宋美玄のママライフ実況中継
医療・健康・介護のコラム
高齢出産という「虎穴」
娘は今満9か月ですが、もう「ママ」「パパ」と言うようになりました。泣くだけでなく、「マーマー!」と呼ぶので焦って慌てて駆けつけます。早くないですか? この調子でおしゃべりになるのでしょうか。
◇
前回は、他人や施設に依存せず、「自分で産んで育てるぞ」という気構えを持ってお産に臨むのがいいということを書いたのですが、前回や前々回の記事に頂いたコメントには「満足度は医療者(のホスピタリティ)による」「マザークラスで帝王切開の人が置き去りになっている」というものがいくつかありました。
実際に現場にいると医療者のキャラクターもレベルも人それぞれですし、出産の手伝いをすることがあまりに日常になってしまっていて、至らなかったり意図せずに妊婦さんを傷つけたりする部分もあると思います。医療者に過度に頼るのはよくないですが、当然責務は果たすべきですよね。
一方で、ツイッターで「幸せなお産というものがどこかにあるはずだと思いながら、選択肢がなく普通の病院で産むのは苦しかったです。今思えば母子とも健康だし、全く普通に出産して何が悪かったんだろうという感じですが」というコメントもいただき、「どんな出産になるかは施設に依存する」という考えが根強いのだろうと感じました。
産院という「箱」によって医療の質とバックアップ体制やアメニティの違いはありますが、本人の気構えや知識を除けば出産の命運を一番左右するのは、助産師だと思います。付き添って、時には叱りながらも励まし続け、頃合いを見ていきみを促したりして出産をコントロールし、異常と判断すれば医師に知らせるのが助産師なので、妊婦にとっての出産の印象は助産師の能力と人柄に大きく影響されると思います。正常分娩の場合は特にそうです。
もちろん医師も最後のカギを握っています。「箱」じゃないんですよね、お産は。
虎穴に入らずんば虎児を得ず
先日、妊娠すれば高齢出産にあたる年齢の患者さんで体外受精を考えておられる方から、こんなお話をされました。
「1か月でも早く治療を始めた方が良いというのは分かるのですが、自分の年齢だと染色体異常児を授かる確率がそれなりに高いことを思うと、体外受精までして妊娠するということに抵抗を感じるのです。自然に病気の子供を授かったのなら育てようと思うのですが、わざわざ体外受精をしてというのは・・・」
確かに年齢と共に染色体異常児を授かる確率は上がります。35歳で約200人に1人、40歳で約80人に1人です。でも20代でもゼロではありません。その方に私はこうお答えしました。
「自然妊娠だったらいいけど体外受精だったら、と『自然』と『不自然』を区別しておられるのかもしれませんが、不妊治療も生命の誕生を完全にコントロールできるという訳ではありません。不妊治療をしても赤ちゃんが授かりものであることに変わりはありません」
不妊治療と自然妊娠を区別することにあまり意味はないのではないかという考えをお伝えしたのです。そのうえで、続けました。
「どのくらいの確率をもって、チャレンジするのをやめようと判断するかについては難しいですが、誰しも流産したり、合併症や出産の事故で母子の命を危険にさらしたり、病気の赤ちゃんを授かったりする可能性を少しは持ちながら、それでも子供を持つためにリスクを取った結果、子供を腕に抱いているのです」
例えるなら、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」。そして、病気の子供を授かることについても、考えを述べました。
「ブログにも障害児をお持ちの方々やご自身に障害がある方々から様々なコメントを頂いています。私は障害のある子供を育てることを経験していないので、日常生活で何が大変なのか、どんなことに幸せを感じるのか、本当のところを理解していないと思います。一番いけないことの一つは、何も知らないまま『かわいそうな人』などと断定することだと思います。私は、身体面ではありませんが、ある部分においてマイノリティというか、普通の人が生まれながらに当然持っているものを持って産まれませんでした。そのことについては人知れず苦労もあり葛藤もありましたが、それを持っている人に、『かわいそう』『そんなの考えられないわ』と『自分はそうじゃなくてよかった』という気持ちが見え見えに言われると、『それなりに普通に生きているし、劣っているわけじゃないんですけど』と、とても腹が立ちます。病気についても当事者の方はそんな感じなんじゃないでしょうか」
その方は虎穴に入る気持ちになってくださったようです。
欲しければ産むしかない
20歳の女性ならば「何歳で産もうかな」とある程度選択できるかもしれませんが、すでに今高齢出産の年齢の人は、もう若く産むという選択肢はないので、欲しいならリスクを取るしかありません(20歳の人だって人生は思い通りにいくものではありません。高齢出産する人も若く産むという選択肢を捨てた人という訳ではなく、若い時に産みたかったけど条件が整わず産めなかったという人も少なくないのです)。
特に今年になってから、卵子の老化やダウン症候群のことが話題になるなど、まるで世間に「女性たちよ、悪いことは言わないから若いうちに産め」と言われているようです。高齢出産は合併症が多いので周産期医療に負担をかけている、と悪者扱いされることさえもありますが、高齢出産になるのはその女性一人のせいではないし、高齢出産にもメリットがないわけではありません。なにより、35歳を超えても自分の子供が欲しければ産むしかないのです。
◇
この度、私の妊娠生活に妊娠出産の必須知識を織り交ぜた「産科女医が35歳で出産してみた」(ブックマン社)を出版しました。個人の体験ではありますが、高齢妊娠の何が辛いのか、どこまで日常生活を保てるのか、医師や助産師が患者さんに言っていることと身内に対して言うことの違いや本音など、妊娠出産の本当のところの参考にしていただければと思います。何よりも、子供は欲しいけど何かの条件が整わずに踏み出せていない人、漠然と不安を感じている人の背中を押したいという思いを込めて書きました。
日本では若年で産んでも、高齢で産んでも批判の対象にされてしまいがちです。でも、新しい家族が欲しくて産むことに変わりはないと思うのです。親になりたい人がみな、子供を得て親になっていけるよう願っています。
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高齢出産や現代生活との相関で、子宮内膜症や子宮筋腫が言われます。学会で、子宮筋腫の術後の腹腔内播種とか子宮内膜症の遠隔病変などの話を聞くとなかな...
高齢出産や現代生活との相関で、子宮内膜症や子宮筋腫が言われます。
学会で、子宮筋腫の術後の腹腔内播種とか子宮内膜症の遠隔病変などの話を聞くとなかなか難しい問題を孕んでいるなと思います。
癌などの悪性疾患ではないものの、悪性疾患のような病態を示す状態ですね。
僕自身も漫画で知ったくらいで、改めてエピソード記憶って大事だな、と思います。
これらは後天性の異所性病変と言われるものですが、先天的なものやその関連疾患を含めるとなかなか難しいですね。
人間の持つ幾重ものセーフティ機構が逆にマイナスに働く話です。
医師国家試験とかでもあまり出てこない話なので、健診でこれを疑うような患者さんに出会うとあれこれ頭を悩ませます。
できたら、内科外科と産婦人科のある病院に行ってもらうと話が早いですね。
まあ、そういった部分のスクリーニングも、これからの高度婦人科健診になってくるのでしょうか?
妊娠が発覚してからだと、診断治療のオプションが減りますからね。
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高齢でも産める人は産めます!
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私は39歳て結婚、すぐに妊娠、40歳で元気な子を出産しましたよ。今は42歳で第二子を妊娠中です。二人とも自然妊娠で、欲しいと思った時にすぐできま...
私は39歳て結婚、すぐに妊娠、40歳で元気な子を出産しましたよ。今は42歳で第二子を妊娠中です。二人とも自然妊娠で、欲しいと思った時にすぐできました。
私も卵子の老化、妊娠率の低下、ダウン症やその他染色体異常の確率の上昇など色々思い悩みましたが、案ずるより産むが易しでした。
躊躇するより、トライしてみて調べられるものは調べればいいし、そのとき不本意な結果になるかどうかは誰にもわからないことで、無意味に不安になったり悲観的になったりしなくていいと思います。「私は高齢だからダメに違いない。リスクが大きいから諦めよう」なんて思ったこともありませんでした。トライしてみよう、出生前診断など、今ある技術は使えるだけ使って安心材料にしようと思いました。結果元気な元気なー今のところー赤ちゃんを授かれて、本当に笑顔に溢れた毎日です。元気過ぎてイラっとすることもあります。若い頃だったらネグレクトしてただろうな、と思いますが、高齢な今だからこそ大人な対応ができてます。
収入も若い頃よりずいぶんあります。仕事のペースも自分にあった会社にあえて転職しておきました。高齢だからこそ下準備ができることもあります。何よりこのタイミングで産んだからこそこの子に会うことができた、と思うと情報に振り回されて諦めずに良かったと思います。
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出産直後に子供がなくなった母
みう
生む場所を間違えると我が子のように死んでしまうこともあり、助産師さんに任せるのは間違いですよ。 子供を失うことは、この世にいきる価値を失うも同じ...
生む場所を間違えると我が子のように死んでしまうこともあり、助産師さんに任せるのは間違いですよ。
子供を失うことは、この世にいきる価値を失うも同じです。お医者様が、お産は自然に任せると安易におっしゃってはいけません。
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