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カルテの余白に

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高橋裕子 奈良女子大教授(中)ネットで禁煙マラソン

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 20年近く禁煙治療に取り組んでいる奈良女子大教授で、医師の高橋裕子さん(58)は、禁煙を目指す患者たちを、あの手この手で支援している。禁煙したい人へ電子メールでアドバイスを送る「インターネット禁煙マラソン」(http://kinen-marathon.jp/)もその一つで、参加者の約7割が1年以上の禁煙に成功しているという。

病院スタッフと禁煙治療について検討する高橋さん(左)(京都市伏見区の国立京都医療センターで)=川崎公太撮影

 

3万人の願い

 <禁煙マラソンのきっかけは、1994年に奈良県の大和高田市立病院で、国内初の禁煙外来を開設した際に作った患者用パンフレットだった。ある新聞で紹介されたところ、送付希望が約3万通も殺到した>

 世の中に、たばこをやめたい人がこれほど大勢いるとはと、本当に驚きました。どうすれば多くの人に禁煙に必要な情報が届くかを考え、当時、始まったばかりのインターネットに着目しました。禁煙指導のホームページ(HP)を開いたところ、電子メールでたくさんの相談が来ました。

 <最初は、すべてのメールに返信していた。しかし、睡眠時間も満足に取れず、一度は、ギブアップ宣言をした。しかし、参加者が助けてくれた>

 参加メンバーから「こんなに楽しいことをやめないで」と声が上がり、禁煙に成功した人から「私たちが、代わりにアドバイスします」と申し出てくれたのです。禁煙マラソンは97年に本格的にスタートしましたが、2000年ごろからは、ほぼボランティアの手で運営されています。

 参加者の中にはコンピューターの専門家やネットの専門知識を持つ方々がいて、HPのシステム作りにも協力してくれています。

見守る成功者

 <相談は昼夜を問わず、寄せられる。ある日の真夜中のメールはこうだった『(禁煙を始めたら)突然降ってきた主人のリストラ話。考える力もなくなりました。一口だけ吸って、また禁煙する方が良いでしょうか?』>

 この女性相談者には、禁煙成功者から次々とアドバイスが送られました。「私も禁煙を始めたばかりの時に失業しました。やっぱり吸いたいですよね。でもそれがニコチンのワナだと、今でははっきり言えます」「吸わないでください。吸っても事態は改善しないし、吸ったことをきっと後悔するから」

 400人を超える禁煙成功者のボランティアが、365日24時間、「ランナー」の投稿を見守っています。経験者のアドバイスは、禁煙の苦しみを実際に味わっただけに具体的で、私の指導よりも、有効な場合があります。喫煙欲求は深夜や休日に起こりやすいのですが、そんな危機にも、即座に対処してくれます。

 <禁煙の成功者もアドバイスする立場になることで、自らの禁煙が長続きする効果もある。98年には、禁煙成功者を対象にアドバイザーを養成するための講習会を始めた>

 大学教授だった私の父は、ボランティアで自殺予防活動を進める「いのちの電話」の創設メンバーの一人です。父の姿を見ていましたので、何らかのボランティアは当たり前だと思って生きてきました。そんな思い出が、禁煙マラソンにも生かされているのかもしれません。(聞き手 原田信彦)

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