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医療部発

コラム

うつ病予防にマインドフルネスが効くわけ

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 マインドフルネスで行う「観察すること」は、心のコントロールにどんな効果があるのでしょうか。

 たとえば、ある専業主婦の女性が、会社から帰ってきた夫から「部屋が汚いなあ。もっときれいにしろよ!」と強い口調で言われたとします。

 女性は、「私だって頑張ってるのに、そんな言い方はないんじゃない?」と腹が立ちます。

 これは、普通の、ごく自然な「心の反応」です。場合によっては、言葉に出して夫に反論するかもしれません。

 しかし人によっては、心の反応はこれだけでは終わらないかもしれません(特に、うつ傾向のある人は)。

「そういえば、前にも夫は、私が作った食事に文句を言ったわ」

「夫はほんとに嫌なヤツだ。私は何でこんな男と結婚したんだろう」

「だけど、そもそも私って主婦に向いていないのかもしれない」

「私ってそんなにダメな女かしら」

「隣のAさんはなんだかすごく幸せそうだ。なのに、私はいつも気分がすぐれないし、夫は冷たいし、全然幸せじゃない」

「子どものころ、ママは私にだけ厳しかった。弟ばかり甘やかして…。もっとママに甘えたかったな」

「よく考えると、私は幼いころから不幸な人生を歩んできた。つらいことばかりだ」

「もう嫌になってきた。この世の中から消えてしまいたい…」

 こうしたマイナスの感情が、勝手に次から次へと湧いてきます。けっして自分の意思で、考えようと思って考えているわけではありません。まるで脳が自動操縦しているかのように、どんどんマイナス感情に襲われ、何も抵抗できずに「ネガティブな感情の渦」に巻き込まれてしまう。こうして最後は、うつ状態に陥ってしまうわけです。

 マインドフルネスの訓練を積めば、夫の言葉に対して「私だって頑張ってるのに、そんな言い方はないんじゃない?」と心が最初に反応した時点で、「あ、いま私は怒っている」と気づきます。

 体の感覚、たとえば、胸に広がる嫌なもやもや感や、顔にカーッと血液が集まる感じ、胃に広がる不快感を、静かに観察します。

 そして、怒っている感情にも意識を向け、観察します。

 この時、「怒ってはいけない」とか「こんな時こそ頑張って笑おう」などという無理はしません。怒りの感情を否定せず、ただ、淡々と、そのまま見つめるのです。

 すると不思議なことに、怒りの感情が次第に薄らいでいきます。もう1人の自分が、自分の心や体を静かに見つめること(これを「脱中心化」と言います)で、そこから先の「マイナス感情の連鎖」を断ちきることができるのです。

 こうなればもう、しめたもの。なぜ自分が不快に感じたかを冷静に見つめたうえで、感情的にならずに自分の言い分を相手に主張することもできます。

「仕事から疲れて帰ってきたのに、部屋を片づけていなくてごめんなさい。悪かったわ。でも、私も今日は授業参観に行ったり、庭の手入れをやったりして疲れていたのよ。そこのところは理解してちょうだい」

 まあ、それぞれの夫婦の歴史や関係性は多種多様なので、これが適切な反応・対応かどうか一概には言えませんが、少なくとも、相手の言い分を受け止めつつ、自分の言いたいこともきちんと伝えることができるようになるはずです。

 とはいえ、もう1人の自分が静かに思考や感情を観察するのは、簡単なようで、これがけっこう難しい。

 だからこそ、マインドフルネス認知療法では、日ごろから3分間呼吸空間法や、座る瞑想、歩く瞑想、ヨガなどを使って、呼吸や体の感覚、感情、思考に意識を集中させて観察する訓練を続けるわけです。

山口博弥(やまぐち・ひろや)
1997年から医療情報部。胃がん、小児医療制度、高齢者の健康、心のケアなどを取材してきた。自称・武道家。

 山口博弥記者が担当した連載「医療ルネサンス[シリーズこころ]マインドフルネス」は、下記のリンクからご覧になれます。

 (1)うつ病治らず新治療へ

 (2)嫌な感情を受け入れる

 (3)DV被害の母子をケア



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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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