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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

「豊かな出産体験」て何だろう

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ベビーサークルから常に脱走したがっている娘

 娘は満9か月になりました。とにかく元気に動き回って、離乳食も以前よりもたくさん食べるようになりました。出会った人みんなに笑顔を振りまいています。その辺りは私に似たのでしょうか。

 前回の記事は「出生前診断は本来赤ちゃんをお腹の中から一人の患者として診察するというもので、みつけて中絶するためのツールではない」という内容でした。その前は3回に渡って病気の赤ちゃんを出生前診断して中絶することについてなるべく様々な観点から書かせて頂いたのですが、頂いた沢山のコメントを見ていると、中には内容を十分に理解して頂いていない方もおられるようです。

 まず、私は病気の赤ちゃんを中絶することについて「そうしても良い」とも「そうすべきでない」とも結論付けていません。考えれば考えるほど答えの出せない問題だと感じています。ですが、「宋先生は現状『出生前診断』は、NGで良いでしょうか」と白黒つけさせようとしたり、「先生が、(病気の子供の)中絶を避けたいという気持ちなのはわかります」と誤解していたりするコメントを頂き、少し面喰っています。ですので、読者のみなさんは、私が特定の結論を持って出生前診断と人工妊娠中絶について論じてきたわけではないことを改めて述べさせていただきます。非常にデリケートで難しい問題である上、私の表現力にも問題があるかと思いますが、記事をよく読んでコメントして頂けると幸いです。

「満足度スコア」によると

 現在、私は大学院で、産褥の母親を対象に研究をしています。出産のいろんな要素(分娩様式や傷など)が産後の健康(うつ、母子愛着や性機能など)にどのように影響を与えるかを調べているのです。研究計画を立てる際に「自分の出産にどれだけ満足しているか」ということを評価したくて、出産満足度を測るスコアがないか調べました。すると、国際的に使われている満足度スコアの日本語版というものは存在しないようで、国内のグループによって独自に作られたスコアがあることが分かりました。 

 似たようなものが幾つかあったのですが、そのうちの一つに「豊かな出産体験」の尺度となるものがありました。質問項目に○が多いほど「豊かな出産体験」だったというものです。出産の「豊かさ」「貧しさ」とはどういうものだろうと興味が湧きました。

 その尺度は、「お産は楽しかったですか」「お産の間は幸せな気持ちでしたか」「お産の後すぐ、また産みたいと思いましたか」などの質問項目に混じって、「自分の境界線がないような気になりましたか」「お産をしたことで知らなかった自分に出会えたという気持ちがしましたか」など、何だかスピリチュアルがかっているような質問もありました。これらの質問項目に「はい」と多く答えた方が「豊かだ」と判定されるというのは違和感を覚えます。「お産は気持ちよかったですか」という質問もあり、「めちゃくちゃ痛かった私は貧相な出産体験だったのか?」と思わされました。

「良いお産」を考えよう

 誤解を恐れずに言えば、これらの質問は豊かさを評価すると言うより、特定のお産に関する考え方を押しつけているように感じました。考えは自由でいいですが、学術的な用途に使うことには問題があると思います。豊かなお産、満足産というものは人によって捉え方が違っていいと思うのです。出産の満足度を客観的に評価し、産後の母子の健康にどう影響するのかを検証してフィードバックすることは、より良い周産期医療のために有用だと思うので、満足度を客観的に評価するスケールは必要だと思うのですが。

 皆さんはどのようなお産が良いお産だと思いますか? また出産経験のある方は、どういうことで「良いお産だった」と感じますか? 職場で助産師さんたちと「良いお産」について語り合ったので、次回はそれについて書いてみたいと思います。

※参考文献 「豊かな出演体験が母親の養育態度と学童期における子供の行動に与える影響」脳と発達 2012

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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13件 のコメント

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「豊かな出産体験尺度」について

鎌田次郎

豊かな出産体験尺度は、助産所で自然分娩体験をした産婦さんから集めたなまの感想から出発しています。「特定」個人の「考え方を押しつけた」ものではあり...

豊かな出産体験尺度は、助産所で自然分娩体験をした産婦さんから集めたなまの感想から出発しています。
「特定」個人の「考え方を押しつけた」ものではありません。
この尺度の作成の過程は、手近なものでは、三砂ちずる先生の「オニババ化する女たち」[光文社新書]からご覧ください。学術的には「助産所と産院における出産体験に関する量的研究:「豊かな出産体験」とはどういうものか?」竹原 健二・野口 真貴子・嶋根 卓也・三砂 ちづる.母性衛生 49-2、275-285、2008年など竹原健二先生のいくつかの論文をご覧ください。
私たちの研究ではどのような出産医療が「豊かな出産体験」を妨げるかを調べています。上記のコメントのようにお母さん方が自責の念をもたれないよう産科医や助産師がもっと勉強や努力をしなければならないと思っています。
ちなみに宋先生は産婦人科医として「お母さんにやさしい出産」Mother-Friendly Childbirth Initiative
の努力をなさっていますか?
「フリースタイル出産と会陰切開回避が出産時の心理体験と母乳哺育に及ぼす影響」市川 きみえ・鎌田 次郎、助産雑誌 64-5、434-441、2010-05



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スピードの比較をしないで

はねる

1児の母です。今月2人目を出産予定です。一人目のお産は、私にとっては、まさに「最悪のお産」でした。破水、微弱陣痛、鉗子分娩という経過を経て28時...

1児の母です。今月2人目を出産予定です。一人目のお産は、私にとっては、まさに「最悪のお産」でした。

破水、微弱陣痛、鉗子分娩という経過を経て28時間かけて産まれた我が子。

頭のあざを隠すのに、しばらく帽子を付けられていました。

しかし、それ以上に私を苦しめたのは、お産後の周囲の人達の質問攻めと、医師の発言でした。

出産後すぐに「難産だったのは太り過ぎだったからだ」と言われ、体重管理は頑張ったのに私が悪かったの?…と苦しみました。

また、どの人からも「お産は何時間かかったの?」と聞かれ、それが必ず、自分の出産の時との比較になり「私は4時間しかかからなかったけど」などと言われると、その度に暗い気持ちになりました。

時間がかかる=難産=ちゃんと産めないダメな母親

という気持ちになっていました。

市の検診などでも、必ず出産の経過を聞かれますよね?あれも「トラブルを抱えた症例」として見られている気がして、嫌でした。


現在の産婦人科減少に伴い、従事している方々の疲労は分かりますが、時間のかかる妊婦に対して「面倒な症例」として見ているのは伝わりました。時間の比較という認識が無くなれば、それぞれのお産の満足度はもっと変わるのではないかと思います。

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育児に前向きになれること

kame

最近、1月11日の記事にもコメントさせていただいた者ですが、私の場合、第1子:難産、疲れ切ってフラフラで退院、産後うつ、振り返って後悔しきりの悪...

最近、1月11日の記事にもコメントさせていただいた者ですが、私の場合、第1子:難産、疲れ切ってフラフラで退院、産後うつ、振り返って後悔しきりの悪いお産(後悔=「もっと早く入院させてほしかった」「自然に任せず促進剤を使ってほしかった」「もっと早く吸引してほしかった」「産後、十分休養する時間がほしかった」等々)
第2子:安産(無痛分娩)、疲れを取って元気に退院、元気に育児、振り返って満足100%の良いお産
でした。

「出産のいろんな要素」の中に、産後の入院生活のようなものまでは、含まれないでしょうか。
安産であれ難産であれ、要領よく睡眠や休養を取れる人、私のように要領悪くそれが下手な人、育児に前向きに退院できる人、疲れ切って不安満載で退院する人、いろんな人がいるでしょうし、それらは、産後の健康状態にも無関係でないような気がします。
とにかく母子とも無事に生還できれば、それがすべてではないか、という御意見も多いでしょうが、私は「最低限それには感謝するけれど、そのこと以外は、すべてとことん最悪だった」を経験したので、そうとも言い難いと思ってしまいます。
虐待事件も多発する中、産んで終わりではなく、このようなことまで考えて下さる先生がいることは、心強く思います。

私の次女は、2月生まれで無事8ヶ月になりました。今、心身とも元気で育児できるのは、長女の「悪いお産」の反省から「良いお産」をめざし、実現できたために他ならないと思っています。

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