医療部発
医療・健康・介護のコラム
マインドフルネス・ワークショップ体験記(1)
いきなり心を掘り下げた!
昨年(2012年)8月、読売新聞朝刊の医療ルネサンスで、3回の連載「シリーズこころ・マインドフルネス」を書きました。マインドフルネスの概要をお知りになりたい方は、この記事(※記事はこちら。有料登録が必要)のほか、この時に書いたブログ「医療情報部発」をご覧下さい。
その時にも予告しましたが、「マインドフルネスフォーラム2012」のワークショップに参加してきました。今回はその体験記を書きます。
このフォーラムは、「マインドフルネス・ストレス低減法」(Mindfulness Based Stress Reduction=MBSR)の開発者であるジョン・カバットジン博士(米国・マサチューセッツ大学名誉教授)を招き、講演やワークショップを行う催し。目玉は何と言っても、実際にジョン・カバットジン博士の指導を受けられるワークショップです。
ワークショップには1日コースと3日コースがあり、私は3日コースに参加しました。体験取材ということではなく、一般の人と同じように参加費を支払っての参加です。
期間は2012年11月16日(金)から18日(日)までの3日間、会場は横浜市の総持寺。福井県の永平寺と並ぶ曹洞宗(曹洞禅)の大本山です。
境内の「三門(さんもん)」という門をくぐると、すぐ右側に切り妻造り鉄筋コンクリートの立派な建物があります。これが「三松閣(さんしょうかく)」で、その4階にある広大な畳敷きの大講堂がワークショップの会場です。
大講堂の畳には「坐蒲(ざふ)」(座禅用の座布団)がズラリと並び、そこに約140人の参加者たちが座ります。坐蒲の下にヨガマットやバスタオルを敷いている人も多く、私も(数年前に買ってほとんど使っていない)安物のヨガマットを敷きました。ステージには木彫りの釈迦如来像があり、その前にカバットジン博士と通訳の女性が座っています。
1日目は13時半から18時半までの5時間です。
最初に、カバットジン博士から全員に、こんな問いかけがありました。
「あなたは、なぜここにいるのですか?」
沈黙が続きます。20秒か30秒ぐらいあったでしょうか。
私も、目をつぶって考えました。なぜここにいるのか。なぜこのワークショップに参加したのか――。
以前からマインドフルネスに興味を持って、本も読み、記事も書いた。そうだな…やはり、どうでもいいことにイライラしなくて済むよう、自分の感情を上手にコントロールしたい。それでここに来た。
「では、次の質問です。……あなたは、本当はなぜ、ここにいるのですか?」
え? 同じ質問? いや、今度は「本当は」が付け加えられている…。
本当は、どうなんだろうか。なぜ自分は参加したのか。
そうだな…。感情のコントロールもあるけど、マインドフルネスを、今やっている武道に生かしたい、という気持ちもある。観察力や洞察力を高めることで、相手がどのような攻撃を仕掛けてくるのかを瞬時に見抜けるようになれたらいい…。これもあるな。
「では、次の質問です。……あなたは、本当は本当は、なぜここにいるのですか?」
え、もっと深く考えるのか…。本当のところはどうなんだ…。まだ何かある? う~ん…。
「次の質問。……あなたは、本当は本当は本当は、なぜここにいるのですか?」
ここまで来て、ふと、思い至りました。
幸せになりたいから。
たとえ平凡な毎日でも、それを十分に楽しみ、たとえどんな不幸に見舞われても「大丈夫だ、やっていける」と信じられる人間になれれば、きっとその人は幸せだろう。そして、何があっても冷静に対処できる判断力や洞察力も高めたい。「そうなれる何か」を得るヒントをつかみたい。そしてそれは、結局のところ私が幸せになりたいのだ。妻や子どもたちの幸せではなく、自分の幸せ……。これって、やっぱりエゴだろうか…。
カバットジン博士の問いかけはここで終わりました。
「おお、いきなりこう来るか~!」。私はちょっと感動しました。
マインドフルネスは、日本語で「気づき」などと訳されます。カバットジン博士の定義では、「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向けること」。その形容詞形が「マインドフル」です。注意を向ける対象となる「今ここでの経験」というのは、体への注意もあれば心への注意もあり、自分以外の事象への注意もあります。
普通は、体の感覚への注意の練習から始める方が入りやすいと思います。MBSRのベースとなった初期仏教の瞑想法でも、「気づき」を向ける対象は、身体→感覚→心→心の対象へと進んでいきます。でも、カバットジン博士はいきなり心への注意を促し、私自身、気持ちや思考の深い部分を見つめることができました。
この後、参加者たちが手を挙げて、「なぜ参加したのか」という、この時の「気づき」を発表する時間を持ちました。個別の内容は外部に絶対に漏らさないルールなので、詳しくは書けません(実は記憶力が悪くて、もうすっかり忘れているので書きようがない)。ただ、参加者は医師や心理士、ヨガの療法士が多かったこともあり、患者やクライアントへの治療、生徒さんへの指導に生かしたくて参加した方が多かったようです。
「それに比べて、私は自分のことしか考えていない…」。つい、そんなことを考えそうになりましたが、やめました。「評価や判断」は禁物。他の参加者の体験を聴く場合も、評価や判断をせずに、ありのままをマインドフルに聴くように、と博士に言われていたのです。
カバットジン博士が最初にこの問いかけをしたのは、これから始まる3日間を真剣に取り組めるよう、参加した動機や原点を全員に自覚してほしかったからではないか、と、今では考えています。
(次号につづく)

山口博弥(やまぐち・ひろや)
1997年から医療情報部。胃がん、小児医療制度、高齢者の健康、心のケアなどを取材してきた。自称・武道家。
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木戸愛楽
なんとなく、遡及されちゃった感じですね。何故を繰り返すと真実に当たるとでもいうのでしょうか。真実とは己の考えをいれない事。仏教では言われていたと...
なんとなく、遡及されちゃった感じですね。
何故を繰り返すと真実に当たるとでもいうのでしょうか。真実とは己の考えをいれない事。
仏教では言われていたと思います。
真実にどう到達するかの訓練なんでしょうね。
問答を介して、たどり着く真実の境地。
そこには自分がいない。
という雰囲気なのでしょうか。
舎利子に菩薩が説いた世界の実体験なのでしょうか。
興味があります。
これからの記事、楽しみにしております。
般若の世界。
南無。
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