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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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がんと笑い~50/50 フィフティ・フィフティ

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 日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる今、がんはもう特別な病気ではなくなりました。

 「どうせ死ぬなら、がんで死にたい」。そう語る医師も少なくありません。心臓発作や脳出血、交通事故などと違って、たとえ治すことができないがんでも、(一部を除いて)診断の翌日とか3日後に亡くなるということはありません。死まで時間的な“猶予”があるため、残される家族への遺言書を作る、ずっと会っていない昔の友人に会う、旅行に行く、など、死を迎える準備ができるからです。

 でも、もしあなたが、あなたの息子が、あなたの恋人が、まだ20代の若さでがんと診断されたらどうしますか……。

 今回ご紹介する映画「50/50 フィフティ・フィフティ」(2011年、米国)は、そんなテーマ。ただし、シリアスなドラマではなく、コメディーです。

 主演のアダム役は、ジョセフ・ゴードン・レヴィット。のちに、クリストファー・ノーラン監督のバットマン3部作完結編「ダークナイトライジング」で、若き警察官ジョン・ブレイクを演じた人です。脱線しますが、恥ずかしながら私は、ジョン・ブレイクが「○ビ○」だと気づかず、最後の場面で「ああ、そうだったのか!」と感動しました(観た人は何を言いたいか分かりますよね)。

 話を戻します。

 アダムは、酒もたばこもやらない、まじめで平凡な27歳。しかし、腰の痛みのために受診した病院で、「悪性神経鞘腫(しょうしゅ)」というがんだと診断されます。5年後の生存率はフィフティ・フィフティ、つまり50%。転移後の生存率は10%と告知されます。アダムの看護の重みに耐えられない恋人、経験は浅いけど一生懸命に接しようとする新人の女性カウンセラー、認知症の夫を支えながらも息子に同居を迫る母親……。アダムは抗がん剤治療を受けながら平静を装っていましたが、がんは容赦なく彼の体をむしばんでいきます……。

 この映画のポイントは、何と言っても友人のカイル(セス・ローゲン)の存在の大きさ。女好きで下品な男ですが、アダムががんと分かっても自然体で接します。がんの話題を避けるのではなく、逆に「それをネタに女の子をナンパしよう!」とけしかける。アダムが実際にナンパする場面のやりとりでは、私は吹き出しました。カイルの優しい気持ちが伝わり、ホロリとする場面もありました。

 この映画は、脚本・総指揮のウィル・レイサーの実体験がもとになっています。プロダクション・ノートによると、彼自身、20代で背骨に巨大なリンパ腫が見つかり、手術を受けた経験があります。彼は闘病中、ナンパこそしなかったけど、女性と付き合ったらしい。「僕ががんだとか、病気なんだとか言った途端、女性は僕に心を開いてくる。急にデートが簡単になったんだ」と語っています。

 抗がん剤治療で髪の毛が抜けるのが嫌で、アダムはカイルのシェーバーを借りて髪の毛をそります。このシェーバーについての2人のやりとりも笑えました(ただし、めちゃくちゃ下品です)。

 ジョセフ・ゴードン・レヴィットは、映画の準備期間中、レイサーや他のがん患者から話を聞いて回ったとか。プロダクション・ノートには、彼の次のコメントが紹介されています。

 「それぞれ状況が違い、それぞれが悲劇だと分かった。だけど、がんを克服した人たちの話には必ずユーモアがあった。がんを笑い話にするのは不遜かもしれないが、逆に思いやりの行為でもあると思う」

 「(映画を観て)大笑いしてほしい。悲惨なことに直面することもあるだろうが、その時はその状況の中で笑えることを見つけてほしい。きっとそれは健全なことだと思う」

 人生に笑いは必要です。友人とのバカ話に「ワッハッハ!」と大笑いしたり、おもしろい本を読んでニヤリと笑ったり、かわいい赤ちゃんやワンちゃんを見てほほえんだり……。笑いは人生を豊かにします。それはがんの患者さんでも変わりません。むしろ、つらい状況であればあるほど、そんな笑いが必要になるのかもしれません。

 笑いが健康に及ぼす影響を示す研究も増えています。がんや心臓病などの患者を含む18人について、漫才や喜劇を楽しむ前と後に血液を調べると、7割以上の14人で、免疫力に関係するナチュラルキラー(NK)細胞の働きが高まり、実験前にNK細胞が基準値以下だった5人は、全員上昇した、ということです(2012年9月、弊紙くらし健康面「元気なう」より)。ほかにも、漫才観賞後に糖尿病患者の血糖値の上昇が抑えられた、という研究もあります。

 「レ・ミゼラブル」を紹介したブログでは「涙の効用」について書きましたが、笑いの効用もはかりしれない、ということですね。

 そういえば最近、私は腹の底から大笑いしたことがないなあ。。。

◇ ◇ ◇ご購入はこちら◇ ◇ ◇

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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7件 のコメント

無言の愛情

お花畑

山口博弥さんのフィフティフヒティを読んでおりましたら、肩の力がスーッと抜けました。夫の死後、あらゆる事に挑戦して、悲しみを取り除く方法を模索して...

山口博弥さんのフィフティフヒティを読んでおりましたら、肩の力がスーッと抜けました。夫の死後、あらゆる事に挑戦して、悲しみを取り除く方法を模索してきました。夫ともっと話し合いたかったとか、食事に注意すべきだったとか、自分を責めてばかりいましたが、三年間生きてくれたではないか、突然死ではなかった。充分介護をした筈。遺された私が、哀れなんだと、一年半を経て、思えるようになりました。ピアノのコンサートにも行ける。ヘルパーさんがにこやかに来て下さって「詐欺師の電話その後連絡ありましたか」などと案じて下さりながら、床を磨いて下さっている。
土曜、日曜には娘が来て、私を連れ出してくれる。
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早いものです。今年9月が来ると家内を送ってから満3年を迎えます。病院に駆け込んだ時は余命6ヶ月~3ヶ月と。なぜもっと早く。毎年市町村で体のがん検診が有り、毎回参加していましたが。これが悔やまれてなりません。スキルス胃がんの宣告!
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木戸愛楽

この映画は家で見ました。いい映画ですね。悪友とも言われる友人が、実は癌患者と接するにはどうすればいいかの本を、こっそり読んでいたなんて、なんとい...

この映画は家で見ました。
いい映画ですね。
悪友とも言われる友人が、実は癌患者と接するにはどうすればいいかの本を、こっそり読んでいたなんて、なんという友人でしょうか。

やはり、生きるという事は支えられて生きていく事だと思いました。
もし、自分がこうなったらという感覚で鑑賞しました。

患者さんの心からの叫びと、それを気遣う周りの心配りをコミカルにそしてシリアスに描かれていました。本当にみてよかったと思っております。

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