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小川恵子の漢方で健康生活

yomiDr.記事アーカイブ

世界の中の漢方医学

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 WHO(世界保健機関)の統計によると、多くの先進国では70~80%の患者が何らかの補完代替医療を利用していて、そのうち漢方医学を含む植物療法は大きな位置を占めているのです。日本漢方は、中医学(TCM:Traditional Chinese Medicine)から派生したものですが、独自の発展を遂げてきました。漢方医学というと、日本国内だけで用いられていると思われるかもしれませんが、漢方医学を含む植物療法は世界で用いられ始めています。今回で、漢方ブログも最終回ですが、締めくくりとして、漢方医学を取り巻く世界の情勢をお話ししたいと思います。

ヨーロッパにおける漢方医学

 ヨーロッパでは、中医学だけではなく日本漢方に対する関心も高いのです。ヨーロッパにおける日本漢方教育機関には、既にTCMの勉強を修了した医師も多く受講するそうです。TCMは、理論を重視し、理論から薬剤処方を決定できるようになるには相当な時間と経験を要します。一方、日本漢方は、方証相対(ほうしょうそうたい)という独自の診断方法により薬剤を決定して処方します。方証相対とは、難解な理論よりは、腹診をはじめとする経験に基づく身体所見を重視し、いくつかの所見と処方をマッチさせる方法です。この方法が実際に臨床で漢方を使うには理解しやすいのかもしれません。特にドイツは伝統的に植物療法が発達しているので、中医学や日本漢方への関心や需要が高く、日本漢方を実践しているクリニックもいくつかあるのです。ドイツ人に六君子湯(りっくんしとう)を処方したところ、過敏性腸症候群の腹部症状の頻度を2週間で減少させる傾向があったという報告があります。漢方がドイツ人にも日本人に対するのと同様に効果があるということです。ドイツだけでなく、イギリス、スペイン、フランスなどにも日本漢方を実践しているクリニックがあります。昨年度より、2年に1回、日本漢方の国際学会がヨーロッパで行われるようになりました。このように、様々な国の医師たちと議論できるということは、学問の発展につながるのです。

アメリカでの漢方医学

 アメリカでは、オバマ大統領が補完代替医療、特に鍼灸(しんきゅう)を予防医学として推進する政策を打ち出しているという政治的背景もあって、関心が高まっています。民間の健康保険の中に、鍼灸・東洋医学を必ずカバーするように強制する法律の制定を目指しているとのことです。カリフォルニア州では以前から、鍼灸・東洋医学の導入に積極的で、Cedars Sinai病院などいくつかの大きな病院では既に西洋医学と併診という形で臨床に取り入れられています。ハーバード大学医学部のOsher Instituteでも鍼灸を臨床に取り入れる動きが進んでいて、臨床試験も始まっています。

 先日、サンフランシスコにある鍼灸・漢方を教える学校に見学に行きました。多くのアメリカ人が熱心に授業を受けていました。全身を診て、心身のバランスを取るという漢方医学の特長が世界的にも認められている、ということをお話しして、この回を終わりたいと思います。ありがとうございました。

 今回をもちまして、「小川恵子の漢方で健康生活」の連載は終了いたします。


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漢方ブログ_小川恵子87

小川恵子(おがわ けいこ)

愛知県名古屋市生まれ

金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 和漢診療外来 特任准教授

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