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家族でみとる道しるべを(2)

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第2部 シンポジウム

モデレーター(順不同、敬称略)
東京大学死生学・応用倫理センター特任教授 清水哲郎
昭和大学研究推進室講師 田代志門



小冊子で心立て直す

 松本陽子さん 愛媛がんサポートおれんじの会理事長

 19歳で父親をがんで亡くしました。当時はがん告知の議論もなく、父には胃潰瘍だと言い続けました。一人娘に残したい言葉も聞きとってやれず、大きな後悔が残っています。

 私ががんになったのは13年前です。手術や抗がん剤治療に4年かかりました。その時に示された情報は、同意書に書かれた副作用の説明だけ。希望は見えませんでした。「治療は元の暮らしを取り戻すためです」という一言が欲しかったのです。

 4年前、地元の患者・家族の会「愛媛がんサポートおれんじの会」を作りました。活動の柱は、交流、学び、社会への情報発信です。ただ、正しい情報は時として私たちを追いつめるため、崖っぷちにある家族が安心できる情報を提供しようと小冊子を作りました。まずは安心して心を立て直し、次に正しい情報を頭に入れてもらえればと願っています。

 緩和ケアの勉強をしていたのに、実際に痛みが現れると「自分のことと結びつかなかった」と言う方もいました。情報を、どう心に伝えるかが難しいと思います。

 

在宅療養で趣味満喫

 相沢出さん 爽秋会岡部医院主任研究員

 近年、在宅療養が注目されていますが、病院の外で本当に大丈夫か、心配されている方も多くいます。

 現在、各地で在宅緩和ケアを担っている診療所の多くは、医師が1~2人、看護師数人という小規模のところです。診療所のスタッフは、地域の病院や介護事務所、薬局などと連携し、在宅療養する患者さんを最期まで支えています。

 介護の支援や自宅での療養環境の調整が適切になされるとき、患者さんとご家族は、趣味を楽しむなど充実した時間を過ごせています。胆管がんの70代男性は退院後、在宅診療所を利用して、約3か月を趣味を満喫しながら自宅で過ごしました。

 しかし、こうした支援がなされた場合でも、在宅での療養を中断する方もおられます。宮城・福島両県の在宅緩和ケア6診療所の協力で遺族調査を行った結果、2割の患者が在宅療養を中断していました。その理由で最も多いのは、「患者の急変に対する家族の不安」でした。その不安がどこから生じているのか、今後検討したいと考えています。

 

患者の思い語る場を

 中山康子さん 在宅緩和ケア支援センター「虹」代表理事

 私は看護師で、仙台市でデイサービスのNPOを運営しています。主にがん患者や、様々な病気の終末期、神経難病の方に対応しています。

 医療相談で、治療や在宅の選択について「あなたはどうしたいですか」と尋ねると、言葉に詰まる患者さんが多くいます。選択を迫られると、普段あまり考える機会のない「自分らしさ」に直面するのです。

 医療の世界は複雑なので、一般の人が自分で選ぶのは難しく、自分の悩みを言葉で表せない人も多くいます。だから、もやもやと漠然としたものを語る場が大切だと思います。

 強調したいのは、がんの拠点病院にある相談支援センターの役割です。ソーシャルワーカーや看護師がいますが、単なる情報提供にとどまらず、患者の生き方も踏まえて相談を担っていく体制が理想的です。

 「ピアサポート」など、患者が別の患者の相談に応じるという場も増やしていくべきです。宮城県では、がんを経験した方がリーダーになり、退院時の支援用の冊子を作り、無料配布しています。

 

病院と在宅医 協力を

 的場元弘さん 国立がん研究センター 中央病院緩和医療科科長

 日本医師会が医師26万人に行ったアンケートでは、「痛みの緩和に関する知識や技術が十分ある」と答えた医師は2割にとどまりました。がん患者を診る診療所で、緩和ケアが必要な時に専門家の支援を受けられるのは30%、がん以外が専門の診療所ではわずか16%でした。拠点病院でも、十分な支援体制があると答えた医師は約60%でした。

 国立がん研究センター中央病院では、中央区医師会の協力を得て、緩和ケア研修の中に在宅の研修を取り入れています。その結果、参加医師は、在宅医への情報提供、訪問看護師やケアマネジャーへの配慮などの面で意識が変わってきました。

 例えば、痛みを和らげる医療用麻薬を使っている患者さんに自宅で使いやすい製剤を選ぶ、分かりやすく情報提供する――など、在宅で痛みの治療を続けやすいようにあらかじめ対応することが増えています。

 病院の緩和ケアチームも、地域の医師が感じている難しい問題に協力し、勉強会などを通じて知識や技術の共有をしていくべきでしょう。

 

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