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カルテの余白に

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仲原元清 岸和田盈進会病院リハビリテーション部主任(下)食べる喜び 取り戻す

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 食べ物を口の中でかみ砕き、のみ込む。そして食道を通じて胃に送り込む。少し難しい言葉で「嚥下(えんげ)」というこれらの行為を加齢や病気のためにうまく出来なくなってしまう人がいる。

 岸和田盈進(えいしん)会病院(大阪府岸和田市)リハビリテーション部主任の仲原元清さん(36)は、言語聴覚士として嚥下障害となった人を訓練し、食べる喜びを取り戻す手助けもしている。

のみ込みがうまくできなくなった患者へ、喉を鍛えるストレッチを行う仲原元清さん(大阪府岸和田市の岸和田盈進会病院で)=守屋由子撮影

 

 〈嚥下障害になると、精神的な影響が大きい〉

 風邪などで喉がひどく腫れた時を除いて、意識して「のみ込み」をする人はほとんどいません。それが、喉の筋力が落ちるなどして食べ物や飲料水を食道に入れられず、当たり前のことが出来なくなる。「食べられなくなった」とがっくり肩を落とす人も多くいます。食べる楽しみが奪われると、患者の精神的なダメージは大きいのです。

舌や喉を鍛えて回復

 〈食べられるようになるには、正しい訓練が必要だ〉

 約1年前、軽い脳梗塞で嚥下機能だけが低下する「ワレンベルグ症候群」の70歳代の女性が来院しました。口から食べ物を食べられないため、鼻に入れたチューブを通して栄養を取っていました。やせ細り、顔も青白く、思い詰めたような厳しい表情でした。

 すぐに症状を理解できたので、「正しく訓練すれば、2か月でプリンぐらいは食べられるようになりますよ」と説明すると、女性がわっと泣き出しました。

 10年ほど前に女性は長男を亡くし、その時に嫁を助け、何としても幼い2人の孫を育てようと決意したといいます。しかし、物を食べられなくなり漠然と、「自分は死ぬんだろうか」「まだ死ぬわけにはいかない」と、気持ちが揺れ動く日々だったそうです。

 舌や喉を鍛えるためのトレーニングやストレッチングをしたり、マッサージを施したりしました。水を少しだけ飲んで嚥下に慣れてもらう訓練もしました。女性は約3か月で通常に近い食事を取れるようになり、「人生をもう1回もらいました」と笑顔で退院しました。

最期の瞬間まで手助け

 〈患者が望む人生の最終章を手伝うことができた〉

 主に小脳が萎縮する進行性の難病「多系統萎縮症」を患う70歳代の男性を受け持った時のことです。嚥下機能は落ち、誤って肺に食べ物が入ると命の危険もありました。しかし、男性は「口から食べたい」と訴えました。医師や栄養士と話し合い、すり潰したものからゼリー状の食べ物へと、病状に合わせて食事ののみ込みやすさを変えていくことに決めました。

 男性は亡くなる前日、「色々と面倒見てくれてありがとう」「食事に気を使ってくれてうれしかったよ」とほほ笑んでくれました。男性を看取(みと)った後、「ちゃんとやれたかな」と私も納得できたのです。

 高齢化が進む中、最期の瞬間まで患者に充足した生活を保てるよう手助けするのは大切なことです。私たちが果たせる役割は大きいと信じています。(聞き手 冨山優介)

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