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道免和久 兵庫医大リハビリテーション医学教授(下)後進育成 患者から学べ

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 医療の高度化で多くの命が救われるのに伴い、救命後の後遺症などから回復を目指す患者にとってリハビリの重要性は高まっている。しかし、専門医の不足など、リハビリ医療の環境はまだ整っていない。兵庫医大リハビリテーション医学教授の道免(どうめん)和久さん(51)は、「後進の指導に力を注いでいきたい」という。

リハビリ用の装具について若手医師らと議論する道免和久さん(右端)(兵庫医大病院で)=奥村宗洋撮影

 

専門医まだまだ不足

 <日本リハビリテーション医学会によると、学会認定の専門医は全国で約3000~4000人が必要と推計されるが、現在は半数程度の約1850人にとどまる>

 例えば脳卒中では、発症から180日の回復期を過ぎると、保険で認められるリハビリの時間は原則的に月4時間20分へと一気に減ります。これを超えるリハビリをする場合、医師が具体的に回復するという見通しを示さない限り、認められません。

 「どんなリハビリをすればどこまで回復できるのか」。そうした的確な見通しを立てられる専門医は、まだ少ないのです。だから、多くの患者がリハビリの継続を断ち切られています。

 <約2年前、兵庫医大の関連病院で、道免さんが診察にかかわった50代男性は、脳出血で左半身がまひし、車いすに乗っていた。直前までかかっていた病院からは「歩くことは諦めて下さい」と告げられていた>

 すぐに歩行訓練を始めてもらい、4か月後、足首の周りに短い装具を付ければ、150メートルほど歩けるようになりました。「歩けるようになるとは思わなかった」と泣いて喜んでくれましたが、医師の間でも診療レベルに大きな差があることは、患者にとって大きなマイナスです。

他の診療科から転身も

 <人材育成のため、2000年に東京都リハビリテーション病院から兵庫医大に移った。同大で輩出した専門医は27人。この10年余りでは全国有数のペースという>

 専門医を志す人には、他の診療科から移ってくる医師も目立ってきました。

 脳外科から転科してきた40代の男性医師は、脳卒中の患者を何百人も診て、毎日のように手術をしていました。しかし治療後、「患者は歩けるようになったのか」「家に戻れたのか」と、その後の状況を知ることができず、ストレスになっていたようです。

 医療の分業化が進んだことが背景にありますが、転科後は「リハビリで患者は毎日変化する。元気に元の生活に戻っていく姿を見られるのが、本当にうれしい」と喜んでいました。リハビリが「全人的医療」であることを理解してくれたのです。

新しい発見の連続

 <リハビリ医は患者から学ぶことが多い。遠方にいる兵庫医大の医局OBらを含む約30人は、インターネットなどを通じ、月1回の症例検討会を続けている>

 リハビリは対応すべき疾患が実に多様で、常に高い専門性が求められます。専門医としての力量を上げるには、症例のケーススタディーを積み、自分で経験したように吸収するのが、一番の近道です。

 専門医になって時間がたつと、患者のことを理解したと思いがちです。でもそんなことはありません。私は今でも患者の回復力に驚かされます。新しい発見の連続で、常に学ぶことばかりです。若い人にもそう伝えています。(聞き手 阿部健)

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