俳優 萩原流行(はぎわらながれ)さん 59
一病息災
[俳優 萩原流行さん]夫婦でうつ(3)NG50回「何かおかしい」
1991年、大きな仕事が舞い込んだ。ミュージカルの主役。しかし、これが発症のきっかけになった。
開幕直前に発熱し、声が出ない。歌えるのか。不安なまま幕が上がった。「僕は役者。歌もセリフだと思えばいい」と腹をくくった途端、記憶が消し飛んだ。
「異様にテンションが高い。彼、壊れかけているかも?」。見ていた妻のまゆ美さん(60)が不安になるほどの集中力。我に返った時には、周囲は感動の嵐だった。舞台は大成功を収めた。
この公演後、燃え尽きたような感覚に襲われた。自宅でテレビを見ていると、アナウンサーの声が2重に聞こえたり、手早く身支度したつもりが、1時間もかかっていたり。テレビドラマの収録に臨むと、覚えたはずのセリフが出てこない。50回もNGを出した。
「何かおかしい」
医師の診断は、気分変調症と、そううつ病(双極性障害)だった。うつの時には、起きられない、食べられない、眠れない、死にたい――の繰り返し。かと思えば、気分が高揚して1か月に1000万円もの買い物をしてしまう。
「自分もうつの症状を経験して初めて、彼女はこんなふうに苦しんでいたんだと気づきました。頭ではわかっていたけど、どこかで怠けているのではという思いもあった。ようやく彼女の苦しみを本当に理解できたのです」
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