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高齢者虐待どう防ぐ
高齢者への虐待が問題になっていますが、現状は? 防止のためにどんな対策が取られていますか。
地域ぐるみ介護負担減らす
高齢化の進展に伴い、高齢者への虐待が社会的な問題になっている。
厚生労働省の調査では、2011年度の虐待件数は1万6750件。前年度から14件減少し、06年度の調査開始から続いてきた増加傾向にストップがかかったが、依然として深刻な状況だ。同省も「一時的な結果かもしれず、楽観できない」としている。
虐待の大半が起きているのは「家庭内」で1万6599件。加害者は息子(41%)が最多で、夫(18%)、娘(17%)と続く。男性が多数を占める傾向は以前からで、理由として、女性に比べ
〈1〉家事や介護に不慣れで負担感が強い
〈2〉地域住民との交流が少なく一人で悩みを抱え込みやすい
――などが指摘されている。
虐待による死亡者は21人。全て家庭内で、半数が介護保険サービスを受けていなかった。介護者がサービスの利用法や相談窓口を知らず、追い詰められて虐待に至るケースも多いとみられる。
一方、特別養護老人ホームなどの「施設内」は151件で、前年度から55件(57・3%)増えて過去最多だった。虐待への意識が高まり、表面化しやすくなったようだ。
06年度に高齢者虐待防止法が施行され、国は本格的な対策に乗り出した。
同法では、市町村を取り組みの中心と位置づけ、相談窓口の設置や関係機関との連携などを義務づけている。
虐待防止には、介護者の負担軽減が重要になる。
厚労省は市町村に対し、介護事業所や医療機関、地域住民などによる虐待防止ネットワークを構築し、早期発見・支援に取り組むよう求めている。ただ、3割の市町村が未整備で、対応が急がれる。
認知症への理解を広めることも課題。虐待被害者の48%は認知症だった。意思疎通の難しさが介護者の負担感を強めているとみられる。症状の特性やケア方法を知ることは負担軽減につながる。介護が必要な認知症高齢者は300万人を超え、今後さらに増える。家族への啓発や施設職員の研修の充実が求められる。
防止法では、虐待を発見した人に市町村への通報を義務づけている。地域ぐるみで虐待防止に取り組む必要がある。(高橋圭史)