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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

小雪さんで話題 韓国の産後院

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新幹線の窓から富士山を眺める娘

 一年で一番寒い季節になりました。娘は引き続き下痢をしていて、柔らかい便がおむつから漏れるので、夜中に洗って着替えさせて寝不足になる日が続いていましたが、ようやく落ち着いてきました。仕事と子育ての両立はなんとかできていると思いますが、24時間のうちで仕事と子育ての両方から解放される時間がほとんどないのが時々しんどく感じます。

 先日、女優の小雪さんが第二子を韓国で出産し、産後院に入られたということが話題になりました。小雪さんといえば第一子を私が出産した直後に出産され、「最初のうちは育児が大変で子供を可愛いと思う余裕がなかった」と発言され、新米ママたちの共感を得ていたのが印象に残っています。その後すぐに第二子を妊娠され、あらゆる意味で羨ましいと密かに思っていたのですが、取材で訪問された韓国の産後院を気に入られ、渡航して出産されたとのことです。

 同時期に出産した友人と、タレントのユンソナさんがブログに書かれていた韓国の産後院について話していて、「こういう施設が日本にもあったらいいのになあ」と思っていたところだったので、小雪さんのことは私にとってタイムリーな話題でした。テレビなどから得た情報によれば、産後院とは出産後に里帰り出来ず家事や育児を手助けしてくれる人がいない人が子供とともに滞在し、育児のサポートを受けながら体を休められるという施設のようです。日本にも産後院が少数存在し、また一部の助産院で出産すれば同様のケアが受けられると紹介されていました。

母親は自己犠牲が当然か

 日本では一般的に産後5日目くらいで母子ともに退院しますが、核家族で里帰りをしない人の場合、家に帰って新生児の育児と家事、経産婦の場合は上の子の育児を夫と二人でしなければいけません。父親の育児休暇が一般的とは言えない現状では、出産で体に大きなダメージを負った母親がそのほとんどを負担していると思われます。骨盤底筋の回復のためには4~5週間は横になっていないといけないのですが、これでは不可能でしょう。

 出産後は医療者も家族も赤ちゃん中心となり、母親は自己犠牲を払って授乳や育児をするのが当然だという風潮があります。これは過去の自分を反省して言うのですが、産科医は、無事に赤ちゃんが生まれて母体の出血が止まった後、母親にはあまり興味を持っていません。男性の医師は特に乳房を診ることに対して気が引けるという医師も多く、授乳については助産師任せにしている産科医がほとんどです。

 助産師によっては母親に大変厳しい指導をしていたり、根拠なく特定の食べ物の摂取を控えるように指導したりする助産師もいて、産科医が無関心であるため母親は逃げ場を持たないで追い詰められることもしばしばあると思います。問題は、かつての育児経験者の一部がそんなのは母親になったなら当たり前だと考えていることで、これは最近議論の的となっている体罰問題と同じで、自分が乗り越えてきた労苦を無駄だったと思いたくないために肯定し、新たな母親にもそれを強いるという構図だと考えます。

産後ケアに力を注ごう

 日本の病院出産の安全性は世界一ですから、充実した産後ケアを求めてわざわざ外国や助産院で出産することは産科医として全くおすすめしません。しかし、日本の産院ではもっと母親が身体を休められるよう産後ケアに力を注ぐべきだと思います。母乳育児一辺倒の価値観や無関心は是正されるべきだと思います。人手や予算など今のシステムでは限界がある部分もありますが、まずは産後ケアに興味を持ち、母親に負担がかかりすぎていないか想像力を働かせることが大事だと思います。

 こちらのブログで再三書いていることですが、親に余裕を持たせることが、もっとも子供のためになると感じます。費用の問題もあり、産後院という箱が広まるかどうかは今はわかりませんが、産後の母親に対する意識だけでも改善されればなあと思います。

 私が産まれた神戸パルモア病院にて、産後のお母さんのいろんな相談に乗る外来を開いています。詳しくはこちら

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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14件 のコメント

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産後ケアに興味を持つことに共感

あんこ

出産経験者ではありませんが、姉の産後の子育てを手伝った経験があります。手伝ったというより育てたと言ったほうが近い状態でした。親が病気だったため親...

出産経験者ではありませんが、姉の産後の子育てを手伝った経験があります。
手伝ったというより育てたと言ったほうが近い状態でした。
親が病気だったため親の代わりに私が姉の子供たちの面倒を看ることになったのですが、
産後の姉も親に助けてもらう事が出来ないことに不安とプレッシャーを感じていましたし
私自身も親の介護、姉の子供の面倒を看ることの両方をすることは非常にきつかったです。結果、子供たちについイライラして怒ってしまう事があったり、
その後、子供たちに可哀想なことをしたと自己嫌悪に陥ってしまったりとついには自分も体を壊してしまう結果になりました。
出産で体力を消耗していない叔母である私でも新生児の面倒を看ることでヘトヘトになりました。人様々で一人で子育てをできる方もいるでしょうが、
体力がない人や周囲に助けてくれる人がいても子育てで体力を消耗する方もいるでしょうし、家庭の事情を抱えている人もいるでしょう。
産後の子育てを一人でしなければならないプレッシャーを抱えた母親の心理や状態が子供に悪影響を与えることやその後の家庭環境を変えてしまうこともないとは言えないと思うので、産後ケアが充実することは望ましいことだと思っています。
お母さんが安定した心身を保てない状態にあると、その結果イライラしてしまったり子供にも悪影響を与える等、
負のスパイラルに入ってしまうことも大いにありえます。
あのとき産後院のようなものが日本にもあったら
姉も不安を抱える事がなかったでしょうし、私も体を壊さずに済んだだろうな~と思います。
冷めてると言われるかもしれませんが、産後院のようにお金で解決できるものがあっても良いと思いますし、産後ケアはとても大切なものだと感じています。
産後の母親の心身の安定があってこそ、その後の健やかな育児ができるのではないでしょうか?



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うーん

ココ

母子同室の意味をわかってそこで出産されといて批判するのは違うと思います。確かに産後すぐ叩き起こされて授乳は大変ですし、寝かせてーと言う気持ちはあ...

母子同室の意味をわかってそこで出産されといて
批判するのは違うと思います。
確かに産後すぐ叩き起こされて
授乳は大変ですし、寝かせてーと言う気持ちはありました。
でも。。。育児のかけがえのない期間は帰ってきません。
今は核家族が多いかもしれません。うちもそうです。
赤ちゃんへ配慮ない書かれ方に逆に心が傷みました...
海外は...とありますが。ここは日本です。
また、授乳については人権だのどうだの書いてありましたが
やるやらない、出来る出来ないは自分で決めていいと思います。
後々育てるのは自分だから
育児が大変なのは誰のせいにもしないでほしい
これから生まれてくる赤ちゃんの世話も誰もあてにしないで
妊娠中から、出来ることを想定して
ヘルパー、保健所の保健師、産後の買い物宅配サービス等調べる。
やれることをやってそれから愚痴でも遅くはないのでは?
それぞれの役割と言うものがあるんですから
うちは、核家族で30歳兼業主婦、子どもが6人、うち一名は自宅出産です。
楽しく乗り越えられる為には、これでもかというくらいの準備が必要と思います。
周りの意見や考えに振り回されることないです。
自分だけの育児書をつくりましょう

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産前・産後支援ヘルパー

マイママ

杉並区は産前・産後支援ヘルパー 事業(課税世帯は1時間1500円)産前または産後の体調不良の時期に、ヘルパーを派遣して、お母さんや赤ちゃんの身の...

杉並区は産前・産後支援ヘルパー 事業(課税世帯は1時間1500円)
産前または産後の体調不良の時期に、ヘルパーを派遣して、お母さんや赤ちゃんの身の回りの世話や育相談を行い、保護者の子育てを支援する事業です。
産婦さんを守るため(しっかり骨盤が回復しないとその後労働力にならないとこまることが昔の方はわかっていた)に床上までは寝ているようにという風習が廃れてしまいました。
行政の制度は居住している市町村によっても違うでしょうが、ママ自分や赤ちゃんを守るためにも里帰りできないママは里帰りの費用を考慮すると(実家の父に費用を請求されたというママもいます)は利用しても良いのではないでしょうか。

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