文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

新出生前診断指針案 妊婦の「知る権利」に課題

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
新型出生前診断の申込書と血液を入れる容器

 妊婦の血液でダウン症など3種類の胎児の染色体異常がわかる新型出生前診断について、日本産科婦人科学会(日産婦)が指針案を公表した。施設を限定し慎重な実施を求めたが、妊婦への情報提供など議論もありそうだ。

 指針案は、新型の出生前診断が安易に実施されることは、障害者の命の否定につながりかねないとして懸念を表明。実施できるのは、遺伝カウンセリング体制の整った施設に限るとした。

 常勤の産婦人科医と小児科医がおり、どちらかが遺伝の専門資格を持つことなどが条件で、第三者機関で審査する。検査の対象は、35歳以上の高齢妊婦や、超音波検査などで胎児に染色体異常が疑われる妊婦などに限定。日産婦のホームページで1か月間、一般の意見を募ったうえで、3月にまとめる方針だ。

 産婦人科や小児科、遺伝の専門家などが集った指針案策定の過程では、様々な議論があった。

 遺伝子医療に詳しい斎藤加代子・東京女子医大教授(小児科)は、現在140人いる認定遺伝カウンセラーや遺伝の専門資格をもつ小児科医がいることを、「施設の絶対的な条件に加えるべきだ」と主張した。「人数が足りず、現実的でない」と見送られたが、ダウン症児の育ち方をよく知る小児科医の重要性は、言うまでもない。現在不足しているのが理由であるなら、条件の一つとすることで人材育成も図られるのではないか。

 日産婦側が当初求めた、法整備や第三者機関への国の関与も、指針案には盛り込まれなかった。国が関わる法的根拠がないことなどが理由だが、今後の生殖医療のあり方や規制の実効性を考えるうえでも、引き続き国の関与を求めていくことは重要だろう。

 指針案で議論を呼びそうなのが、新型出生前診断について、「医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない」とした点だ。

 国の厚生科学審議会専門委員会が1999年、ダウン症などの確率がわかる「母体血清マーカー」について慎重実施を求めた見解に沿うものだが、日産婦は2011年の指針で、検査が普及した欧米の現状などを踏まえ、「適切な情報提供が求められる」と、考え方を事実上修正している。

 今回の新型診断の指針案は国の見解に沿い、「知らせる必要はない」とした点について、斎藤有紀子・北里大准教授(生命倫理学)は「非確定的な検査であり適切だ」と評価。「ただし、妊婦の知る権利を保障するため、説明を求められた場合は、十分に配慮するなどの文言も必要だ」と語る。

 これに対し、検査導入を検討している医療機関の産科医は、「検査を受けるかどうかを選ぶのは本人。今も妊婦はきちっとした情報が不足している。十分な遺伝カウンセリングが前提であり『知らせない』のはおかしいのではないか」と、首をかしげる。従来の出生前診断はそのままで、新型にだけ厳しい条件を付けることへの疑問の声もある。

 米国では昨年、妊婦の血液と父親の唾液から胎児の全ての遺伝情報(ゲノム)を解読することに成功。実用化すれば、生まれる前に胎児の遺伝子が全てわかり、遺伝子変異による病気のない子どもだけを産むことも可能になるかもしれない。

 日本ダウン症協会は、今後、検査はあらゆる遺伝子の変化が対象になると指摘。「この点が深く議論されることがないことを強く危惧する」とのコメントを発表した。次にどの病気が対象になるかという議論は果てがなく、どこに線を引くかという問題ではすまされなくなるためだ。

 日進月歩の生殖医療に、どう向き合っていくのか。場当たり的ではなく、今後いかなる社会を目指していくのかという理念に基づいた指針作りが求められる。(医療情報部 加納昭彦)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事