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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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患者への接し方のヒント~「最強のふたり」

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9月1日(土) TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー © 2011 SPLENDIDO / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / TEN FILMS / CHAOCORP

 重い病気や障害を抱えた人と出会った時、どう接していいのか分からない――。そんな戸惑いを感じた経験のある人は、けっこう多いはずです。

 今回ご紹介する映画「最強のふたり」(2011年/フランス、9月1日から東京など全国公開)を見れば、もしかしたら「接し方」のヒントが得られるかもしれません。

 事故で首から下が麻痺した大富豪フィリップを、スラム街出身で無職の黒人青年ドリスが介護することになった。クラシックとソウル、高級スーツとスウェット、文学的な会話と下ネタ。何もかもが正反対の2人にいつしか友情が芽生え、ワクワクする冒険や予想もしないハプニングを経験していく――。

 もうこれだけで、おもしろそうな予感がするでしょう?

 実際、笑って、泣けました。しかも、実話を基にしたストーリーだから説得力がある。フランスでは10週連続興行収入第1位の大ヒットを記録し、すでにアメリカでリメークされることが決まっているそうです。

 さて、黒人青年のドリスは、教養はあまりないけど、底抜けに明るくて無邪気です。

 フィリップがベッドで寝ている時、彼の脚の感覚が本当にないのかどうか確かめるため、お湯を脚にジャーッとかける。

 フィリップに「女に関してだけど、アッチ方面はどうしてるの?」とズケズケと尋ねる。

 観客が静かに鑑賞しているオペラの2階席で、樹木の衣装を着た舞台俳優を指さして「何あれ? 変だ!」と大笑いする。

 これらの行動はどれも、常識的に考えると「失礼」です。なんだか、幼い子どもが感情のままに行動しているみたい。しかしフィリップは、こうしたドリスの行動が新鮮で心地いいみたいなのです。そしてドリスには、自然な思いやり、優しさがある。

 「ドリスには気を付けた方がいい」と忠告する親戚に対して、フィリップはこう言います。

「彼は私に同情していない。そこがいい」

 フィリップがここで言う「同情」の意味は、「共感」というよりも、「あわれみ」に近い感情のことでしょう。

 私たちが病気や障害を持つ人と接する時、ここがいちばん難しいところなのかもしれません。

 たとえば、あなたの友人のA子さんががんと診断されたとします。その日から、彼女は「がん患者」になります。

 かといって、それは彼女の一側面にしか過ぎません。彼女には会社員としての顔、妻としての顔、母親としての顔、ヨガ教室に通う女性としての顔…などなど、いろいろな部分を併せ持っています。そんな人が、たまたま、がんという病気になった。

 ならば、あなたは「がん」というマイナスのテーマには一切触れずに、これまで通り、A子さんと趣味や仕事、子育ての話だけをして付きあうのがいいのでしょうか…。

 それは不自然ですよね。

 A子さんはがんを切除する手術を受けたものの、根治したとは言い切れず、その後、念のため定期的に抗がん剤治療を受けています。

 がんのせいで彼女の生活が大きく変化し、思考のかなりの部分をがんが占めるようになったのは、間違いない事実です。

 であるならば、友人は彼女のその部分にも、自然に向き合うべきでしょう。「病気のことを聞くと失礼じゃないかしら」と考えて遠慮するのは、フィリップのいう「同情」に該当するのだと思います。

 まあ、麻痺している脚にお湯をかけるのはやり過ぎだとしても、抗がん剤の副作用のつらさとか将来への不安とか、素直に知りたいことがあれば聞いたっていい。もちろん、彼女が話したくなさそうなら、「ごめん。もうこの話はしないね」と謝ればいい。

 
マッサージを受けるフィリップ(右)とドリス。フィリップは首から下が麻痺しているので、性感帯の耳をもんでもらって「感じて」ます。© 2011 SPLENDIDO / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / TEN FILMS / CHAOCORP

 病気や障害を抱える人を、時として「遠慮」や「気遣い」が傷つけ、「無遠慮」や「あけすけのない無邪気さ」が救うこともある――。この映画を見て、そんなことを考えさせられました。

 とはいえ、あくまで映画。実話を基にしているとはいえ、かなり大げさに脚色している部分もあるかと思います。だからこそおもしろいのですけどね。。。

 最後に、この映画への不満を一つ。

 オープニング(タイトルバック)の曲は、米国のファンクバンド、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(EW&F)のご機嫌なナンバー「セプテンバー」。とてもいいのですが、対称的に、エンディングの音楽が暗すぎます。不幸な結末というわけではないのに、なぜ??

 アメリカでリメークする際は、ぜひ、同じEW&Fの曲「That‘s the Way of the World」(邦題「暗黒への挑戦」)にしてください!

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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9件 のコメント

母の慈しみから解放されて

貧しいフィリップ

27歳の自称フィリップ。まさに「アッチ方面は…」理解ある母に支えられていました。両親に責任がありわけではないのに、夢精に気づいた母が中学生のフィ...

27歳の自称フィリップ。まさに「アッチ方面は…」理解ある母に支えられていました。両親に責任がありわけではないのに、夢精に気づいた母が中学生のフィリップの苦悩を救ってくれました。

フィリップは,母に申し訳なく思いながら、そのたびに泣きました。母のハンズは父親の配慮があったようです。さすがに父には出来なかったことだと思います。

いま、サービスを受け「申し訳ないと思いながらの行為と違い、恥ずかしさも消え心ゆくまで昇天できます。

これまでの両親の慈愛をかみしめながら、心の支えになる伴侶に恵まれたいと願っています。

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両手のない障害者への「遠慮」や「気遣い」

安堵

テレビで紹介された両手が生まれつきない女性、本人の生きる姿勢にも感動したが、それを見守る母親の支え方に黒人青年のドリスを見た。彼女が一番喜んだの...

テレビで紹介された両手が生まれつきない女性、本人の生きる姿勢にも感動したが、それを見守る母親の支え方に黒人青年のドリスを見た。

彼女が一番喜んだのは、自分で身支度の全てをやり終えたときだという。下着を着けるところから、顔のメイクまで全て両足で行う。
立ったままでズボンを履くとき,ズボンの脇をフックに掛ける。吸盤の付いたフックは足を使って自由に高さを変えられる。それを与えたのは母親だ。
正装した彼女は、ドアーノブを足で開け,ハンドルの上に足を乗せ颯爽と出かけていった。パソコンのキーも健常者と変わりなく打てる。

これは想像だが,女性としての欲望も健常者と何ら変わりなく,自らの工夫で満足していると思う。

母親は彼女の行動を見守るだけで手伝おうとはしない。「遠慮」や「気遣い」をしない生き方にほっと安堵しているものです。

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1回の放出、¥3500

めざめたじいさん

「女に関してだけど、アッチ方面はどうしてるの?」これまで見た映画の中で、こんなにあからさまに性慾を持ち出したのを見たことがない。障害者が抱える最...

「女に関してだけど、アッチ方面はどうしてるの?」

これまで見た映画の中で、こんなにあからさまに性慾を持ち出したのを見たことがない。障害者が抱える最大の悩みだそうだ。

坂爪真吾著「セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱」に、社団法人ホワイトハンズのサービス「射精介助」を取り上げている。

数日前のA紙にも大きく障害者の性慾処理が取り上げられていた。介護士を目指す男性も女性も、これまでタブーとされてきた障害者の性慾処理、射精介助の技能を学んでいる。

健常者であれば、他人に気づかれないように密かにしている行為が、障害者によっては出来なかったのだ。それを口に出すこともはばかられ、辛い生活を送っていた。それが1回3500円でサービスを受けられるという。日本でもようやく見直されてきた問題。

映画の中で「フィリップは首から下が麻痺しているので、性感帯の耳をもんでもらって『感じて』ます」と、ある。見逃されていた世界に光を当てた制作者に拍手。

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