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子どものそけいヘルニア…腹腔鏡手術が普及

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 腸がおなかから足の付け根へと飛び出してしまう「そけいヘルニア」。乳幼児にも多く、根治には手術が必要で、腹腔(ふくくう)鏡を使う方法が広がっている。


 

反対側の発症防ぐ面も / 再発率は従来法と同じ

 胎児期にあった腹膜の出っ張り(袋)が、閉じないまま生まれてくるのが原因だ。泣いた時や入浴後に腸管などの臓器が飛び出し、足の付け根がふくれる。男児に多く、子どもの5%に発症する。

 飛び出た臓器が元に戻らないと、血流が滞り、腸閉塞を引き起こす。このため、ごく限られたケースを除き、手術が必要だ。

 従来の方法では、そけい部に沿って、皮膚を2、3センチ横に切り開く。中から腹膜の袋を取り出し、根元で切断して穴を縛って塞ぐ。

 男児の場合は、精管や血管の束と癒着しており、誤って切ったり、はがす作業で傷ついたりすると、男性不妊の原因になる。女児の場合は、袋の周囲にある靱帯(じんたい)を一緒に切除しても支障はない。

 腹腔鏡を使った手術(LPEC手術)は1995年、徳島大で始まった。開発したのは当時、小児外科助教授で、現在は沖縄県のハートライフ病院などで診療にあたる嵩原(たけはら)裕夫さんだ。腹腔鏡で袋の中をみながら糸で根元を縛る。袋の内側から作業をするので精管や血管をはがす作業は不要だ。

 嵩原さんは、「腹腔鏡は、鮮明な拡大した画像で見ることができるので、慎重に針を進める基本的な技術があれば、従来の手術よりも損傷の心配は少ない」と説明する。ただし、針を誤って深く刺すと精管や血管を傷つける心配があることから、慣れるまでは、対象を女児に限る施設もある。

 腹腔鏡を使うと、手術中に左右反対側の様子も確かめられる。もし袋が見つかれば縛って塞ぐことで、反対側の発症を防ぐ。

 千葉県我孫子市の女児(1)は2011年6月、生後4か月の時に、慈恵医大小児外科(東京・新橋)で手術を受けた。手術中に反対側にも袋が見つかり縛った。母親(37)は、幼少時に手術を受けたが、小学生の時に再び反対側を手術した経験があり、「娘は手術が一度で済んでよかった」と話す。

 そけいヘルニア手術は、従来法でも、それほど目立つ傷は残らず、日帰りで行う施設もある。腹腔鏡手術は、反対側の発症予防や、精管や血管を傷つける心配が少ないため普及した。

 嵩原さんらがLPECを行う7施設を対象に行った調査では、再発率は、従来法と変わらず1%未満だった。

 小児外科医は数が少なく、不在の地域もある。慈恵医大小児外科講師の吉沢穣治さんは、「幼い子どもは、血管が細く、腹膜も薄い。大人の手術とは違う技術が必要です。できれば、多少遠方になっても、子どもの手術の経験が豊富な医師の手術を受けるのが安心です」と話す。(中島久美子)

 LPECは、日本小児外科学会認定施設の半数以上で行われている。認定施設は学会ホームページ(http://www.jsps.gr.jp/)で検索できる。

 

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