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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

激論!母体保護法

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何にでも興味津々の娘

 今月から不活化ポリオワクチンが定期接種になったので、早速娘に打たせてきました。予約が殺到しているところもあるそうですが、近所の小児科は比較的余裕があり、費用も自治体が全額負担してくれてとても助かりました。残り2回も確実に打たせようと思います。

 先週の「出生前診断についてよく考えていますか」へ反響をありがとうございました。1点訂正させていただきたいところがあります。「日本では1996年に優生保護法が改正されて母体保護法になった時に、胎児の病気を理由に中絶してはいけなくなったということです。」と書きましたが、正しくは優生保護法に定められていたのは不良な子孫の出生を防止するための断種であって、病気の胎児を中絶しても良いと認められていた訳ではありません。1948年にできた法律なので出生前に胎児の病気が分かるということは想定されていなかったのです。

 胎児の病気を理由に中絶しても良いという条文を胎児条項と言います。イギリス、フランス、デンマーク、オランダなどヨーロッパ諸国にはあります。まさに「命の選別」を国が認める法律ですが、日本にはありません。法治国家である日本で、命の選別はみとめられていないのです。

 しかし、現実には行われているということは先週の記事に書きました。母体保護法に胎児条項を入れるべきかどうか、一部で議論されています。我々産婦人科医立場から見て、胎児条項がない現状では「病気の赤ちゃんを産むことで母体の健康を損なう恐れがある」と言い訳して人工妊娠中絶をしていても「胎児の病気を理由に中絶したから不法行為だ」と言われたら100%言い逃れはできないでしょう。そう考えると、胎児条項は病気の赤ちゃんを望まない親と、その中絶を手助けした産婦人科医を守る法律であるかもしれません。

 現在の法律では出生前診断は産婦人科医の義務ではありません。産科医療の現場では見逃しを恐れて超音波の所見を過剰気味に説明する傾向にありますが、妊婦に頼まれたとしても産婦人科医が望まなければ出生前診断をしなくてもいいという判例があるのです。中絶につながる出生前診断をしないという信条を持った産婦人科医の中には、中絶可能な22週未満では超音波検査をしないという医師もいるくらいです。

 もし胎児条項が出来た場合、患者側が望めば医師は出生前診断に応じなければならないでしょうし、もしかしたら病気の見逃しは「中絶する機会を奪った」として過失とされるかもしれません。また、診断可能な先天疾患を持った子供やその親は今よりも居心地が悪くなるでしょう。胎児条項ができることは単に個人の選択の幅が増えることではないと私は考えます。

 心身の病気や障害と個性は、時に線引き出来ないこともあります。どんな人も社会から「産まれてきてはいけない」と言われることのない社会はどうやって守ることができるのか、改善することができるのか。法律と社会の仕組みに意識を持つようにしたいです。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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14件 のコメント

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経験したものでないと分からない

ねこ

もうすぐ新型出生前診断の結果がでる。陽性であった場合、羊水検査をして、もしトリソミーであったら妊娠継続を断念するつもりだ。ボナペさんが書かれてい...

もうすぐ新型出生前診断の結果がでる。陽性であった場合、羊水検査をして、もしトリソミーであったら妊娠継続を断念するつもりだ。

ボナペさんが書かれているように、現実は非常に厳しい。バナペさんは、こども病棟で働かれた経験があるとのこと。現実に親とそして子供の直面する筆舌しがたい状況を目の当たりにしておられると思います。

何が幸せかって、生まれた子供全てが生まれて良かったと本人が感じるかっいうと、そうではないと思う。姪ごさんが、ダウン症だけど幸せです、と書かれていた方がいた。勿論それもありだと思うし、否定するつもりはない。




私も医療関係者で現実の厳しさ苦しさをたくさんみてきた。ダウン症のお子様をお持ちのかたの苦悩もみてきた。必ずしもどんな状況、状態でも産めば良いといものではないと思うし、正しい答えは永遠にないと思っている。

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検査なんて必要ない世の中になれば。

みーたん

検査なんて必要がない世の中。どんな障害を持ってても、受け皿があり先天性障害でも後天性障害でも困ってる人を支援し生きていける世の中であれば色んな人...

検査なんて必要がない世の中。
どんな障害を持ってても、受け皿があり
先天性障害でも
後天性障害でも
困ってる人を支援し生きていける
世の中であれば
色んな人がいて、多様性が認められる世の中ならば
そんな変な検査なんて必要ない。
変な検査を発明するより
医療での治療法を発明した方が
いいと思う。
人は死ぬまでの間に
健康で生まれたとしても
必ず体は歳とともに
不自由になっていく。
生まれてから死ぬまで
ずっと健康でいられる人は
限りなく少数だと思う。
出生前診断なんてものを発達させるより
「どんなハンディを持ってても生きてける仕組み」
を発達させてった方が
誰でも生きやすい世界だと思う。

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わたしの姪はダウン症ですが

わたしの兄にはダウン症の娘(わたしからしたら姪)がいますが、それを不幸だと思っているような言動をみたことがありません。兄嫁についても同じです。と...

わたしの兄にはダウン症の娘(わたしからしたら姪)がいますが、それを不幸だと思っているような言動をみたことがありません。兄嫁についても同じです。とても明るい家族で、家族や周りの人に愛されながら、ダウン症の子も幸せに育っているように見えます。
もちろん障害による苦労や心痛がないわけではありませんが、彼らは幸せの秘訣を知っているのだと思います。
人間はだれでも弱点や欠点(に見えること)を持っているわけですが、たまたまそれがダウン症という障害であったということではないでしょうか。他の人には他の弱点や欠点があります。それをどう受け止めたら人生を素晴らしいものと感じる事ができるか、その秘訣を会得した人たちもいるのですよ。誰でも幸せになる権利がありますし、事実、幸せになれるのだと信じています。

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