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心とは何か…ダンゴムシで正体探る

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 心とは何か。分かっているつもりでも、うまく説明できない。ダンゴムシを使って心の正体の解明に取り組む、信州大学繊維学部助教の森山徹さん(43)の発想は、心を理解する新しい視点を与えてくれる。

試行錯誤の姿に「個性」

ダンゴムシ

 科学的には、心の働きは、記憶や思考、判断、感情などと分類され、脳の特定部位にあるとされることが多い。だが森山さんは「日常的に使われる心という言葉の概念は科学的な定義と合致していない」と強調する。

 例えば「心を込めて贈る」「心にもない」などと言う時の「心」は、具体的な思考や感情というよりは、漠然とした「内なるわたくし」と言った方が適切だという。

 また心が脳の特定部位にあるなら、そこを事故で損傷すれば心を失うことになるはずだが、周囲の人は、その人を「心がない存在」として扱うことはまずない。

森山徹さん

 森山さんは「心は、見ることも触ることもできないし、どこにあるとも言いにくい抽象的なものだ」と指摘。そのうえで、心の本質を「抑制」だという。

 「人が何かする時、背後で多くの行動が抑えられています。表出するものはごく一部にすぎません。圧倒的に多くが抑制された、いわば『隠れた活動部位』。これこそが、心の正体だと思います」

 例えば、重要な会議に参加中なら、空腹でも食事を我慢し、背中がかゆくてもボリボリかかない。状況に応じた適切な抑制によって人間生活は営まれる。

 森山さんは、大脳がないダンゴムシでも、未知の様々な状況に置くことで、ふだんは抑制されている「隠れた活動部位」を発現させる実験に成功している。

 例えば迷路を歩かせるとダンゴムシは本来、右、左、右とジグザグに進む。ところが何度も行き止まりに当たると、変則的な方向転換を行ったり、壁を登ったりするダンゴムシが出現する。

 また水面に浮かべた円盤に乗せると危険を冒して泳ぎ出したり、2匹を背中合わせに糸で連結して動けなくなると、一方の背中に馬乗りになって移動したりするダンゴムシも出現する。

 機械なら同じ行動を繰り返すだけだが、危機的状況を脱すべく、試行錯誤するものが現れたわけだ。そこに森山さんは「心」や「個性」を認める。

 森山さんは、人間の「隠れた活動部位」を人為的に引き出す実験も行った。コップのふたの表示と中身が一致しない飲み物を何種類も飲ませた後、「これは間違いなく水です」と言って水を飲ませると、味がしないはずなのに「味がする」と答える人が現れた。ふだんは抑制された、予想外の味を確認しようとする行動が引き出されたためだ。

 こうした心についての解釈に基づけば、人の成長と心の関係も新鮮な見方ができるという。

 「子どもは成長に伴って抑制力を身につけ、一つの行動を持続できるようになります。強い心とはよけいな刺激に惑わされないこと、優しい心とは自分の行動を抑えて他人を受け入れることです。心を育むとは抑制力をつけることと言えますが、一方で、抑制を上手に解くことにより、創造的な行動が生まれます」

 自分の心のあり様を点検するヒントになりそうだ。(藤田勝)

ダンゴムシ
一般にダンゴムシと呼ばれるのはオカダンゴムシ。石や落ち葉の下など、暗く湿った所にいる。刺激を受けると体を丸める。体長は約1センチ。体色は黒。実は虫ではなく、エビやカニと同じ甲殻類。仲間には、よく似ているが体を丸めないワラジムシ、海岸にいるフナムシなどがいる。
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