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松本サリン事件被害者・河野義行さん(2)人を恨み、憎んでいる場合ではない

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 ――特別手配犯だったオウム真理教の元信者がすべて逮捕され、一連の事件は節目を迎えました。そのことについての感想を聞かせてください。

 「警察や検察にとっては、容疑者が捕まり、裁判で有罪が確定すれば、事件が解決したということになります。その点で、事件は一区切りしたと言えますが、まだ真相解明はされていません。どうして世の中にオウム真理教という組織が生まれ、なぜこのような事件を引き起こしたのか。そして、今後、2度とこうした事件を起こさないようにするにはどうしたらいいか。そうしたことを一つ一つ探っていき、対策を取っていかなければ、本当の意味で事件が解決したとは言えません」

 ――松本サリン事件では、一時、容疑者ではないかと嫌疑をかけられ、結果的に澄子さんも亡くなりました。実行犯を恨む気持ちはなかったのでしょうか。

 「寿命は、自分で決められないものです。人生というものを考えた時、誰もが様々なリスクを背負っており、ある年代でそれにぶつかり、命を落とすということはあり得ることです。松本サリン事件に遭った時、私は44歳でした。その時、40代まで生きられたと考えるか、40代で死んでしまったととらえるか。私は、『それまでに恋愛もしたし結婚もした。子どももいる。人生の中でおいしい部分は味わってきた。ここで人生が終わってしまってもしょうがない』と考えました。生き死には自分ではどうにでもならないものです。だったら、生きている今を大事にしたいし、そうするしかありません。大事にというのは、自分にとっては楽しく生きることです。そう考えたら憎んだり恨んだりしている場合ではないと思っています」

 ――そういう気持ちになれるのは、なぜなのですか。

 「私は6人きょうだいの末っ子です。何をやっても家族にとっては影響がなかったのか、とても自由に生活していました。それだからなのかどうかわかりませんが、もともと性格が楽天的なのかもしれません。大学を卒業して会社員になってまもなく、給料で高いカメラを購入したことがありました。あるホテルで開かれた撮影会に参加した時、そのカメラを盗まれてしまったのです。その時、『カメラはまた買えばいい。深刻に悔やんで、さらに盗んだ人のことを恨んだら二重に損した気分になる。盗んだ人は、うまくいったと喜んでいるんだからいいじゃない』と気持ちを切り替えたのです。数年前も、いただいたばかりの講演料が入った財布を盗まれてしまいました。一応探しましたが、見つからない。その分、探せば時間が無駄になるし、盗んだ人にとって今日はボーナス日だったのだと思うようにしました」(続く)

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