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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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たとえ「生命」は消えても~「いのちがいちばん輝く日」~

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 今回紹介するのは、ドキュメンタリー映画「いのちがいちばん輝く日~あるホスピス病棟の40日~」(2月2日から新宿K’s cinemaで公開。以降、大阪や京都など全国順次公開予定)です。

 舞台は、滋賀県近江八幡市にあるホスピス「希望館」。地域の拠点病院「ヴォーリズ記念病院」に2006年秋に開設されたホスピスです。監督の溝渕雅幸さんと撮影スタッフは、病院構内にある独身寮に泊まり込み、2011年12月から40日間、ホスピス病棟の患者や家族に密着して記録したそうです。

 ホスピス長は、医師の細井順さん。もともとは外科医でしたが、父親をホスピスで看(み)取ったのを機にホスピス医に転身しました。

 この細井さんが素晴らしい。患者さんへの話し方や態度から、「いい人」オーラがあふれています。配給会社からいただいた資料によると、白衣を着ていないのは、がんを患った自分の体験から「患者も医者も同じ弱さを持った人間同士」であるという考えに至った結果だとか。

 この映画では、主に4人の患者さんにスポットを当てます。一人一人、印象に残った場面を紹介しましょう。

乳がんの女性

病室で乳がんの女性と話す細井さん

 入院当初は不安やいらだちがありました。でも、ある日、見舞いの時に愛犬が来ると、表情がとても軟らかくなります。その様子をホスピスのスタッフが写真撮影、すぐにプリントアウトして台紙に貼り付けてコメントを書き、その日のうちに女性に渡しました。きめ細かな心遣いが素敵です。

 また、別の日、女性はハーモニカで「ふじの山」(♪頭を雲の上に出し…の歌詞の曲)を弾き、男性看護師がベッドの傍らで一緒に小さな声で歌い、拍手します。この場面も、患者と医療スタッフという関係ではなく、「高齢者と若者の自然な会話」という雰囲気が温かかった。

がんが全身に転移している女性

 体調は悪くなく、院内の行事の手伝いや年末年始の外出の許可も出ます。車椅子で出かけた屋外で、赤く色づいたモミジを見つけ、しみじみと見入ります。

 自分の命の期限がそう長くないと知った人は、見慣れた風景がいかに美しいものであるかを感じ、毎日の何気ない生活がいかに素晴らしいものであったかを知る――。そんな話はよく耳にしますし、私も取材で聞いたことがあります。

 モミジを見る女性の静かなほほえみは、「今、かけがえのないこの瞬間」を慈しんでいるように見えました。

肺がんと肺気腫を併発している男性

 私がこの方の様子を見て感じたのは、呼吸が苦しい、ということの怖さです。肺がんや肺気腫の患者が表現するのは、「空気の中で溺れるような感じ」。これって怖くありませんか。間断なく襲ってくる「痛み」も嫌だけど、呼吸をしても息苦しい、というのも嫌。しかし、現代の医療を持ってしても、呼吸苦を完全に取り除くことは難しいのです。

 この男性がたばこを吸っていたかどうかは分かりませんが、たばこが肺がんや肺気腫のリスクを高めることは明らかになっています。たばこを吸っている人にも、ぜひこの映画を見てほしいと思いました。

首の付け根にがんが見つかった男性

男性が亡くなった後、集まった家族の前で話をする細井さん。

「○○さんが育んでこられた家族愛とか温もりは、これから先も子どもさんやお孫さんにきちっと受け継がれ、つづられていくと思います」

 近江八幡市の高校の元音楽教師。余命1年と宣告されました。

 男性の希望は、息子夫婦の間に生まれたばかりの孫に会いに東京へ行くこと。そのことを聞き出した細井さんらスタッフは実現へ向けて動き出し、無事、孫に会うことができます。

 そして死期が近づいた時。

 細井さんは、別室で男性の妻や息子、娘に、できるだけ孫たちに来てもらうように勧めます。娘は、京都にいる小学2年と幼稚園の子どもたちについては、「遠いから、電話で声を聞かせる」と言いますが、細井さんはこう話します。

 「お孫さんもおじいちゃんに会いたいと思うやろうし、お孫さんにとってはお葬式が大切なんちごて(違って)、おじいさんの最期を見ることが大事。将来、『あの時、いてたら良かった』と後悔するよりも、(たとえ子どもでも)一人前として扱ってもらって、最期に一緒にいられた、ということが大事やと思うんですよ」

 妻も娘もすぐに納得し、連れてくることを決めます。

 そして、家族みんなが見守る中、男性の最期の場面が訪れます。

 「生命」(身体)は消えても、「いのち」(魂)は遺された人たちに引き継がれていく。この映画を観る人は、まさにその現場に立ち会うことになります。

 そして、「いのち」を引き継ぐ大切さを、同じ人間同士、自然な形で患者家族に伝えようとする細井さんとスタッフの姿に、私たちは理想のホスピスのあり方を見るのです。

 欲を言えば、細井さんのインタビューも見たかった。映画の資料に掲載されていた細井さんの発言も、とても素晴らしかったから。

公式サイトはこちら

<公開情報>

2月2日(土)~新宿K’s cinema

2月9日(土)~大阪・第七藝術劇場、京都シネマ

2月23日(土)~神戸・元町映画館

今春公開 名古屋シネマテーク

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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2件 のコメント

責任重大?

山口博弥(読売新聞)

寺田次郎さま おっしゃる通りですね。 家族・親族だけでなく、人は直接・間接を問わず、かかわった人たちすべてに何らかの影響を与えています。人に限ら...

寺田次郎さま

 おっしゃる通りですね。

 家族・親族だけでなく、人は直接・間接を問わず、かかわった人たちすべてに何らかの影響を与えています。人に限らず、すべての動植物にも。

 ならば、あまりいい加減な生き方はできなくなりますね。困ったな(苦笑)。

 こうした考え方は、西洋よりも東洋の方が得意だと思いますが、量子力学が登場してからは、「人やモノは他者と無関係には存在しえない」ことが、科学的にも証明されてきているようですね。

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受け継ぐのは・・・

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

先日、昔の学校の先生のお葬式がありまして、それで、色々な関係者と出会うんですよね。直接、間接の関係が別れたり、統合されたり、連なってさまざまな系...

先日、昔の学校の先生のお葬式がありまして、それで、色々な関係者と出会うんですよね。

直接、間接の関係が別れたり、統合されたり、連なってさまざまな系譜になるわけです。

その辺はラテン語圏の言語形成に似ていますね。
(あるいは、全ての言語に言えることかもしれませんが。)


そうやって、考えると受け継ぐのは血脈だけだろうか?とも思います。
言葉であったり、考え方であったり、そういったものは連なっていくわけですね。

サッカー界でも、オシム・チルドレンという言葉が有名です。
彼の指導した選手たちがそういわれます。

彼の「引き出し」によって、目覚める選手がたくさんいたわけですね。
僕自身は勿論お会いしたことはありませんが、本であったり、彼の指揮するチームの試合やその解説を目にすることで、とても影響を受けました。

それは、僕と関わった人間との関係や考え方にも影響を与えていると思います。

人は互いに影響を与え合っているのだと感じます。

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