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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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モハメド・アリの生き様を見よ!

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 ボクシング元世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリ氏(米)が2016年6月3日(日本時間4日)に亡くなりました。追悼の意を込めて、過去のコラムを掲載いたします。(ヨミドクター編集部)


 
© MMIX NETWORK FILMS INC. 8月25日(土)より、渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマほか、全国順次公開

 今日はボクシング界のカリスマを取り上げたドキュメンタリーを紹介します。

 「フェイシング・アリ」(2009年/米国・カナダ、8月25日公開)。「ボクシング界の神」と称され、世界ヘビー級王座を3度獲得したモハメド・アリのドキュメンタリーです。

 彼は、それまでのパワー偏重のヘビー級ボクシング界に、「蝶のように舞い、ハチのように刺す」と形容された華麗なステップとスピードで革命をもたらしました。

 試合前には対戦相手を思いっきり挑発し、自信満々の発言を繰り返す。それをマスコミがおもしろがって取り上げました。

「俺は1月17日で21歳になる。予言しよう。1963年には、最年少の世界王者になる。(今度対戦する)クーパーは、リストンを倒すための肩慣らしさ」

「俺は世界の王だ。俺は最高。俺は偉大だ。世界を揺るがした」

「あいつは不細工だね。世界王者は俺ぐらいハンサムじゃないと」

 私がアリのことを知ったのは、ジョージ・フォアマンに勝利して王座に返り咲いた1974年ごろ。当時、小学6年生だった私は、あまり彼のことが好きじゃありませんでした。ボクシングや格闘技の世界での「ビッグマウス」は今でこそ珍しくありませんが、あのころの私は、「何てえらそうで、嫌なやつだ」と感じていたのです。

 しかし大人になってからは、彼の魅力を再認識しました。

 まず、ボクシングのスタイルがかっこいい! 武道を趣味としている私から見ても、あのフットワークはとても参考になります。

 そして、彼の生き様。知れば知るほど、ひかれてしまいます。

 彼は18歳の時(1960年)、ローマ五輪で金メダルを獲得。しかし帰国後、故郷のケンタッキー州のレストランで相変わらず人種差別に遭い、金メダルを川に投げ捨てます。

 22歳でイスラム教に入信し、デビュー当時の名前「カシアス・クレイ」からモハメド・アリに改名。

 25歳の時に徴兵を拒否。ボクシング・ライセンスを剥奪され、チャンピオンの認定を取り下げられます。この時、彼はこんな発言をしています。

「入隊についての答えはこうだ。俺は行かない。なぜ黒人と呼ばれる俺が1万6000キロも離れた土地に行って、罪のない有色人種の頭上に爆弾を落とす必要がある?」

「どんな刑罰を受けても、自分の信仰は揺るがない。たとえ銃を突きつけられても」

 どうです? しびれませんか? ただのビッグマウスではなく、彼は信念の人なのです。

 映画は、アリの昔の貴重な映像の数々と、彼と戦ったボクサーたちの証言で構成されています。

 ジョージ・フォアマン、ジョー・フレージャー、ラリー・ホームズ、レオン・スピンクス……。ボクシングファンをうならせる、そうそうたる顔ぶれです。

 この映画がおもしろいのは、彼らに単にアリのことを語らせるだけではなく、彼ら自身の生い立ちやボクシングへの思いなども丁寧に聞いているところです。

 自分の人生がアリの人生と交錯したことで、彼らがどう変わり、今、どういう人生を歩んでいるのか――。それらを浮き彫りにすることで、アリという人物の大きさや影響力が間接的に伝わってきます。そして、アリについて語る時の老ボクサーたちの表情が、これまたいいんですよ。

 
© MMIX NETWORK FILMS INC.

 アリは40代前半で手足の震えや言語障害が目立ち始め、神経難病の「パーキンソン病」と診断されます。それでも1996年のアトランタ五輪では、聖火ランナーの最終走者として震える手で聖火台に点火し、世界中に感動を与えました。

 そして先日閉幕したロンドン五輪では、16年ぶりに開会式に登場、五輪旗を運ぶ大役も務めました。テレビでご覧になった方も多いでしょうね。

 医学の進歩は、多くの病気を治せるようになりましたが、治せない病気もいまだに少なくありません。パーキンソン病もその一つ。でも、症状を抑え、進行をくい止める薬は開発されており、病気との共存が可能になってきました。国内でも近く新薬が発売され、治療の選択肢が増えます。

 モハメド・アリは現在、70歳。パーキンソン病を発症して30年近くたった今でも、元気な姿を世界中に示すことで、同じ病気の人を励まそうとしているようにも見えます。もしかしたら彼は心の中で、その昔、対戦相手に言った次のセリフを、病気にもぶつけているのかもしれません。

「俺を打ち負かす夢でも見たんなら、目を覚まして俺に謝りな!」

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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2件 のコメント

変わらぬ信念

墓参してきた

自分の信念はあてにならない事が多いです。だから所作とか鍛錬といわれるものを信じます。思いの世界は、苦しい、楽しい程度だし、喜怒哀楽というそれだけ...

自分の信念はあてにならない事が多いです。
だから所作とか鍛錬といわれるものを信じます。
思いの世界は、苦しい、楽しい程度だし、喜怒哀楽というそれだけの世界。

その世界から出てみると考えって変わります。
感情のない世界。
たとえば、文献とか。
どんな喜怒哀楽を変えてみても、一文字も変わらないけど、気分次第で喜怒哀楽が変わる。
存在する文献すべてにいえると思います。
本は感情をもっていないので本になりたいと思う事もしばしばです。
欲深いのが人間のいいところ。
無ければ欲しい、有ればもっと。
きりがない。

我こう聞けりといった雰囲気の今回のブログはいいですよね。自分の信条より、彼らという第三者の人生を垣間見ると同時に未来はまたくると言った感じでもあります。
新薬等の開発、治療法の変化、目が話せ無いです。

でも昔ながらの医療もいいものです。
その混在の比率が人生をよりいいものだったと感じさせてくれるているんだと実感しています。

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病と共に生きる勇姿

ハル

聖火台に振るえながら点火するアリの姿、鮮明に覚えています。この時にパーキンソン病を知りました。そして、70歳を超えてロンドン五輪の閉会式で旗を持...

聖火台に振るえながら点火するアリの姿、鮮明に覚えています。この時にパーキンソン病を知りました。そして、70歳を超えてロンドン五輪の閉会式で旗を持つほどのお元気な姿を見せていたとは驚きです。
同じ病を持つ世界中の人々に勇気と希望を与えたことは間違いないでしょう。
心の持ち方もまた解明されていない病に、関係してくるのかもしれませんね。
病と共に生きるアリの勇姿を観たくなりました。

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