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漫画家・一本木蛮さんインタビュー(2)夫の協力でリアルな作品に

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 ――長らく不妊治療体験をマンガにして発表し続けていました。どのような思いから描くことになったのでしょうか?

 「これまで不妊や不妊治療をテーマにしたマンガはほとんどありませんでした。あっても、体験したことのない人が描いたもの。ならば、私が当事者としての体験を生かして、踏み込んでリアルに描きたいと強く思いました。描くならば、そう簡単に妊娠するのでなく、一通り治療を体験してみたい。タイミング、人工授精、体外受精、顕微授精。いったいどんなものなのか、妊娠への期待、失敗した時の落胆。よくジェットコースターにたとえられるけれど、そうした心のアップダウンを感じて、描いてみたい。そう思って、描く気満々で治療を始めました」

 「診察が終わって、検査に呼ばれるまでの間、待合室で、『今みたことをちゃんと残しておかなければ』と、クリニックの見取り図や内部の様子のスケッチをしていました。診察日には、ノートに質問事項をびっしりメモして受診しました。で、熱心にメモをとるわけです。先生には、作品にすることは言ってなかったので、どう思っているか気になっていました。ある日、先生が『いやあ、張り合いがあるなあ。一緒に頑張ろうという気持ちになる』と言ってくれました。私もその言葉を単純にうれしいと受け止めて、さらに力が入りました」

 ――反響はいかがでしたか?

 「当事者が描いているので、『あ、この人はわかっているな』と共感してもらえたのでしょう。沢山のお便りがありました。だから、私の体験だけでなく、読者の体験談を募集して、作品に生かすことができました。手紙をもとに、まずは、色々想像していきます。どんな家に住んでいるのだろう。一戸建てなら、お姑さんと同居かな。どんなストレスがあるかな、って。『この場面で泣くのでは』などその人になりきって感情の動きを考えることが、自分の心の整理にも役立ちました」

 「夫にも感謝してます。『漫画家の配偶者になるということは、自分も描かれるということ』と覚悟を持ってくれていたので。精液検査の通知も、そのままアシスタントに『この通り描いて』と指示していました。協力があったからこそ、リアルに描けました」

 ――テレビのドキュメンタリー番組(2012年6月放送 フジテレビ ザ・ノンフクション 君を待っている~不妊治療の今~)の取材を受けたのはなぜですか?

 「制作会社から取材の依頼があったのは、ちょうどお金がなくて治療を休んでいた時期でした。体外受精は、採卵、移植、薬ともろもろあわせて1回あたり50万円ぐらいかかってしまいます。我が家は、そんなお金、すぐには出てきません。ある程度ためて、治療をするというスタイルでした。制作会社から、不妊をテーマにドキュメンタリー番組を作りたいけど、顔や名前を出して取材に応じてくれる夫婦がいない、協力してもらえないか、と打診がありました。今、治療中の人や、これから治療を受けたいと考えている人の役に立つのなら良い、との思いで承諾しました。治療を再開してから、カメラの密着取材を3年間ほど受けました。もちろん、クリニックの中はほかの患者さんがうつらないように、大勢のスタッフで押しかけないように、と十分配慮を御願いしました」

 ――治療をやめる、と主治医に告げた時も、カメラがまわっていましたね。

 「はい。昨年8月7日、夏真っ盛りの時です。顕微授精の判定を聞きに受診したのが最後です。だめだったと聞き、主治医に、これで最後にすることと、長い間お世話になった感謝を伝えました。主治医も、淡々と、お疲れさまでした、と声をかけてくれました。診察室を出たスタッフが、慌てて私にこう聞いてきました。『え、いいのですか?まだ凍結した受精卵が1個残っていましたよね』って。撮影に入ったばかりの時には、『子どもが授からなかった方がドラマチックな展開になる』と言っていたスタッフが、最後はしみじみと、『蛮さん夫婦に赤ちゃんを抱いてほしかった』と言ってくれました」

 ――放送では、採卵や診察といった治療や夫婦の日常まで伝えていました。反響はありましたか?

 「放送中は、携帯がなりっ放しでした。知人や、マンガを教えている学校の若い生徒、漫画家の大先輩・・・・治療は隠していなかったけれど、手術室での採卵・移植のシーン、自宅での自己注射のシーンなどありのままを伝えてもらったからか、『こんなに大変なことだったんだね』という驚きも多かったです。テレビをみたという治療中の方からも反響がありました。最近でこそ、治療を公表する著名人が出てきたけれど、子どもを授からずに治療をやめた夫婦の声はなかなか外に出ません。実は、治療で子どもを授かる人より、子どもを授からなかった人の方が多いのでは、と思うのです。そのような意味からも、子どもを授からなかった私たち夫婦が登場し、率直な思い、姿を伝えてもらったことは良かったのかなと思いました」

(つづく)

一本木蛮(いっぽんぎ・ばん)
 1965年、横浜市に生まれる。高校時代から同人誌に投稿し、82年にプロデビュー。元祖コスプレアイドルとしても知られる。主な作品として「一本木蛮のキャンパス日記」「同人少女JB」「じてんしゃ日記」。治療体験をまとめた「戦え奥さん!!不妊症ブギ」(小学館クリエイティブ)がある。

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