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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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歌のパワー、涙の効用~レ・ミゼラブル

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 今回紹介するのは、遅ればせながら、大ヒット公開中の「レ・ミゼラブル」(2012年/イギリス、配給:東宝東和)。2012年12月公開ですから、もうご覧になった方も多いでしょうね。

 原作は、文豪ヴィクトル・ユーゴー(ユゴー)が1862年に書いたフランス文学の大河小説。私は小学生の時、子ども向けに書かれた本(児童書)で読みました。日本語タイトルは「ああ無情」。当時の私は「無情」の意味もよく分からず、主人公の「ジャン・バルジャン」という名前がおかしくて、兄だったか級友だったか忘れましたが、一緒に笑った記憶があります。バカですね(苦笑)。

 映画は、この小説というよりも、小説をベースに作られたミュージカル版の映画化。ミュージカルは、1985年の初演以来、ロンドンで今もロングランを続けているそうです。監督は、以前このブログでも紹介した「英国王のスピーチ」のトム・フーパー。有名な物語ですが、念のため映画のストーリーを紹介すると……。

ヒュー・ジャックマン(ジャン・バルジャン、右)とラッセル・クロウ(ジャベール)の2大名優が、めっちゃうまい歌を披露します。日本ならさしずめ、渡辺謙と佐藤浩市がミュージカルをやるようなものでしょうか。©Universal Pictures

 パンを盗んだ罪で19年間も投獄され、仮釈放されたジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)。世間が彼を冷たく扱う中、温かく受け入れてくれた司教の銀の食器をバルジャンが盗み、警察に取り押さえられるが、司教は「私が与えたものだ」と彼をかばう。これを機に、バルジャンは生まれ変わることを決心する。

 時は過ぎ、彼はマドレーヌと名前を変え、市長になっていた。ところが、警官のジャベール(ラッセル・クロウ)は彼の正体を疑い、執拗に追いかける。バルジャンは薄幸な女性ファンテーヌ(アン・ハサウェイ)に娘コゼットの未来を託され、ジャベールの追跡をかわしてパリへ逃亡、コゼット(アマンダ・セイフライド)を美しい娘に育て上げる。そんな中、パリで革命を志す学生たちが蜂起し、激動の波にのまれていく…。

 ミュージカル映画なので、全編、歌、歌、歌です。会話もすべて歌を通して交わされます。画期的なのは、アフレコではなく、俳優たちがその場で歌った場面を撮影・録音している点。それを知ったうえで観ると、見方がかなり変わりますよね。

 中でも圧巻だったのが、アン・ハサウェイが歌う「I Dreamed a Dream(夢破れて)」。イギリスのオーディション番組で、あのスーザン・ボイルが歌った曲なので、ご存じの方も多いでしょう。

 私はこの場面のさわりを、映画館での予告編やテレビ番組の映画紹介で何度も見ていたし、アン・ハサウェイは正直、私の好みの顔じゃないし、特にこの場面には期待していませんでした。

 ところが、彼女が歌い始め、しばらく映像と歌に身を委ねていると……目から涙がツ~ッと流れてくるではありませんか。

 すごい! 何なんだ、これは! 

ファンテーヌ役のアン・ハサウェイ。素晴らしい歌でした。「ダークナイト・ライジング」では、キャットウーマンをやっていましたね。©Universal Pictures

 娼婦に身をやつしたファンテーヌの悲しみや絶望といった気持ちが、痛いほど伝わってくるのです。気持ちというより、魂の叫び、と言った方が的確かもしれません。

 ミュージカル映画だから、歌であり、同時にセリフでもある。しかし、普通の歌じゃないし、普通のセリフでもない。演じる役の思いが、壮麗なオーケストラと美しい旋律に乗せて見事に表現されている。ああ、これがミュージカルの力なんだ…と再認識した次第です。

 ちなみに私は、登場する女性陣の中では、コゼットと愛し合うマリウス(エディ・レッドメイン)に片思いながら尽くし続けるエポニーヌ(サマンサ・バークス)に共感しました。マリウスは一瞬、彼女に同情するけど、すぐにコゼットへ気持ちが戻ります。この薄情者!!

 さて今回は、映画の中の医療・健康ではなく、「映画を観る側の心身の変化」がテーマです(年末のブログにいただいたコメントにヒントを得ました。「喜怒哀楽」さん、ありがとうございます)。

 映画に感動して涙を流した後は、ちょっと気持ちいい。ハッピーエンドと悲しい結末とでは感動の種類は違いますが、それでも、泣いた後はなぜか満足感が得られませんか? これは映画に限りません。悲しいことがあった時に我慢せずに思いっきり泣くと、気持ちがスッキリすることがありますよね。

 なぜでしょうか。

 医療情報部で以前書いた健康面の記事によると、米国の研究者が、目を守るための涙と、悲しい時やうれしい時に泣いた涙の成分を比較したところ、泣いた際の涙の方が、たんぱく質の濃度が20%以上高かったそうです。ストレスによって増えたある種のたんぱく質を排除しているのではないか、と推察されます。

 また、涙には、過剰だと鬱を引き起こすとの研究もあるミネラル成分のマンガンや、ストレスで増える副腎皮質刺激ホルモンなども含まれています。泣くことで、ストレスに関係するこれらの物質を排出する役割があるのかもしれない、と専門家は語っています。

 ま、詳しい理屈は解明されていなくても、映画を観て泣いてストレス解消につながれば、次の日からまた仕事や家事も頑張れる、ってもんですよね。

 「レ・ミゼラブル」は、「悲惨な人びと」の意味らしいですが、最後は気分が高揚する音楽と、希望を感じさせる壮大なエンディング。感動の涙とともに、客席から拍手がわき起こった、という話をあちこちで耳にするのもうなずけます。この映画はぜひ、映画館の大画面と音響で楽しみましょう。ハンカチやティッシュも忘れずに!

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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8件 のコメント

コメントへのお返事

山口博弥(読売新聞)

ハルとツーさま  コゼットが恋に目覚める瞬間・・・私はときめかなかったです。  男だからか、それとも歳を取ったからなのか。。。  テレビのコマー...

ハルとツーさま



 コゼットが恋に目覚める瞬間・・・私はときめかなかったです。

 男だからか、それとも歳を取ったからなのか。。。



 テレビのコマーシャル、私も同じです。

 見る度に思い出して、グッときています。



 困っているということですが、そのうちテレビでも流れなくなりますよ。

 それまでは泣いてください!(笑)



喜怒哀楽さま



 お知り合いが「参考になる」というお返事をくださった、とのこと、ありがたいです。



 たいしたブログではありませんが、これからも、息抜きになったり、ちょっとした医療・健康情報が得られたりする文章を書きたいと思っています。



 有楽町の映画館は間違いないでしょうね。でも、今はいろいろな場所にシネコンがあって、メジャーな映画ならどこでも大画面で観られるようになりましたから、比較的探しやすいのではないでしょうか。

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観に行こうっと♪ 軽い人間です!

喜怒哀楽

お返事ありがとうございます。ネットでの知り合いですけど、その方にここのブログを紹介したら、参考になるという返事ももらいました。また、映画を観る予...

お返事ありがとうございます。

ネットでの知り合いですけど、その方にここのブログを紹介したら、参考になるという返事ももらいました。
また、映画を観る予定があるのかとも。
観たら感想を聞きたいとも。

この映画の予告編を観ました。
20年前にもなるのでしょうか、ブロードウェーで舞台を観た知ったの最初でした。
映画になるとまた雰囲気が違いますね。

観に行こうかなと思っています。
有楽町あたりがいいのでしょうか。
迷うところです。

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感動、涙、蘇り、困った

ハルとツー

ミュージカルで観たことがあるこの映画。映画とミュージカルの相乗効果で素晴らしい芸術作品だな~って感動しました。これは、山口さんのおっしゃるとおり...

ミュージカルで観たことがあるこの映画。
映画とミュージカルの相乗効果で素晴らしい芸術作品だな~って感動しました。
これは、山口さんのおっしゃるとおり、映画館で観たい作品ですね。

フォンテーヌの魂の叫び、圧巻でした。
身も心も美しく育ったコゼットが恋に目覚める瞬間に心がときめきました。

ジャベールが、生かされて自分の信念を殺されたことに気づいた瞬間や、小さな命を奪わなければならなかった警官の心情。正義を貫くことを信じて選ぶ生き方に哀れみを感じ・・・。
非情なまでの仕打ちに、「それが君の仕事。」と、どこまでも寛容なバルジャンに憧れ。
何回観ても、観る時々で感じること、響くものが違う物語なんですよね。

さて、この映画は、テレビコマーシャルで度々放送されています。
私は、その度に涙腺が緩んで声を詰まらせてしまいます。

この涙、いつまで続くのかしら・・・。困りました。





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