カルテの余白に
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白阪琢磨 国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部長(中)患者と息長いつきあい
多くの治療薬が開発され、エイズは「感染すれば死」という病ではなく、「慢性疾患」になった。結婚をし、子どもを持つ患者もいる。国立病院機構大阪医療センター・エイズ先端医療研究部長の白阪琢磨さん(55)は、「患者とは息の長いつきあいになる」という。
外来患者の症例検討会で、スタッフと話し合う白阪琢磨さん(手前)。「チーム医療で、患者を支えていきたい」と話す(国立病院機構大阪医療センターで)=吉野拓也撮影 |
来院感染者2000人超
〈エイズ治療では、全国を8ブロックに分け、ブロック拠点病院がそれぞれ設置されている。大阪医療センターは、近畿ブロック拠点病院で、これまで来院したエイズウイルス(HIV)感染者は2千人を超える〉
死からは遠ざかりましたが、いったん感染すると体内からHIVはなくせません。生きている間は、治療薬を服用し続ける必要があります。私たちが「ああしなさい。こうしなさい」と言っても駄目で、治療情報の提供などで支援はするが、「薬を飲む」という本人の意志が大事になります。
病名自ら言いにくく
〈慢性疾患になったとはいえ、患者自らが、誰かに簡単に病名を明かすことはできない〉
仕事中、体調が悪くなっても、「エイズだと知られるかもしれない」と不安を抱え、会社に「病院へ行ってきます」と言いにくい患者が多いのは事実です。このため、うちの感染症内科では、企業が休みの土曜日も開けています。
外来と入院患者用の症例検討会も毎週開き、治療情報を共有しています。服薬がきちんとできない患者がいれば、看護師と薬剤師で話し合ったり、認知症などで在宅サービスが必要であれば、ソーシャルワーカーの知恵を借りたりします。チーム医療で患者を支えています。
結婚や出産 相談も
〈医療チームと患者との絆は強くなる。結婚や出産といった人生の相談を受けることも多い〉
エイズ感染者、患者の90%以上は男性ですから、結婚の相談の多くも男性からになります。当院にかかっている患者でも、結婚している人が10人くらいいますが、多くが男性です。
最近も20代の男性から、結婚したいと思っているという女性を紹介されました。女性も彼がエイズであることを知って、結婚を決意しています。2人とも親には言いづらいですから、頼れるのは私たちだけ。何らかの支えになりたいと思いますよね。
〈子どもを持つことも可能になり、患者の人生も広がってきた〉
子どもを作る場合、男性が陽性の場合は、精液からウイルスを取り除いて、体外受精を行います。女性が陽性の場合は、母子感染の予防のため、お母さんのウイルス量を下げておいて、帝王切開での出産になります。エイズが普通の病気に近くなってきたことを実感します。最初は恋人も作れない、結婚なんてとてもとてもという感じでしたから。お子さんの写真が送られてくる時もあります。元気に生まれた様子を見ると、すごくうれしいですね。(聞き手・秦重信)
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