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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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母親は何の病気なの?~「東京物語」と「東京家族」

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©2013「東京家族」製作委員会

 今回は、世界に誇る日本映画の名作「東京物語」(監督:小津安二郎、1953年)と、この作品をモチーフに制作された「東京家族」(監督:山田洋次、1月19日全国公開)を紹介します。

 「東京物語」は、英国映画協会発行の「サイト・アンド・サウンド」誌が2012年8月に発表した、世界の映画監督358人の投票で選ぶ優れた映画で、1位に選ばれました(ちなみに世界の映画評論家が選ぶベスト1は、昨年11月にこのブログで紹介した「めまい」です)。それほど世界的に評価が高い作品ですから、日本人なら一度は観るべきです!

 ……などと、したり顔で言っていますが、私が東京物語を観たのは、実はわずか5、6年ほど前。レンタルのDVDでした(苦笑)。

 映画の内容を、読売新聞の記事から引用します。

 

 広島・尾道に住む老夫婦(笠智衆、東山千栄子)が、東京で暮らす子供たちを訪ねる。だが、長男(山村聡)、長女(杉村春子)は仕事で忙しく、戦死した次男の妻、紀子(原節子)だけが親身に世話をする。低い位置から対象をとらえる小津独特のローポジションの撮影で、微妙にずれる親子の意識を描き出し、普遍的な家族の物語として世界中で高く評価されている。

 

 東京家族は、東京物語の舞台を現代に替えて焼き直したもので、ストーリーの大筋は同じ。一部は異なるものの、長男が開業医、長女が美容院経営という設定も同じです。

 2012年5月、瀬戸内海の小島で暮らす平山周吉(橋爪功)と妻のとみこ(吉行和子)は、子どもたちに会うために東京にやってきた。最初は互いを思いやるが、のんびりした生活を送ってきた両親と、都会で生きる子どもたちとでは生活のリズムが違いすぎて、少しずつ溝ができていく……。

 二つの映画とも、登場人物は、どこにでもいそうな人たちです。両親が上京してきたため、長男は休みをとり、家族みんなで両親をどこかへ連れて出かけようとするのですが、急患が入り、キャンセルして往診に行きます。今なら大抵の地域に「当番医」の体制があり、こんな特別な休日ぐらいは他の医師に診療をお願いしそうなものなのに、このエピソードは現代版の東京家族でも同じです。長男は仕事熱心でまじめな人なんですね。

 子どもたちは、親を大切に思う気持ちはあるのだけれど、自分の仕事や家族のことで精いっぱい。親へのうとましさも徐々に感じるようになり、結果的に寂しい思いをさせてしまう。高齢社会や核家族、親子間のギャップという普遍的なテーマを描いているからこそ、東京物語の公開から60年たった今でも、国内外を問わず十分理解されるのでしょう。だから、現代版の東京家族でもストーリーに共感できるし、泣けるのです。

 さて、医療ネタに移ります。少しネタバレになりますが、超有名な作品なのでいいですね。

 母親が突然、病気で倒れるのですが、病名が出てこないのです。

 東京物語の記憶は薄れているので、改めて観てみました。やっぱり病名は出てきません。

 元気だったのに急に倒れて危篤状態に陥り、その翌日未明には亡くなっていることを考えると、心臓や脳など、命にかかわる部位の疾患だと思われます。

 東京物語では、母親が帰りの電車で気分が悪くなり、大阪で途中下車したことについて、大阪に住む三男が職場の同僚に、「なんやしらん、(胸からのどに手を動かして)この辺、むかーっとして気持ち悪い、言いよるんですわ」と話しています。ということは、心臓の疾患なのでしょうか。

 東京物語を観て、「へ~」と思った場面があります。郷里の尾道から危篤の電報が長男と長女に届き、場面が尾道に変わると、そこは病院ではありません。母親は自宅の布団に横になり、頭には氷のうを乗せています。傍らで、父親がうちわをあおいで風を送っています。

 これじゃあ、風邪で熱が出て寝込んでいる人と同じじゃん! 60年前は、たとえ危篤でもこんな感じだったんですね~。びっくりしました。さすがに東京家族では病院に入院していましたね。こうした違いを見比べるのもおもしろいかもしれませんよ。

 東京物語で気になったことがもう一つ。昏睡(こんすい)状態に陥った母親を前に、地元の医師が開業医の長男に「アーデルラッスしてブルートドルックは下がったが、コーマが取れない」と説明します。何のこっちゃ??? ネットで調べると、ブルートドルックはドイツ語で「血圧」、コーマは「昏睡」の意味なんですね。でも、アーデルラッスが分かりません。どなたか分かる方がいたら教えてください。

 最後に、東京家族を観ての率直な感想を。

 東京物語からもう60年も時間が経過しているのですから、設定やストーリーをもっと大胆に変えても良かった気がしました。オリジナル作品をリスペクトするあまりに、セリフ回しも含めて「これって2012年の話?」と戸惑うことも。それに、母親「とみこ」の年齢は、東京物語の「とみ」と同じ68歳。今の68歳はすごく元気ですから、80歳ぐらいの設定にした方が良かったのでは。

 それでも、オリジナルの良さはしっかりと引き継いでいます。

 優しさと冷たさ、強さと弱さ、利己と利他…。そんな相反する面を併せ持つ「普通」の人たちの日常を、丁寧に切り取ってみせる。だからこそ、感情移入しやすい。私の場合、周吉夫妻の姿に、福岡で暮らす私の両親の姿を重ね、周吉が次男の昌次(妻夫木聡)のことを語る場面では、周吉に自分自身を重ねました。

 この映画のキャッチコピーは「これは、あなたの物語です」。

 言い得て妙です。

 う~ん、去年のお盆も年末年始も帰省しなかったし、福岡に帰りたくなってきました……。

 

◇◇◇ ご購入はこちらから ◇◇◇

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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6件 のコメント

軍配は「東京物語」に

秋季高齢者

山田洋次ともあろうものが、小津作品に挑むとは無謀でした。役者の違いを見せつけられました。橋爪には、笠が持つ不器用さの味を追いかけすぎていました。...

山田洋次ともあろうものが、小津作品に挑むとは無謀でした。役者の違いを見せつけられました。

橋爪には、笠が持つ不器用さの味を追いかけすぎていました。役者は自分の個性を大事にすることが基本でしょう。

3・11に触れない訳にいかなかったと監督の気持ちが分かりましたが、流れとは無関係で見る人に訴えるものが少なかったようです。

山田監督には、リメークでなく「ご自分に捧げる映画」を作って欲しいと思いました。

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山口博弥(読売新聞)

両方見た高齢者さま リメーク作品の難しさ。私も本当にそれを感じました。  しかし、世界の監督が選んだナンバーワンの映画を、あえて(かなり忠実に)...

両方見た高齢者さま

 リメーク作品の難しさ。私も本当にそれを感じました。
 
 しかし、世界の監督が選んだナンバーワンの映画を、あえて(かなり忠実に)リメークした山田監督の意欲は素晴らしいと思います。

 若い世代の方は、山田作品の方がしっくり来るのかもしれませんよ。

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「東京物語」・「東京家族」

両方見た高齢者

原節子の優しさに、東山千栄子が「あんたは、いい人だね」。蒼井優の優しさに、橋爪功が「あんたは、いい人だね」。山田洋次は震災や原発事故を入れたが、...

原節子の優しさに、東山千栄子が「あんたは、いい人だね」。蒼井優の優しさに、橋爪功が「あんたは、いい人だね」。
山田洋次は震災や原発事故を入れたが、本筋とは関係なく、肩すかしは否めません。
笠智衆の飄々としたー上手とは言えない演技ー台詞と、橋爪功が似せようと苦労していた。

蒼井優が「私、決していい人ではありません、仕方なく‥」が出て、山田洋次の顔が見えた。

リメーク作品の難しさ。代表する映画監督でも、「武士の一分」にまさる映画を作るのは難しい。素人の感想。

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