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「叱る」ためらう上司・親、パワハラ恐れ指導敬遠

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 部下を叱らない上司、子どもを叱らない親――。職場や家庭で「叱る」という行為が敬遠されるようになっている。しかし、叱ることが必要なときもあるはずだ。失敗を成長につなげるような叱り方を心がけたい。

褒めることばかり推奨

東京都労働相談情報センターでもパワハラの相談が増えている(東京・飯田橋)

 「部下の話は、きちんと傾聴するよう厳しく言われています。かつてのように、部下をどなりつけることなんて、もうあり得ませんね」

 東京都内の通信会社の課長(41)は自嘲気味にそう話す。部下がミスをしたら叱るのではなく、まずは言い分を聞く。「無責任な言い訳ばかりで腹が立つこともありますが、じっと我慢ですね。パワーハラスメントで訴えられたら大変ですから」

 IT関連企業で働く男性(39)は、叱ることがそもそも苦手。後輩が書類の書き方を間違えても、何も言わず自分で直してしまうことが多い。「嫌われてトラブルになるのも面倒。叱ってやり直させるよりも、自分でやってしまった方が早く終わります」

 日本能率協会(東京)が2009年、管理職約650人を対象に部下に対する接し方を聞いたところ(複数回答)、「どちらかといえばよく部下を叱責する」と答えたのは、5%に過ぎなかった。同協会の村橋健司さんは「叱らなくなった理由の一つがパワハラを巡るトラブルの増加」と指摘する。

 厚生労働省によると、全国の都道府県労働局に寄せられている職場の「いじめ・嫌がらせ」に関する相談数は右肩上がりに増え続けている。02年度の相談は約6600件だったが、11年度にはその約7倍の約4万6000件となり過去最多だった。

 「職場のハラスメント研究所」(東京)代表理事の金子雅臣さんは、「パワハラだと訴えられるのが怖くて、部下への指導をためらう管理職も珍しくない」と話す。

 職場だけではない。東京都が07年、20歳以上の男女約500人を対象に、子育て中の親子のマナーで気になることを聞いたところ、最も多かったのは「子どもを叱らない親」(183件)だった。

 臨床心理士で明治大学教授の諸富祥彦さんは、「職場や家庭でも、褒めることがとにかく推奨され、『叱り飛ばすことは厳禁』というような風潮が広がっている。暴力は問題外だが、部下や子どもの行動に改善すべきことがある場合、褒めるだけの指導ではなく、きちんと叱ることも必要。『君なら本当はできるはずだ』という前向きな叱り方をすればいい」と指摘する。

 叱り方にも工夫が必要になっている。社員研修などを行う「ピースマインド・イープ」社(東京)副会長の西川あゆみさんは、「叱られることに慣れておらず、ちょっとしたことで傷つく若者が増えている。感情的になって声を荒らげてはいけない」と話す。

 三菱総合研究所主席研究員の稲垣公雄さんも「叱る対象はあくまでも『事柄』であり、『人格』攻撃に陥らないようにする。ミスをしてしまったことを踏まえ、本人がやる気になるような叱り方が大切」と話す。

 間違いを叱っても、相手を否定してはいけない――この原則は子どもを叱るときも同じだ。

 元公立小学校の教師で教育評論家の親野智可等(ちから)さんは、「叱るときは、なるべく子どもを肯定する言葉を選んで使うようにするといい」という。例えば、「どうしたの? ○○ちゃんらしくない」など。親野さんは、「子を思う気持ちを言葉に乗せることが大切。愛着があるからこそ、叱っている。その気持ちが相手に伝わるといい」と話す。

暴行や人格否定は厳禁

 記者(42)も、後輩や我が子を叱るのは苦手。どう叱っていいのかわからない。

 上手に叱る方法を、職場の労働相談や社員研修などを手がけている「クオレ・シー・キューブ」社(東京)の古谷紀子さんに教えてもらった。

 「朝の会議に部下が遅刻しました。あなたが上司なら、どう対応しますか」

 古谷さんの質問に、「会議の後に、個別に声をかけて注意をします」と回答した。大勢の前で叱ることは、部下に恥をかかせパワハラになってしまうかもしれないと考えたからだ。

 しかし、古谷さんによると、職場のルールを守らず同僚に迷惑をかける場合は、みんなの前で叱ってもパワハラにあたらないという。「上司には、職場をまとめ人材を育成する役割がある。業務上必要な指導を適正に行うことまでためらってはいけません」という。

 厚生労働省の定義によると、パワハラとは「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。

 厚労省ではパワハラになりうる行為類型を六つに分けた=表=。もちろん暴行などの違法行為は「業務の適正な範囲」を超えたパワハラだ。それ以外には「業務の適正な範囲」の明確な基準はなく、個別に判断するしかなさそうだ。人格の否定、容姿や学歴など本人の努力で変えることのできないことを非難することは、パワハラになる。

 叱る際の目線や話し方についても注意された。「あごをあげて話したり、眉をひそめたり、舌打ちをしたりすると、高圧的な印象を与えてしまう。きちんと相手の目を見て、穏やかな声で、問題点を簡潔に伝えることが大切です」

 叱る目的は、相手の行動を改善すること。ただ、出来ていないことばかりを指摘すると、相手は自信を失ってしまう。そこで、古谷さんが提案するのは「三つ褒めて一つ叱る」という方法。褒めなくても、出来たことを認めてあげるだけでもいいという。これなど、職場だけでなく、家庭でも参考になる。効果的に叱るには、自分自身の気持ちをコントロールする必要があると改めて感じた。(竹之内知宣)

パワーハラスメントに当たりうる行為類型(厚労省による)
〈1〉身体的な攻撃
 暴行、傷害
〈2〉精神的な攻撃
 脅迫、名誉毀損(きそん)、侮辱、ひどい暴言
〈3〉人間関係からの切り離し
 隔離、仲間外し、無視
〈4〉過大な要求
 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
〈5〉過小な要求
 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
〈6〉個の侵害
 私的なことに過度に立ち入ること
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