかりの頃の記憶がないから、両親や祖父母から話を聞いたり、母が書いていた十冊にも及ぶ育児ノートを読んだりすると、K先生が僕のことを「奇跡の人」とか「不思議の国のアリス」という言葉に例えて呼んでいたのは本当だったということが分かる。そしてもう一つ分かることは、「奇跡」は決して偶然起きるものではなく、たくさんの人達との出会いや、日々の地道な努力などがあってこそ起きるということだ。

 平成十年六月四日、僕はS病院で普通の赤ちゃんの三分の一ほどの体重、一一七二グラムで生まれた。前置胎盤により母子ともに危険な状態が予想されたため、予定日よりも二ケ月半近くも早く、帝王切開で生まれ、すぐ保育器に入れられた。自分の子供を抱けないさみしさと、小さく産んでしまったという申し訳なさに、母はずいぶん辛い思いをしたそうだ。そしてさらに追い打ちをかけるように主治医の先生から告げられたのは、「脳室周囲白質軟化症」という病名だった。いつ、どの場面でそうなったかは分からないけど、酸素不足から脳の手足の神経に近い部分がダメージを受け、もしかしたら首が座らないかもしれない、自分の足で歩けないかもしれない、そう説明されたそうだ。一度ダメージを受けた脳細胞は二度と元には戻らない。両親はとても大きな衝撃を受け、頭が真っ白になった。しかし、か弱く小さな僕の寝顔を見て、ふと我に返って思ったそうだ。

 「こうして落ちこんではいられない。拓登を守れるのは私たちしかいないのだから。」

 そこから僕と僕の家族、そして僕たちをサポートしてくれる病院の先生方との長い長い訓練生活が始まった。

 宮城県にあるT医療療育センター(Tセンター)は「手足の不自由な子供の未来をきり拓き、子供にとっての桃源郷(パラダイス)にしたい」という理念で設立された施設だ。この理念の通り、Tセンターは、僕や僕の家族にとって、とてもありがたい理想の病院であり続けている。「奇跡の人」のヘレン・ケラーがサリバン先生と出会ったように、僕はここでK先生やO先生をはじめ、多くの先生方と出会った。Tセンターでの訓練は、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)があり、僕は主にOTの訓練を受けた。母の育児ノートを読むと、抱く時の姿勢から座らせ方、足裏の刺激を多く与えること、膝を交互に回す、うつぶせや仰向けの時の補助など、訓練を受けた日のページにその時の様子が詳しく書かれている。母はK先生から「子供の脳の発達や変化は著しく、ほぼ三才までで大人と同様になる。」「ダメージを受けた脳細胞は元には戻らないが、多くの良い刺激を与えることでその周囲が代わりの役目を果たす。」という話を聞き、訓練に必死だったそうだ。そして訓練の効果が一番期待されたお座りができる頃に、母と僕は二ケ月間の集中訓練を受けるため、母子入院をした。

 そこでは、小児発達のK先生、整形外科のO先生、OTのS先生、保育士のM先生たちが、治療計画に基づいて僕を中心にそれぞれの立場で治療や療育に当たってくれたそうだ。母からこの話を聞き、僕は先生方に感謝の気持ちでいっぱいになった。今の僕があるのは、Tセンターの先生方、そして家族のおかげだと強く思った。

 今、十四才になった僕は、装具を付けずに自分の足で歩いて生活している。走ることもできるし、箸を使ってご飯を食べることもできる。でも、学校生活の中では、手先の不器用さからみんなと同じ速さで作業ができなかったり、走ることや泳ぐことが苦手でみんなのスピードについていけなかったりして悔しい思いをすることがある。時には落ち込むこともあるし、もう何もしたくないっていう気持ちにもなる。でも、そんな時は、O先生の言葉を思い出して自分を奮い立たせる。

 「自分が自信を持って取り組めることを一つでも多く見つけなさい。それが君のこれからを支えてくれるよ。」

 僕が今一番自信を持って取り組めること、それは英語の勉強だ。先日は実用英検の準二級に合格し、今は二級に挑戦するために頑張っている。それから、行きたい大学に合格できるように、中高一貫校に入学し、一生懸命勉強に励んでいる。小さい頃は周りの人達のサポートで「奇跡」が起きたけど、これからは自分の力で努力を続け、目標に向かって進んでいきたい。これまで僕を支えてくれた家族や先生方への感謝の気持ちを胸に秘めて。

第31回「心に残る医療」体験記コンクールには、全国から医療や介護にまつわる体験や思い出をつづった作文が寄せられました。入賞・入選した19作品を紹介します。

主催:日本医師会、読売新聞社
後援:厚生労働省
協賛:アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)

審査委員:落合恵子(作家)、竹下景子(俳優)、ねじめ正一(作家・詩人)、原徳壽(厚生労働省医政局長)、外池徹(アフラック社長)、石川広己(日本医師会常任理事)、南砂(読売新聞東京本社編集局次長兼医療情報部長)<敬称略>

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