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漫画家・一本木蛮さんインタビュー(3)不妊を隠さずラクになった

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 ――治療中の気分の浮き沈みにどう対処していましたか。

 「まず、妊娠の期待が大きければ、うまくいかなかった時の落ち込みも大きくなります。1回ごとに、熱くなりすぎないことが大切です。ギャンブルにたとえれば、あり金をすべてつぎこみ、力一杯応援するのではなく、宝くじを買う感覚ですね。宝くじは、買ってから、しばらくねかせておいて結果が出る。当たったらラッキー、あたらなかったら、次回に挑戦しようと、気楽に構えることです」

 「でも、新しい治療を始めたばかりでは、気楽に構えることは難しいかもしれません。どうしても、楽観的に考えるというか、期待が高まってしまうものです。私も、人工授精から、体外受精にステップアップした時は、すぐに妊娠できるのでは、と期待しました。世間では、治療がうまくいった人のことはとりあげられるけど、うまくいかないケースはなかなかとりあげられていないということも大きいでしょう。治療に限りません。よく、芸能人が45歳で自然妊娠といったニュースが出ると、『私も大丈夫』『まだまだ希望はある』と思ってしまうものですよね」

 「ホルモン分泌の変化が感情に影響することに気付きました。私は、ホルモンバランスにあわせて仕事を工夫していました。排卵前は、とにかくネーム(構図やせりふなどを決める作業)や、新しい作品の企画書をつくる、といった頭を動かす仕事をしました。排卵後は、あまり頭を使わず、ひたすら手を動かして漫画を描く、ことに集中しました。ストレスなく、でも、マイナスなことを考えてしまうような暇な時間は作らない、という工夫です。自分の都合で仕事を調整できない人もいると思うけれど、治療を始めて、徐々に、揺れ動く感情とどうやってうまく付き合うか、自分なりの対処法がわかってきます」

 ――周囲との接し方でポイントはありますか。

 「難しいかもしれませんが、不妊や、治療を隠さないことをおすすめします。よく、不妊治療はつらい、と言いますね。でも、私の場合、一番つらかったのは、治療に入る前でした。なかなか子どもができないのに、周囲には何も言わなかった。つらかったです。『夫婦2人、自由で羨ましい』『早く子どもを作った方がいいよ』と言われて傷ついたり、子どもにお金がかかるという愚痴を延々と聞かされて、『目の前にいる子どもにお金をかけられていいわね。私は、それをやってみたいのに』とイライラしたりしていました。選挙のポスターで、『子育て支援』とか、『働くママ応援』とかキャッチフレーズが描いてあると、いちいち、『私はママじゃないけどね』とまたいらつきました。映画をみても、『子どもを出産してからみて良かったわ』という感想を聞くと、『ああ、この映画は子どもがいない私が見る価値はない映画なんだ』となぜか、マイナスにとらえてしまう。『色んな立場の人がみれば、色々な感想があるものだなあ』とは思えなかったのです」

 「ところが、治療を始めて、作品を描くことで、隠さなくなりました。ものすごくラクになりました。言っちゃったもん勝ちというのかな。子どものことも相手に言われる前に言っちゃうんです。久しぶりに会う友達に『子どもはどう考えているの?』とかぶしつけに言われる前に、『なかなか子どもができなくて。だから今治療しているんだよ』『元気なママ目指して治療始めたの』と明るく言ってしまうと、相手はよほどのことがない限り、失礼なことは言ってきませんよ」

 「不妊という言葉は、どうしても『不』という強い打ち消しの言葉がついているので、負い目に感じる人が多いのではないでしょうか。でも全然恥ずかしいことじゃないし、悩んでいるのは自分たちだけじゃないんです。同じアパートやマンションには、必ずほかにもう一組はいる、と考えてほしい。妊娠するために前向きに頑張っているということがわかれば、周囲も応援してくれます。そうやって、周囲によき理解者を作ることが、心をラクにしてくれます」

 ――それでも、先の見えないつらさはあると思います。どう対処すれば良いでしょうか。

 「時には、暗いアリジゴクに落とされたような思いにかられるかもしれません。そこで、何もしないで沈むより、前向きになってはい上がろう、何とかのぼってやろう、と楽しんで挑むような強さを持ってほしい。たとえ、その先に子どもが待っていなくても、必ず私たち夫婦にとって実りはある、と気付く時が来ます」

(おわり)

一本木蛮(いっぽんぎ・ばん)
 1965年、横浜市に生まれる。高校時代から同人誌に投稿し、82年にプロデビュー。元祖コスプレアイドルとしても知られる。主な作品として「一本木蛮のキャンパス日記」「同人少女JB」「じてんしゃ日記」。治療体験をまとめた「戦え奥さん!!不妊症ブギ」(小学館クリエイティブ)がある。

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