宋美玄のママライフ実況中継
医療・健康・介護のコラム
親になるための教育って?

先週半ば、娘の左耳から耳だれが出たので、耳鼻科を受診しました。中耳炎と診断され、点耳薬とドライシロップの抗生剤を処方されたのですが、子供の舌に合わせた薬のようで、ごくごく飲んでくれて助かりました。薬を飲んで良くなりましたが、子供は中耳炎になりやすいので今後も注意しようと思います。
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先週の記事にたくさんのコメントをありがとうございました。興味深いものも多いので、前回の記事のコメント欄を読んでみてください。
安倍総裁が会長「親学推進議員連盟」とは
そうこうするうちに総選挙が終わりました。少子化対策や子育て支援についてはあまり争点になりませんでしたが、新政権がそれについても当然担うことになります。選挙期間中に触れるのは控えていましたが、安倍晋三自民党総裁は親学推進議員連盟の会長なので、子育てに関する考えは明らかと言っていいでしょう。
「親学」とは聞き慣れませんが、一般社団法人親学推進協会が提案している思想で、「親になるためにこれだけは学んで欲しいこと、それを伝えるのが親学です」とホームページには書かれています。親になるための教育、と言ったところでしょうか。
記憶に新しいところでは、親学推進議員連盟が5月末「発達障害を予防する伝統的子育て」をテーマに勉強会を開きましたが、発達障害は親の育て方で生じる、または防げると受け取られかねない内容だったため、発達障害の方や親たちから抗議が殺到したということがありました。発達障害は生まれついてのものなので予防はできませんし、親のせいではありませんから抗議されるのは当然です(養育者との愛着形成がうまくいかずに起こる愛着障害については以前の記事で触れましたが別物です)。国会議員や国のリーダーがそのような認識でいるということは、子育てをする者にとってはとても息苦しく不安なことです。
嘆かわしい「発達障害が予防できる」
先日、児童精神科医で「あなたのまわりのコミュ障な人たち」(ディスカバー携書)著者である姜昌勲(きょう・まさのり)先生とお会いして話していたのですが、「過去、発達障害は親の養育によるものとされ、言われなき非難を母親たちは受けてきました。ようやく、発達障害とは生まれつきの脳の機能障害であり、予防できるたぐいのものではないことが知られるようになってきたのに、最近の『親の学習で発達障害が予防できる』という論調がまかりとおるのは嘆かわしいことです。もちろん乳幼児期の愛着形成はとても大切ですが、それが発達障害の二次障害を予防することは可能であっても、『発達障害そのもの』を予防することはできないわけです」と言っておられました。
そもそも、親になるための教育、とは何なのでしょうか。私は現在母親1年生ですが、親になる心構えや子育てに取り組む姿勢というものは誰かに教えられて学ぶというものではないと感じています。妊娠中は「親の都合で妊娠したんだから何があってもちゃんと育てなくては」と気負っていましたが、実際に娘が産まれてからは日々娘と過ごしているうちに親としての自覚や愛情が自然と湧き出てきました。誰かから教わっても、頭に残るだけで心に響くものではないと思います。前出の姜先生は、「学習っていうのは大切ですけど、子どもに勉強を無理やりさせても全く身につかないように、自発的に習得してナンボのもんなんですよね」と言っておられました。
道徳論で母親を追い詰めても
ものごとには順番があります。人間はまず衣食住が足りて、さらに健康や安全性が保たれてからでないと、愛情を求めるようにならないように、親だって余裕がなければ自覚も愛情も湧いてこないと思います。虐待やネグレクトの事件が報道される度に「親になるための教育がなされていない」などという批判が多く出ますが、虐待する側の不幸な世代連鎖や育児に対する余裕のなさに目を向けず、道徳の問題として捉えても、親の心を動かすことにはならないでしょう。
姜先生はまた、「自傷行為を繰り返す少年少女に命の大切さを問うても無意味。彼らは自分を大切にされたことがないと感じているから、自らを傷つける。自分たちは大切な存在であるということをわかるように、育てなおしの過程が必要なわけです。母親たちを道徳論などで追い詰めず、社会的インフラ(保育園の待機問題)などを整えていく構造設定、環境調整こそが、精神論より何より大切だと思う」とも言われました。
きれいごとや道徳論で日本の未来を良くしようとしても、ギリギリで頑張っている人ほど追いつめられるのは子育てに限りません。日本のリーダーにもリーダーでない人たちにもそのことをよくご理解いただきたいです。
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発達障害を予防する伝統的子育ての勉強会について、「国会議員や国のリーダーがそのような認識でいるということは、子育てをする者にとってはとても息苦しく不安なこと」と書いておられますが、いささかナーバスに捉えすぎではないかと感じます。
彼らは教育発達学の専門家ではありません。(彼らの「参謀」の意識レベルが低い、ということはあるでしょうけれど)
言葉の使い方が不適切であれば、指摘して正していけばよいことであり、あまり真っ向から批判しては無用に敵を増やしてしまう気がします。
私も「親になるための教育」は、「親になるため」に勉強しても一朝一夕には身につかないと感じています。
むしろ「相手が子どもであるかどうかに関わらず、人とコミュニケーションするときに大切なのは何か」というコミュニケーション能力と、もう1つは「人として生きていく上で大切なことは何か」という哲学的なことを考える力の2つが、親として根本的に大切なことではないかと感じています。
逆に言えば、「子育てに困っている」「子育てに自信がない」と言っている親を見て感じるのは、これらの2つの能力が身についていない方に多いように思われます。これら2つが身についていれば、あとのことは親になってから学んでも遅くはないと思います。
もう1つ「自己肯定力」もありますが、これは自分自身で身につけるのは難しいので、ここは「親学」の出番ではないかと思っています。
「親学推進協会」も全くおかしな理念・活動をしているというわけでもなさそうですので、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」とならないことを願います。
「不安を抱えて子育てをしている親たちに対して、安心を与えたい」その理念は間違ってはいないと思います。
社会に影響力を持つ方々が互いに過剰に批判しすぎることなく、協調して社会をより良くしていっていただけたらと願います。
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親学、誕生学など、「学」を付けるとそれがあたかも「正当なもの」といったイメージがつきますが、中には特定のイデオロギーを繰り返すのみであるものもあ...
親学、誕生学など、「学」を付けるとそれがあたかも「正当なもの」といったイメージがつきますが、中には特定のイデオロギーを繰り返すのみであるものもありますね。
また、講習や検定などを独自に設けお金をとっていたりして、一種のセミナー商売の面もあるかと考えます。
幸いインターネットで情報が主催する団体や人物について、自分で情報をとり検証できる時代ですから、気をつけてゆきたいものですね。
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愛着形成を大事にする姿勢は共通では?
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「発達障害を予防する伝統的子育て」というフレーズに、反感を募らせていらっしゃるようですね。「発達障害が親の育て方で生じると、誤解をまねく」とのこ...
「発達障害を予防する伝統的子育て」というフレーズに、反感を募らせていらっしゃるようですね。「発達障害が親の育て方で生じると、誤解をまねく」とのことですが、先生も以前のトピで「3歳までの愛着形成がうまくいかないと対人関係に問題を生じる」と書かれています。一般人には、発達障害と愛着障害によるコミュ障との区別はつきません。彼らの主張は、先生が「愛着形成」を重視されることに、相通じるように思えます。
「親学」推進協会は何を推奨するのか、新聞記事で調べてみました。
1)子守歌を聞かせ、母乳育児、2)乳幼児に長時間TVを見せない、3)早寝早起き朝ご飯、4)PTAに父親も参加、5)インターネット有害サイトからフィルタリングで子どもを守る、6)企業は就労する母親に授乳休憩を、7)TVではなく芸術鑑賞を、8)乳幼児検診時に親学講座を、8)道路を子どもの遊び場に開放、9)幼児には挨拶などの徳目、学童には社会性などの徳目を習得させ、思春期からは自尊心を保たせる。
おおむね妥当な内容だとは思うのですが、母乳育児の推奨が、母乳の出ない母親を追い詰めることにならないように、「ミルクでも大丈夫だよ」と母親をしっかり支えるべきは、医師や助産師ではないでしょうか。
父親のPTA参加、働く母親の授乳休憩、子どもの遊び場確保、学校や親子で芸術鑑賞などは、行政や社会ぐるみで支援してほしいものです。早寝早起き朝ご飯などの生活習慣は、成人後の健康維持にも大切です。検診時の親学講座では、予防接種の受け方とか、乳幼児の罹りやすい病気とか、子育て支援の情報などを提供すればよいのではないですか。
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