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大震災後のトラウマ反応…子どもの心 授業でケア

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 東日本大震災の被災地では、被災者の心のケアが課題になっている。岩手県は、震災が心身に及ぼす影響や、それへの対処法について、教員や子どもたちに理解してもらう取り組みを行っている。

専門家が教員向け研修も

「いわて子どものこころのサポートチーム」として活動を続ける山本さん

 同県沿岸部の山田町立船越小学校は、校舎が津波に襲われ、1階が天井まで海水につかった。

 2011年4月下旬、町内にある県の施設を借りて授業を再開した。震災から1か月半後のことだ。同校教諭の片桐啓一さん(49)は「家族を亡くしたり避難所生活を強いられたりした児童がいる中、どのように授業を行えばいいのか不安でした」と振り返る。

 子どもたちの表情は明るかったが、本当は心が深く傷ついているのではないかと気がかりだった。

 同県の公立学校では震災後、心と体の健康を考える授業が行われている。

 授業は、眠れない、ちょっとした物音などにもドキッとする、嫌な夢や怖い夢を見る――など、心身に様々な変調が起こる恐れがあることを、子どもたちに理解してもらうのが目的だ。

 こうした変調は「トラウマ反応」と呼ばれる。授業では「深呼吸をしたり体を緩めたりすると、気持ちを落ち着かせることができる」など、トラウマ反応が出た時の対処法も学習する。

 授業は各学校の教員が行うが、適切に授業を進めるため、県教育委員会は「いわて子どものこころのサポートチーム」を結成。各地で教員向けの研修会を行うなどの活動をしている。

 研修を受けた片桐さんは、「心のケアの専門家が授業の進め方などを教えてくれるのでありがたいです」と話す。

 チームのメンバーで、岩手大教育学部准教授(学校臨床心理学)の山本(すすむ)さん(53)は今月10日、山田町で教員を前に講演し、「今後は子どもたちの『マイナス思考』に注意が必要です」と強調した。

 マイナス思考は、トラウマ反応の一つで、罪悪感や無力感、不信感といった思考のことだ。イライラする、泣き出すといった反応に比べて周囲が気付きにくく、対応がしづらい。もともとの性格なのか、震災後の反応なのかの見極めも難しい。

 山本さんは、被災地では復興という目標の具体的な成果がなかなか見えてこず、無力感や不信感が生じている、と感じている。

 「楽しい経験や、何かに挑戦する機会を子どもたちに与えると、気持ちが前向きになり、マイナス思考が生じにくくなります」と山本さん。学校生活が充実すれば、日常生活でのストレスが減り、トラウマ反応も出にくくなるという。

 まもなく震災から2年がたつ。山本さんは「トラウマ反応の出方は個人差があり、これから心身に変調をきたしたとしても不思議ではありません。子どもたちには改めて、そのことを説明しておく必要があります」と話している。(利根川昌紀)

主なトラウマ反応
〈1〉眠れない、イライラする、体が緊張し、ちょっとした物音などにも敏感になる(過覚醒)
〈2〉思い出したくないのに記憶がよみがえる、嫌な夢や怖い夢を見る(侵入的な再体験)
〈3〉震災などの体験が本当のことと思えない、泣けない、震災のことは話さない(回避・まひ)
〈4〉自分が悪かったと責める、頑張っても意味がないと思う、ひとりぼっちな気がする(マイナス思考)
 (日本心理臨床学会の資料をもとに作成)
いわて子どものこころのサポートチーム
 臨床心理士らで構成。子どもたちの心のケアに当たる教員への支援活動のほか、子どもたちの心身に変調がないかどうかを探るアンケートの作成などにも携わっている。
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